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【記憶】
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しおりを挟む……その後、授業が始まっても皆の興奮は収まらなかった。
こそこそと何かを話す声が聞こえてくる。
それほど授業に集中できないんだろう。
まぁ、理由はわからないでもない。
「ね、りほが先に話しかけてよ」
「え、えーっ?じゃあ、休み時間になったら一緒にいこ…っ」
「近くで見るとマジでやば!色素薄いし肌綺麗だし少女漫画のイケメンみたい…っ!……実は芸能人とかじゃないよねっ?整いすぎでしょ色々!」
「一緒のクラスラッキーっ!」
でも、その騒がしい声の中に一之瀬君の声はない。
彼のもつ、独特の雰囲気。
それに気圧されて話しかけづらいらしい彼女らは、ずっと話しかける機会を狙っていたんだろうと思う。
―――――
キーンコーンカーンコーン
軽快な授業の終わりを告げるチャイムが鳴って、一気に多くの生徒が一之瀬君のところに押しかけた。
そこには、女子だけでなく男子生徒の姿もちらほら見える。
「ねーねー、一之瀬君はどこから来たの?」
「なんでこの時期に転入なの?珍しくない?」
「蒼くんって呼んでいい?」
「趣味は?好きな教科は?」
最早自分のいる場所からは人が多すぎて、一之瀬君の姿が見えない。
興味津々な表情でみんなが質問攻めにしているのを遠くから見つめる。
すごいな、なんて皆の積極力に感心している…と、
「なー、真冬」
後ろから呼びかけられて、ぽんと肩を叩かれた。
振り向けば、如月 依人(きさらぎ よりと)がにやりと満面の笑みでおれに笑いかけていた。
この笑顔は確実に碌なことを考えてない時の顔だ。過去の経験を思い出して、ため息をつきそうになりながら「何?」と尋ねる。
彼は、一之瀬君を中心とした集団に目を向けた。
「なんか、無難すぎる質問だと思わねぇ?」
「へ?」
何を言われるかと思いきや、そんな突拍子もないことを言われて首を傾げた。
「……?」
そのにやにやと不満の入り交じった視線の方向に目を向ける。
……と、先程までと同じように、「好きな食べ物は?」「嫌いなものとかある?私はね」なんて質問する声が聞こえる。
「…無難っていうか、」
流石に、いきなり突っ込んだ話はしづらいのだろう。
多分、自分も知らない人に話しかけるなら同じような質問になると思う。
和気藹々とした光景をつまらなそうに見る依人がおかしくて、思わず笑ってしまう。
「ほら、見てみろよ」
そう促されて依人の指が示す方を見れば、少し離れた場所から頬を染めつつ、ちらちらと一之瀬君のことを気にしている様子の女子生徒が何人かいた。
明らかに今一之瀬君の周りに集まっている女子よりは、強い好意を持っていそうだ。
「いっそのこと、あいつらが一之瀬にアタックしてくれればそれが一番面白いんだけどなー」
「……あはは、」
依人の不満げな、でも何かを期待している声に乾いた笑みを零す。
共感はできないけど、依人の言いたいことはわかった。
無難な質問を投げかける生徒よりは恋愛系絡みのいざこざを見たいんだろう。
そういえば依人はどろどろした人間関係とか話好きだったっけ。
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