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七話、【彼は、キスをしない】過去、番外編

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頭をよしよししてもらうことに満足しすぎていて、一瞬思考がついていかない。

抱きついていた手を下ろし、少し体を離す。


「…え、」

「何?」


飄々とした態度で何事もないように俺の驚いた声に答えてくれるけど、思考が追いつかない。

優さんの形の綺麗な手がポケットから取り出した、珍しい…というか、持っているのを見たことがない『モノ』に思わず声が漏れた。


「だ、だって、それ」


夢なのか。現実なのか。

信じられずに目を瞬かせているうちに、……カチ、という音とともに灯る暗褐色の小さな火。

その、魅惑的な薄く形の整った唇の隙間に咥えられた煙草の先端から、白い煙が一筋の糸のように天井に立ち上る。

気だるげに、けれど優雅な仕草で吐息とともに煙を吐き出した彼に見惚れ、意識がもっていかれる。

が、


「…っ゛、」

「ゆ、優さん…っ、大丈夫?」


幻想的な蠱惑な情景に心を奪われたのも一瞬で。
腰を折り、苦しそうに咳き込む優さんの背中をさする。

当然のことながら、噎せている。

……というか、そうならないはずがない。

だって、前に何の話をしていたときだったかは忘れたけど、煙草を見ること自体嫌っていたはずだ。

えっと、煙草の煙にはなんとかとなんとかっていう何種類かの毒物が、とか難しい単語ばっかりで覚えてないけど、とりあえず吸う行為自体が理解できない、って感じだった。のに、だからこそ戸惑わずにはいられない。

「見ないで」となぜか視線をそらされ、意図的に俺とは別の方向に身体を向けて、その後も少し咳いていた。

どうして、とか、なんで煙草、いつから、咳大丈夫かな、とか疑問がわいてとまらないのに、声をかけることを許さない雰囲気に何も言えなくなる。

おろおろと怯えた犬みたいに様子を窺っていれば、やっと煙草の煙による体の拒否反応が落ち着いてきたらしい彼は「あー、かっこ悪…」とぼそりと自戒を零し、口元を手で覆っていた。

俯かせていた顔を上げ、まるで映画で見る男の人みたいに指で挟んだまま、投げられる視線。

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