上 下
63 / 68
七話、【彼は、キスをしない】過去、番外編

2

しおりを挟む


優さんと一緒にいるためには必要なことだってわかってたはずなのに、…わがままなことを言ってる。怒ってるかな、呆れられてるかな、と不安で仕方がなかった。
けど、頬に優しく触れている指先が、気遣うような仕草で涙をぬぐってくれる。


「そんなにしたいなら、しようか」

「…………っ?!本当、に…っ?」

「…相変わらず、流羽はわかりやすいな」



喜びを抑えきれない声に、少し戸惑ったような反応が返ってくる。
持て余すように、困ったように笑みを零した彼は、逡巡した表情を見せた。

まさか、今のは取り消されるのか、ナシになるのか、でも、でも、もしかしたらと期待してしまう。

自分でも自覚せずにはいられない。

どう考えても、彼のその言葉に深い意味なんてない。
ただ、気まぐれで言ってくれただけ。

後悔と不安で泣きじゃくっていたはずなのに、優さんの一言によってどうしようもないぐらいに今は泣きたいほど嬉しい。

それと同じ、いやそれ以上に胸が潰れて体を引き裂かれるような苦痛も不幸も、容易に与えられてしまう。


「……優、さん……」と、思わず頼りない、縋るような声が零れた。きっと情けない泣きそうな顔で見上げた俺に、彼は「嘘じゃないから、心配しなくていいよ」と頭を撫でてくれる。

頭をよしよししてくれる手の重みと感触に、ほっと安堵しながら息を吐く。



モデルとか俳優以上にスタイルが良くて、毎回見惚れるしかない大好きな優さんの身体に腕を回して、ぎゅうっとした。


「……(……ああ、もう…好きすぎる、)」


彼の整った綺麗な顔が好き。
美しい身体が好き。
さらさらな髪が好き。
息遣いが好き。
大人の男の人な雰囲気も、魅了されるうっとりするような香りが好き。
ふとした時の表情とか、ちょっと困ったように微笑むところとか、今みたいに傍に寄れば拒絶はしないで頭を撫でてくれる手とか、他にも数えきれないぐらい、全部、全部全部、


好き、好き、好き、優さんのことが、なんでこんなに好きなのかわからないくらい、大好き。


(……だから、いいんだ、他の人に抱かれても、)

そのおかげでこうして今、大好きな彼が俺を甘やかしてくれている。
2人だけの空間で、傍にいてくれる。

……それだけで、俺は充分、泣きたいほどに幸せを感じられるんだから。


と、不意に、髪を撫でてくれていた手の動きが、止まる。

それに応じて、どうしたんだろうと、俺は余韻に満たされながらも彼の挙動に半分意識を向ける。

「普通にするのもつまらないな」と優さんの声が、耳のすぐ近くでぽつりと小さく呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...