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彼は籠の中の鳥
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しおりを挟む「…っ、なんで、そんなやつ…っ」
「は?」
「――…っ」
男子生徒の息をのむ音。
蒼の顔を見上げると、憎悪と侮蔑の混じった殺気を孕んだ視線で男子生徒を見ていて。
自分に向けられてるわけじゃないのに、全身から血の気がなくなるのを感じる。
(――…やばい)
これ以上怒らすと何をするかわからない。
過去にそれで病院送りにされた人を思い出して、体中の血液が逆流しているような感覚を覚える。
蒼の制服をぎゅっと掴んで、上目遣いで見上げて、震える口を必死に動かした。
自分にできるだけの精一杯の甘え方。
「あ、蒼、早く行こう。学校、案内してくれるんだろ」
「……随分可愛いおねだりができるようになったな。」
ふ、と冷たい表情をやわらかくして微笑む蒼によしよしと頭を撫でられる。
自分は間違えなかったのだと、その表情によかった、とほっと安堵の息を吐いた。
やっとこの場を離れられると、蒼の手を引っ張って校舎に向かおうとしたとき。
「真冬」
珍しく愛称ではなく名前を呼ばれて若干驚きながら振り返ると、蒼の顔がすぐ近くにあって。
声を出す間もなく、唇をふさがれた。
身体から血の気が引く。
(学校で、しかも校舎前で、こんなことするか普通――ッ)
家の中でだったら、抵抗もせずに受け入れることができる。
…けど、まさか蒼が学校でこんなことをするとは予想外だった。
反射的に胸を押し返そうとして、手首を掴まれた。
にゅるりと唇を割って入ってきた冷たいそれに、抵抗する間もなく舌を絡め取られる。
「あお…っ、い、やだ……っ、ぁ…っ」
「…ん、」
「…っ、ふぁ…っ、ぁ…ッ、は…っ」
時折開く口の間から酸素を取り入れる。唾液が零れた。ゾクゾクと腰が震えて、膝が崩れる。
唾液を舐めとった彼は地面に座り込んだ俺を見下ろして、にやりと妖艶な笑みで微笑んだ。
「続きは家でな」
行きたくて、行きたくてやっと来ることができた学校の前で。
……自分は何をしているのだろう。
―――――――
こっちを見る様々な感情のこもった視線に無性に泣きたくなった。
泣いたって、誰も助けてはくれないけれど。
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