手足を鎖で縛られる

和泉奏

文字の大きさ
上 下
56 / 784
綺麗なものに惹かれる (蒼side)

3

しおりを挟む




「……――」


重い瞼を開けると、胸元にある何かに腕を回していることに気づく。

夢から覚めたと気づくと同時に、視線を少し下に向ける。……と、目を閉じて静かに寝息を立てるその姿に安堵して、ほっと息をついた。

いつの間にか、抱きしめたまま寝てしまったらしい。

……異常なほど、怠い。
意識は覚醒しているのに、身体がうまく動かない。

その原因がわかっているだけに、苛立つ。

ふいに視線をずらし、そこにあるはずのものがないことに気づいて、思わず呼吸が止まりそうになった。
嫌な感じに鼓動が跳ねる。

(…鎖が、ない…)

無意識にその手首に視線を向けて、言葉を失った。
普段だったら絶対にやらないミスに血の気が引いて、でもいまだに腕の中にある温かみに改めて安堵する。
まーくんは、俺が寝ている間起きなかったらしい。


「……(起きていたら、)」


そんなことを考えたくもないけど。
…きっとまーくんが先に起きていれば、今頃俺はひとりだったはずだから。
存在を確かめるように、抱きしめると苦しそうに小さく呻いた。
抱きしめた瞬間、そのやわらかい綺麗な髪からシャンプーのいい香りがして。

それが自分と同じ匂いだと思うと、それだけで嬉しい。

痛いくらいの感情に、ふっと頬が緩む。
同時に目もくらむような安堵感が胸に広がって、気持ちが落ち着いた。

それから状況を整理するために、昨日の出来事をまだはっきりとしない思考で思い出しながら、脳裏に浮かんだ光景に眉を寄せた。


「…………」


まーくんが、男に襲われた。

それも、相手の男がガラスを割って入ってきたとかではなく。


(……まーくんが自分で鍵を開けた)


何故、なんて最早考えたくもなかった。

ぐ、と唇を噛んで感情をおさえようとしても、脳裏に焼き付いた光景に、微かな苛立ちに似た感情が腹の底で渦巻くのを感じた。

それでも、正気を保っていられるのは、俺の名前を呼んで、俺に助けを求めていたから。

…いつか襲わせるふりをして、助けを求める時に最初に名前を呼んでくれるかどうか試そうと思ってたけど。

意図せぬところで、その企みが実現してしまった。

でも、自分の見ていないところで勝手に誰かがそれをしたことが許せない。

そういう行為をする意図で触れたのが許せない。

まーくんに、あんなことまでさせやがって。

部屋に入った瞬間、漂ってきた匂い。ぐちゃぐちゃに涙で濡れた顔。晒されている肌と、上に馬乗りになって腰を押さえつけている男の姿。

まーくんの唇の端から顎にかけてついていた”それ”と、床に零れていた”それ”が同じもので、誰のものかなんてすぐにわかった。

その瞬間、何かがプツリと切れる音がしたのを覚えている。

詳しい状況は後で監視カメラをみればわかるけど、大体の想像はつく。


(本当に、あの時殺せばよかった)


……でも、まーくんにそんな場面は見せたくない。そういうことをする自分を見られたくない。そう考えると、今となっては良かったと思える。ただ殺すだけでは足りない。

処分方法を思索しようとして、……途中でやめた。こうして傍にいるのに、余計なことを考える時間が無駄だ。
どうせ、あの男はもう逃げられない

息を吸って、思考を切り替える。
集中するために瞼を閉じた。
今はこれからどうするかを考えなければいけない。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

処理中です...