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七話、【彼は、キスをしない】過去、番外編

6(優ver)

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―――――――――



「優さんが煙草吸うところ見たことなかったから、びっくりした。結局あれ以来持ってるのも見ないし、何か吸おうと思ったきっかけがあったの?」


流羽が首を傾げ、不思議そうな表情で俺を見上げる。
内心怯んだことをばれないように視線をそらし、「……二度と吸わない」と答えをはぐらかして、曖昧に苦々しく零した。

喫煙に興味なんか全くなかった。
どちらかといえば、嫌いの部類に入る。

幼少期の経験からも良い印象は抱いていなかったのに。


……そもそも数日前、ドラマを見たこと自体が間違いだった。

サスペンスとか、ホラーじゃない。

泥沼と化している恋愛物。

ホテルのベランダで喫煙をしていた俳優が、後ろから「寂しい」と抱きついてきた女優にキスをする。
煙草を吸った直後の吐息を混じり合わせた口づけをし、欲情した男が女を抱いて慰める。

ただの行為だとしか思わなかった。

何気ない、この題材の話でよくあるやりとり。
なのに、それを見た流羽が、『格好いい。すごい。大人だ』ってキラキラした目で話してきたから…何故か無性に苛立って、けどキスはしたくないからその行為自体を真似した、なんて恰好悪くて言えるはずもなかった。


「っ、もしかして、夏美さんが吸ってたから?」

「……」


唐突に出てきた『夏美』という女性らしい名称。
……誰、と問い返すのも面倒で何も言わずにいると、勝手に勘違いしたのかみるみる間に流羽の目に涙が溜まっていく。


「あの女優さん、すごく美人だったし、優さんの前の彼女にも似てるし、…っ、だから、や、やっぱりまだ、好…っ、」


それ以上はぽろぽろと頬を伝う涙に溺れて、言葉にできていなかった。

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