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鳥は外の世界に夢を見る。
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「綺麗…」
目の前の光景に思わず感嘆の声が零れる。
空から降る白い雪が積もって、まるで雪の国にいるみたいだった。
部屋には大きなガラスがあって、屋敷の庭が見えるようになっている。
ずっと部屋にいる俺が少しでも気分転換できるように、わざわざこんな大きな窓をとりつけたらしい。
「外に出たい?」
「…出ていいの?」
いつもなら俺を外に出すのを嫌がるのに、今日に限って何故。
驚いて隣にいる蒼を見上げると、外に向けていた視線をこっちに向けて口端を上げて笑った。
腰をだきよせられ、額に軽くキスを落とされる。
「まーくんが嬉しそうだから」
あの学校の日以来、風呂とトイレ以外はずっとつけられていた手足の枷を外してもらう。
なんだか嬉しくて、久しぶりに自分の足で立つ感覚に自然と頬が緩んだ。
「ぁ…っ」
「…っと。いつもみたいに、お姫様抱っこしようか?」
やっぱり足の筋力が少し弱ってしまったらしい。
ふらついたところを蒼に支えられて、ふるふると首を振った。
離れて、今度こそちゃんと自分の足で立つ。
「…いい。自分で歩きたい」
せっかく自由になれたのに、この時間までそんなことされたくない。
ふぅと息を吐いて、ぺたぺたと窓まで歩いていく。
地面を踏みしめる懐かしい感触に、思わず泣きそうになる。
後ろから少し焦ったように呼び止める声が聞こえたけど、ひとりで行動できるということに浮かれていて頭には入ってこなかった。部屋が暖かいから外との気温の変化も何も考えずにガラガラと扉を開けて、ひゅううと舞い込んできた風に身を竦める。
「履くものもないし、そのままじゃ寒いから待ってて」
外に出ようとすると蒼にそう声をかけられて、ふと我に返った。
そうだった。靴履いてないんだった。
あ、と声を零すと呆れた顔をした蒼に「ほら、そこに座って」と言われて、なんだか恥ずかしくなっておとなしく座る。
持ってきてくれたらしい。
靴を地面に置いてくれる。
「これ、」
ここに来た時に履いてた靴じゃない。
新品のお洒落で高そうな履物を見て眉を寄せる。
「お姫様なんだから、ちゃんと服に合った靴じゃないとな」
「……」
お姫様って言われても、俺は男で、ましてやお姫様なんて呼ばれるタイプじゃない。
無意識に顔がこわばる。
「え、」
靴を履こうとすると、目の前の地面に片膝をつき、俺の足を下から支えるように持つ蒼に青ざめてぶんぶんと首を振った。
「いや、自分でやるって」
「お姫様は黙って履かされとけばいいんだよ」
相変わらず自分で何もさせようとしてくれないその態度にため息をついて。
丁寧に優しく靴を履かせてくれた蒼に「…ありがと…」と小さくお礼を言った。
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