50 / 842
蒼と”彼女”の過去
3
しおりを挟む「つ、椿様…!!この部屋に入ってはなりませんと申し上げたはずですが…!!」
「いいじゃない。蒼も見つけられたことだし」
焦ったように声を荒げるスーツ姿の男の人に、椿と呼ばれた女の人がふふ、と上品に笑みを作る。
(誰、だろう…この人)
焦っている男と、余裕そうに対応する女のひと。
スーツの男の人は、多分蒼の下で働いている人だろうとなんとなくわかった。
でも、いきなり訪れた訪問者たちがそんな会話をしていて。
状況についていけない俺はとりあえず蒼の方を向く。
……うまく悪夢を逃れることができたらしい。
何も気づいてない様子で、随分と穏やかに眠っている。
「椿様…!!」
「蒼は寝ているみたいだから、声はおさえてあげないとダメでしょ?」
しーっと口に人差し指を当てて妖艶に微笑む椿さんに、男の人は彼女に見惚れたように赤くなって、それからすぐに青ざめた。
椿さんの身体に触れるか触れないかのところで、手を宙でわたわたさせている。
本気で焦っているらしい。
「も、もし椿様を柊様に会わせたことがばれたら殺されてしまいます」
「だいじょうぶよ。蒼は私の言うことには逆らえないから」
殺されるって言葉にも驚いたけど。
さらに耳を疑うようなことをさらっという女の人に、目を瞬く。
(蒼が逆らえない…、ってどういうことだ…?)
多分、その言葉の通りなのだろう。
でも、蒼が従う相手をみたことがない自分にとって、それは信じられないことだった。
「……まぁ、蒼はしばらく起きることなんてできないと思うけれど」
蒼に視線を向けた彼女は。
小さく、でもこっちに聞こえるくらいの声で意味深にそう呟く。
状況を把握できてない自分には、何が起こっているのか訳が分からず、呆然としてそのやりとりを傍観していた。
唇に指を当てた女の人が不意に、にこりとこっちに向かって微笑む。
38
お気に入りに追加
1,139
あなたにおすすめの小説



久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!


「じゃあ、別れるか」
万年青二三歳
BL
三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。
期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。
ケンカップル好きへ捧げます。
ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる