130 / 842
【記憶】
12
しおりを挟むそんなことを思い出しつつ、マフラーをただ貰うだけでは忍びないので、手袋をあげるといったら即拒否されてしまった。
なので仕方なく、手袋を半分こずつで妥協することになった。
手袋をしてない方の手で蒼くんの手をぎゅ、と握ってみる。
……やっぱり冷たいじゃないか。
「わ…、」
校舎から出た途端、身体に雪が降ってくる。
見上げると少し灰色がかった空からぱらぱらと顔の上に雪が降って冷たい。
はぁーっと息を吐けば、口から出た吐息が空気に溶けて消えていく。
わーわーと年甲斐もなくはしゃぐおれを見て、蒼くんが苦笑しているのが見えた。
……流石に今のは反省した。ちょっとだけ恥ずかしくなる。
「なんでそんなに雪が好きなの?」
「んー、ちょっと雪には思い出があるんだ」
「思い出?」と不思議そうな表情で問われ、頷いて笑い返す。
まだおれが小さかった頃、父さんと母さんと三人で雪だるまを作って、とても楽しかったのを覚えている。
それを蒼くんに笑って言えば、「そっか」と何故か少し寂しそうな顔で頭を撫でられた。
話しながら、家の前まで歩く。
いつもならそこでばいばいするんだけど。
寒いしどうせならマフラーのお礼もしたいから「家に寄っていかない?」と言えば、「いや、いい」と断られたので、「う、ん…」何もお礼を返せないと頭を垂れた。
とりあえずマフラーだけでも返そうと首からそれを解いて、彼の首に巻いていく。
どういう顔をしたらいいのかわからない、というような慣れなさそうな表情で、でも一応されるがままになってくれている。
あと、ついでに半分こしていた手袋もどうせなら両方つけていってもらおうとすると蒼くんに拒否されそうになったけど、これだけは絶対にしてほしいと無理やり押しつけた。
「赤くなってる」
「うわ…っ、冷たい。今日は本気で寒いからなー」
頬に手を当てられて、そのひやりとした感触に身震いした。
彼の頬も寒さからかほんの僅かにだけど、熱を帯びた色になっている。
「マフラー貸してくれてありがとう。今後お礼に何かするよ」
「いいよ別に」
「ううん。おれだけがしてもらうのは申し訳ないから、蒼くんがしてほしいことがあれば何でもする」
また断られようとしてしまって、却下される前に力強く断言する。
してもらってばっかりは良くない。
「何でもいいの?」
「うん」
少し思案する仕草を見せた蒼くんにそう笑って返せば、彼はおれの頬に触れていた手を首に動かした。
首筋をひんやりとした冷たい指の感触がすーっと小さくなぞる。
「じゃあ、お礼にまーくんの身体でも貰おうかな」
そんなことをふいに真剣な目つきで言う。
整った顔に感情というものを一切滲ませず、薄く整った唇に囁かれる。
蒼くんもそういう揶揄い方するんだ。意外でびっくりしたと笑って軽口で躱したかったけど、…全く冗談には聞こえない。
(……ぇ、…?)
首に触れた指に少し力が込められたような気がして、どきりと変な感じに胸が跳ねた。
「……っ、ぁ、」
本能で、謝ろうとしてしまう。
習性とは怖いもので、一度染み付いたらなかなか消えてくれない。
でも蒼くんだって本気でいってるわけじゃないだろうと思いながら、「なんでも困ったことがあったら言って」と返した。
「ごめん。意地悪しすぎた。でも、そんな顔しなくても冗談に決まってるだろ」と、やっぱり少しぎこちない笑顔だったらしいおれに、少し申し訳なさそうに柔らかく笑う。
いつもと変わらない蒼くんの態度に、ほっと息を吐く。
一瞬本気で言ってるのか、冗談で言ってるのかわからなくなってしまった。
大げさに反応しすぎてしまったと反省し、「おれがやりづらい感じにししちゃったから、謝らせてごめん」と頭を下げた。
「まーくんのそういうところ、好きだよ」
そう言って微笑む彼に、よしよしと頭を撫でられる。
子ども扱いされているようで、どうも素直に喜べない。
どういうところ?と聞けば、「そういう分かってないところ」って言われてよくわからなくて首を傾げた。
「おれも、蒼くんのこと好き」
勿論、変な意味なんかじゃないけど。
「困ったときに相談に乗ってくれて、いつもありがとう」と感謝の気持ちを込めて伝えれば、彼は一瞬驚いたような、戸惑ったような複雑な表情をして、優しく笑ってくれた。
―――――――――
嗚呼、こうやってずっと楽しくいることができたなら。
41
お気に入りに追加
1,137
あなたにおすすめの小説


「じゃあ、別れるか」
万年青二三歳
BL
三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。
期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。
ケンカップル好きへ捧げます。
ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる