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【記憶】
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しおりを挟む「俺はー俺はー?」と自分の好感度を聞いてくる依人に苦笑いして、その日は無事に終わった。
それから、何日か経った後、何故か岩永さんが酷く怯えた目で蒼くんをみるようになった。
……この前はあんなに嬉しそうに蒼くんのこと見てたのに。
蒼くんに何かあったのかと聞いてみても、「知らない」の一点張りで。
「……?」
喧嘩でもしたのかな。
結局わからないまま、まぁ、そんなこともあるんだろうと軽く考えてそのことは記憶の隅にも残らなかった。
______________
そして、二月になったある日。
その日は雪が降っていた。
雪が好きな自分は、気分が良い。
「まーくん、一緒に帰ろう」
綺麗な顔で微笑む蒼くんに、うんと頷く。
今日は依人が学校を休んだから二人だ。
蒼くんの家がどこかは相変わらず教えてくれなくて、でも方向が一緒だというから毎日登下校を共にしている。
下駄箱から靴を取り出す。
「寒いだろうから、これあげる」
マフラーを家に忘れてきてしまったおれに、蒼くんが首から外したマフラーを巻いてくれた。
ふわりとして微かに香る洗剤の凄く良い香りに一瞬惑わされかけて、急いでぶんぶん首を振った。
外そうと柔らかい生地に手をかける。
「わ、悪いからいいよ。これがないと寒いのは蒼くんだって同じだろ?」
蒼くんの身体が冷えてしまうのは嫌だと主張して断れば、緩く首を振った彼は優しく微笑んだ。
「寒そうなまーくんを傍で見てる方がどうしていいかわからなくて困るから、受け取って」
「でも、」
「俺を心配してくれてるの?」
「……そんなの、当たり前だろ」
友達を心配しないわけがない。
なんでそんな当然のことを聞いてくるんだと首を傾げれば、彼は眩しそうに目を細めて笑う。
「俺は、まーくんが使ってくれた方が嬉しいな」
「…っ、わか、った。…ありがとう」
男の自分でも心が動かされてしまうような表情に、これ以上無理に拒否するのも悪いかなと思って素直に巻かせてもらっておくことにした。
いつも蒼くんは自分のことよりもおれのことを優先しようとする。
誰かが告白をしようと蒼くんを待ってても、おれがそれを知らずに「帰ろう」と声をかければ何もないような素振りで一緒に帰ろうとした。
他にも挙げればキリがないけど、例えそれが先生からの用事でも、蒼くんは平気でおれを優先しようとする。
おれの用事がどんなにつまらないものであっても。
「……(ああ、もう。色んな人に恨まれてる気がする…)」
多分気づいている人も多いだろう。
蒼くんと一緒に帰ってる相手は、おれか依人くらいなんだから。
あとから蒼くんの誰かとの用件を妨げていたと知ってはその度に後悔する。
蒼くんに「ちゃんと先にあった用事を優先しないと」と言えば、「まーくんより大切な用事なんてない」と当たり前のように言われて、一瞬自分の方がおかしいのかわからなくなった。
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