48 / 842
蒼と”彼女”の過去
1
しおりを挟む風呂に入った後、連れていかれたのは今までいた部屋より少し小さくて、でも落ち着く部屋だった。
息を吸うと畳の匂いがして、元々こういう匂いが好きな自分にとって、居心地のいい空間。
「う、……」
嫌な夢を見ているのか、苦しそうに眉を寄せる蒼を見る。
……そんなに汗をかくほどつらい夢なのだろうか。
どんな夢を見ているんだろう。
蒼は、寝ている時大量の汗をかいて、うなされていることがほとんど毎日といってもいいくらいある。
……少しでも悪夢を見るのを逃れる助けになればいいなと思って、その頭を撫でてみる。
無意識からか、蒼は一瞬俺の手を避けるような動作をして、でもすぐにおとなしくなった。
荒い呼吸が若干マシになったようで、ちょっと安堵する。
…最後に自分が夢を見たのはいつだっけ。
そんなことを考えながら、意識は別の方向に奪われていた。
「………」
毎回思うけど、風呂に入った後の蒼の浴衣姿は色気がだだ漏れているような気がする。
若干はだけている浴衣から覗く肌がエロいだとかなんだとか言って、修学旅行の時、やけに女子が興奮していたのを思い出して懐かしいような気持ちになった。
少しだけ、気が緩むのを感じた。
……部屋に入った後、ベッドの上で俺を抱きしめたまま崩れるように眠りに入ってしまった蒼に、下手に動くわけにもいかずに、どうしようなんて困りながら、その綺麗な顔にかかった髪をよける。
浅い呼吸を繰り返す蒼の頬に軽く触れて、ふ、と息を吐いた。
よっぽど今日一日気を張っていたのか、血の気が引いたような顔をしている。
珍しく手足の鎖をつけなかった、というか付け忘れていただけなのかもしれないけど、何も重みがない自由な手足に違和感を覚えてしまう。
そう思ってしまう自分は、やっぱりおかしくて。
鎖なんてないのが普通なのに、もはやあるのが当たり前になってしまった。
(…逃げるなら、いまだ)
鎖がついてなくて、かつ蒼が眠っていることなんて、今後ないかもしれない。
…でも。
「…………、」
蒼から離れようと、その胸元に手を伸ばしかけて、やめる。
59
お気に入りに追加
1,139
あなたにおすすめの小説



久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

「じゃあ、別れるか」
万年青二三歳
BL
三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。
期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。
ケンカップル好きへ捧げます。
ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる