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…ただ、傍にいたかった。
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「…蒼は…、おれに、きらいになってほしい、の?」
「……さぁ。どうだろうな」
それを肯定するような、でもはぐらかすような小さな呟きに顔を上げる。
雪を見上げてそう答える蒼のそれは、いつも通りの声で。
その表情だって、別に普段通りなのかもしれない。
でも、俺には明かりが遠くて蒼の顔がよく見えないから。
そのせいだろう。
彼の顔には、影がかかっていて少しいつもと違うように感じる。
(……)
今の蒼は、ふとした瞬間によく見せる、あの見てるこっちの胸が苦しくなるような。
そんな笑みを浮かべているような気がした。
「あお、」
声をかけようとして、触れてきた手が俺の手を包み込んでくる。
その手が本当に優しくて、言おうとした言葉を思わず止めた。
「もし、それを全部思い出して、俺のことを憎んでも、殺したいって思っても、それでもいい」
「…ッ」
「…それでもいいから言っておきたかった」
「…なんで、」
そんな、今生の別れみたいなこというんだ。
許してくれなんて言わないから、と小さく続ける蒼にぎゅっと唇をかみしめる。
「今の、まーくんの俺への感情もすぐに消えるよ」
その気持ちだって薬のせいなんだから、と
そんな表情で、そう言われてしまえば、もう何も言えなくなる。
(…好きだって思う)
蒼のことが、好きだと…思う。
俺には、誰かを好きになったことがないから、これがその感情なのかもわからない。
違うモノなのかもしれない。
ただ、わからないから、本当の感情をしらないから、これがその感情だって思いたいだけなのかもしれない。
「…(…でも、)」
…でも、俺は蒼の傍にいないとだめだって思うから。
この感情も、その薬のせいだっていうのか…?
もう、自分の気持ちもわからなくなってしまった。
それでも、何かを言おうとして、唇が震える。
どうしても、何か言わないといけない。
この空気を変えないといけない。
そう思って、「あおい、」とその名を呼べば
彼は、俺の声が聞こえていないように、もう一度小さな声で「許してくれなんて言わない」と呟いた。
「だから、」
強い口調で遮られて、思わず口を閉じる。
彼が言おうとしている言葉が分かって、心が鉛を呑んだ時のように苦しい。
「だから、せめてもの償いとして、」
「………」
彼は、俺と目が合うと、綺麗に微笑んだ。
あまりにも蒼が優しく、綺麗に笑うから。
なにも、いえない。
やめて、なんて。
その先の言葉を言わないで、なんて言えない。
「今まで頑張って、耐えたご褒美をあげる」
「……ごほう…び」
きっと、それは心のどこかで俺が望んでいたこと。
でも、心のどこかでは、ずっと恐怖していたこと。
ぐっと震える拳を握った。
「まーくん」
「…うん」
静かに見上げて、こくんと頷いた。
「――俺から、解放してあげる」
「……っ、」
やっぱり。
そうは思ってても。
……覚悟はしていたはずなのに。
その言葉がうまく呑みこめない。
ごくんと唾を飲みこむ音だけが嫌な音を立てた。
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