165 / 842
修学旅行
2
しおりを挟む冷たく整った顔は、肌がいつにも増して白く透き通っている。
……今にも死んでしまいそうに思えるほど、血の気が引いてるように見えた。
反応が鈍い。
蒼自身、どうして自分がここにいるのかわかっていないのか、彼は考えるように瞼を伏せ、少し首を傾げた。
その間にも冷たい水が肌を刺すように重く、身体に打ち付けてくる。
最早、巨大な氷を空の上から投げつけられているように感じるのに。
彼はまるで感情を置き忘れた人形のように、表情を全く浮かべようとしなかった。
「とりあえず、中に入ろう…?」
状況は把握できないけど、蒼をこんなところに放っておくことなんてできないし、すでに冷たくなっている腕を掴んで、部屋に入ろうと促す。
彼は相変わらず生気のない顔のまま、酷くゆっくりした動作で頷いた。
バンッ。
「…(重…っ)」
蒼を家の中に入れて、強風のせいでいつもより重い扉を音を立てて閉める。
厚い板を一つ挟んだことで、外の音が小さくなった。
多少はドアを叩く雨の音が聞こえるけど、大分遠ざかったように思う。
とりあえず蒼を避難させることができて、ほっと息を吐く。
(あのままだったら、絶対に風邪引くところだった…)
タオル持ってくるべきか、お風呂に入ってもらうべきかと悩む。
少し悩んだのち、なんとなく気まずいような静寂を入浴をすすめることで打ち破ろうと振り返った。
…いや、振り返ろうとして。
後ろから身体に回された腕にそれを阻まれた。
「…、あ、…あおい、…?」
「…っ、」
「…(震えてる…)」
密着した背中越しに伝わってくる体温と震え。
振り向こうとした瞬間、後ろから抱きしめられた。
静かな空間で首元に顔を埋めている蒼の、微かに乱れた呼吸だけが耳に届く。
肩にかかる蒼の綺麗な黒色の髪から滴り落ちる水が、おれの服を、床を濡らしていく。
目に映る、自分の家の玄関が一瞬別の場所のように思えた。
「…(え、えーっと、)」
困惑で思考が停滞する。
何故こんな状況になっているのかと困惑して目を瞬く。
身動きが取れない。
濡れた身体がおれのパジャマを濡らしている。
背中が、蒼の髪から垂れてくる雫がうなじに垂れてきて、異様に冷たい。
いや、もう充分おれもさっき出た瞬間にこれでもかってほど濡れたんだけど。
考えていた以上に、やっぱり肌に触れる蒼の身体は生きているのかと疑いそうになるほど、氷のように冷たかった。
29
お気に入りに追加
1,137
あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!


相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい
パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け
★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる