手足を鎖で縛られる

和泉奏

文字の大きさ
上 下
117 / 602
…ただ、傍にいたかった。

13

しおりを挟む



…と、不意に視界がくらんで、身体から力が抜けそうになった。


(……え、…?)


「返事はわかってる。…俺が、まーくんに伝えたかっただけだから」

「…なん、…で…」

「…それと、1つだけ…俺からのお願い。…もう二度と、何があってもこの屋敷には絶対に来ないで」


言わなくても来たくもないだろうけど、と自嘲気味に笑う声が聞こえる。


「……ッ」


なんでそこまで、と胸が苦しくなる。
これじゃ、一方的に言われっぱなしのまま終わってしまう。


「――っ、ぁ、」


(いやだ、そんなの、嫌だ――)


心が叫ぶ。
嫌だと、そんなこと言わないでくれと声にならない声で叫ぶ。

けど、それすらも声にできないほど何故か不明瞭な意識に困惑する。

…身を離し、…空になった容器に視線を移す蒼に、確信に変わった。

(もしかして、さっきの紅茶に…何か、…)

絡めた指の感触だけが、そこから伝わってくる体温だけが、これは現実なのだと俺に告げてくる。
……繋いだ手を、離したくない。

ここで目を閉じてしまったら。

ここで眠ってしまったら、もうこの先二度と会えないような気がして、


「俺、は…ッ、」


自分でも、何を言おうとしたのかわからない。
でも、何かを伝えたくて。
このまま離れるのは、どうしても嫌で。
考えるよりも先に声を出していた。


「…ッ、おれ、は……」


(……だめだ)


だるくて、唇が動かない。

視界がかすむ。
意識が遠くなる。
瞼が重くなる。

完全に身体から力が抜ける前、
俺を見つめる蒼の顔が見えた。



「まーくん、」


「…―――――っ」



(なんで、そんな顔…)



「…ばいばい」


そう呟く彼の声に

結局何かを伝えることもできず、泥のような眠りに押し流されて

……意識を 失ってしまった。


―――――――


(嗚呼、)

(目を閉じてしまった)


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

恋人同士のマナー違反

BL / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:42

【完結】淋しいなら側に

BL / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:191

アルファな彼とオメガな僕。

BL / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:662

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:2,040

血筋の為に、女体化したら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:414

耽溺 ~堕ちたのはお前か、それとも俺か?~

BL / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:678

生涯専用おまんこ宣言♡

BL / 完結 24h.ポイント:3,196pt お気に入り:45

処理中です...