手足を鎖で縛られる

和泉奏

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蒼と”彼女”の過去

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風呂に入った後、連れていかれたのは今までいた部屋より少し小さくて、でも落ち着く部屋だった。

息を吸うと畳の匂いがして、元々こういう匂いが好きな自分にとって、居心地のいい空間。


「う、……」


嫌な夢を見ているのか、苦しそうに眉を寄せる蒼を見る。

……そんなに汗をかくほどつらい夢なのだろうか。

どんな夢を見ているんだろう。

蒼は、寝ている時大量の汗をかいて、うなされていることがほとんど毎日といってもいいくらいある。

……少しでも悪夢を見るのを逃れる助けになればいいなと思って、その頭を撫でてみる。

無意識からか、蒼は一瞬俺の手を避けるような動作をして、でもすぐにおとなしくなった。

荒い呼吸が若干マシになったようで、ちょっと安堵する。

…最後に自分が夢を見たのはいつだっけ。

そんなことを考えながら、意識は別の方向に奪われていた。


「………」


毎回思うけど、風呂に入った後の蒼の浴衣姿は色気がだだ漏れているような気がする。
若干はだけている浴衣から覗く肌がエロいだとかなんだとか言って、修学旅行の時、やけに女子が興奮していたのを思い出して懐かしいような気持ちになった。
少しだけ、気が緩むのを感じた。

……部屋に入った後、ベッドの上で俺を抱きしめたまま崩れるように眠りに入ってしまった蒼に、下手に動くわけにもいかずに、どうしようなんて困りながら、その綺麗な顔にかかった髪をよける。

浅い呼吸を繰り返す蒼の頬に軽く触れて、ふ、と息を吐いた。
よっぽど今日一日気を張っていたのか、血の気が引いたような顔をしている。

珍しく手足の鎖をつけなかった、というか付け忘れていただけなのかもしれないけど、何も重みがない自由な手足に違和感を覚えてしまう。

そう思ってしまう自分は、やっぱりおかしくて。
鎖なんてないのが普通なのに、もはやあるのが当たり前になってしまった。


(…逃げるなら、いまだ)


鎖がついてなくて、かつ蒼が眠っていることなんて、今後ないかもしれない。

…でも。


「…………、」


蒼から離れようと、その胸元に手を伸ばしかけて、やめる。

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