23 / 842
”シアワセ”の定義
1
しおりを挟む***
…昨日言うことを聞くって言ってしまったことによって、なんだか面倒なことになった。
目の前で瞼を閉じるその綺麗な顔に、思わず逃げ出したくなる。
いつもなら絶対にしないけれど。
「…っ、ふ…っ」
蒼の肩に手を置いて身を乗り出している俺は今、自分からその唇を塞いでいた。
本当に何をしてるんだと言いたい。
昨日は色々とおかしくなってたからできたわけで、蒼に自分からキスするのなんてほとんどない。
するとしても、よほどの危機が迫ったときだけだ。
腕を動かすたびに、じゃら、と音を奏でる鎖。こんな時でさえ、手首に枷がつけられている。
(……蒼がいつもそばにいるから、逃げられるわけないのに)
…――昨日、蒼は俺との会話を全部録音していたらしい。
まさか俺が言うことを聞くって言った声を録音されていたなんて知らず。
素直に従おうとしない俺に、蒼はもし約束を守らないなら俺の高校の時の友達に録音したヤツを全部聞かすと言った。
絶対にそんなの嫌だし、困る。
ほとんど覚えてないけど、人に聞かれたら色々やばいってことはわかる。
その時の蒼の目が本気で、怖さに震えた。
やめてくれ、と震える口で呟けば、「不安に怯える顔も可愛い」なんて言われた。
蒼の思考を俺が分かる日がくることなんてきっと永遠にないんだろう。
……何をしろと言われるのかとびくびくしていたけど、意外に蒼の要望は二つだけだった。
午前中は蒼を抱きしめて、ずっと一緒に二人で話すこと。
なんだか、すごく甘ったるいような雰囲気が苦しかった。
こんなことで、満足するのかと思っていたけど、蒼がいいならこれでいいんだろう…多分。
それでも、いつもみたいに無理やり犯されるよりはマシだったから苦痛ではなかった。
……なのに、やっぱり、
話して、これで終わり――なんて、そんなわけなくて。
夜になると「自分で俺のをいれて」というご命令だった。
(いれるって)
そういうことだよな…。
つまり、勃たせるところから始めないといけないわけで…。
血の気が引く。
もう何十回も、数えきれないほど蒼とはしたけど。
(……正直言って、自分から進んでこの行為をしたくない)
…というのが本音で。
それに、自分からするということを、今までしたことなくてどうすればいいかわからない。
反抗なんてできるはずもないから、
とりあえずいつも蒼が俺にやるように、真似してみる。
なんで好きでもない相手と自分はこんなことをしているのか、なんてそんなことはもう頭がおかしくなるくらい心の中で呟いた。
どうせ、どこにも逃げられないんだから。
そう考えることで無理矢理気持ちを落ち着かせようとした。
(…それに、俺には帰る場所なんてないし…、蒼の機嫌をできるだけ損ねないようにするしかない)
一生懸命に自分のできる技術を駆使して絡めていた舌を引っ込め、口を離す。唾液を拭って躊躇いがちに見上げると、先を促すように口角を上げる蒼に、ぐ、と唇を噛んだ。
その身体を押し倒して、蒼が着ている浴衣の紐を解いていく。
二人ともさっき風呂に入ったばっかりで浴衣だった。
「……っ、」
手が震えるせいで、うまく紐が解けない。
若干そんな自分に苛立ちながら、どうにか紐を解く。
後頭部を手で押さえて引き寄せられ、軽く額にキスされた。
睨み付けると、満足げに微笑む顔。
「まーくんに襲われる日が来るとは思わなかったな」なんて、震える俺を嘲笑うかのように意地悪げに微笑むその顔から、ふいと視線をそらす。
…俺だって、したくてこんなことしてるわけじゃない。
できることなら、今すぐにでもやめたいくらいだ。
そんなこと言えないけど、言えない代わりにその唇を強く塞ぐ。
舌を絡めようとすると、ふ、と目が優しくなって舌を差し出してくる。
「…っ、ん、」
なんで蒼の舌はいつも冷たいんだろう。
俺がただ熱いだけなのかな。
なんてどうでもいいようなことを考えて、今しようとしていることから少しでも意識をそらそうとしてみる。
浴衣をすこしでも退けると視界に入ってくる、男の自分からしても羨ましいほど整った身体から目をそらした。
60
お気に入りに追加
1,137
あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!


相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい
パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け
★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる