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結局、離れることなんてできない
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しおりを挟む――――――瞬間、
バキッ!
そんな鈍い音がして、瞬きをする間に目の前から男の姿が消えていた。
(…なに、が)
状況を把握できずに、とりあえず身体を起こす。
蹴り飛ばされたらしい男が、苦しそうに横っ腹をおさえて呻いていた。
「………」
「――っ、げほっ、はぁ…っ、なんで――っ、君がここに…っ」
いつの間に部屋に入ってきたのか、目の前に立つ……蒼の姿に
男は、信じられないというように目を見開いて、げほっと咳き込んで血を吐いた。
「俺の大事なまーくんに、何してくれてんの?」
「ぐっ、」
蒼はためらいもせずに、間髪を入れずに男の前髪を掴んで、膝で顔を蹴りあげる。
もがき、大きく悲鳴を上げた男は、鼻血を手で拭って、へ、へっとぎこちなく笑った。
「…ッ、蒼くん、ひどいな」
手についた血を見て、男は軽い口調で呟く。
「死ねよ」
低い声でそう呟いた蒼が、足で思い切りその局部を踏みつけた。
本来曲がるべきではない方向に強く踏まれ、踵で潰された男は甲高い悲鳴を上げる。
「――――があああッ!!」
「汚いモンをまーくんに触らせんな」
間髪いれず、男の髪を掴み、顔を上げさせては蹴る殴るをくり返す。
血が頬に飛んでも気にした様子もなく暴力を続ける蒼は、その行為とは対照的に冷たい瞳のまま一切表情を変えない。
男は与えられる痛みに幾度も絶叫を上げる。でも、冷たく見下ろす蒼に対して、何故か情欲を催しているように頬を赤らめた。身体が恐怖からか興奮からか、震えている。
「あ…は、あお、ひぐん、い、い゙ね。ぞの、表じょう…ッ、ぞくぞく、ずる…っ、」
「…気持ち悪いんだけど」
心底鬱陶しそうにそう吐き捨てた蒼は、踏み潰していた男の局部から足を離した。
そして履いていた靴下を汚いものを見るかのような目で見て、ため息をつく。
「あーあ、もうこれ使えないな」
それを床に放り捨てて男から目をそらし、座り込んでいる俺と目線を合わせるように片膝をつけた。
……黒色の髪と綺麗な顔。
それは同じなのに、でもいつもの表情は浮かんでなくて、息を呑む。
「まーくん、大丈夫?」
何の感情も浮かんでいない、彼の瞳。
それがどうしようもなく怖くて、反射的に体が震えた。
「…あお、い…」
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