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四話、【夢か現実か】(流羽ver)

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前に公園で触ったことがある。
可愛くて、わんわん鳴いてて、抱きしめたらふわふわだった。

けど、そうやって勝手に触りに行った俺に優さんは顔には出さなかったけど、確実に良くは思ってない表情をしていて。

昨日、再び会ったその犬が、なぜか以前見た時とはまるで別の生き物のように凶暴で、襲い掛かられて、噛みつかれるんじゃないかと思うほど怖かった。二度とそばに寄りたくないぐらい、今では恐ろしい。

…まだこんなにも覚えてるのか、と頭がおかしくなってしまいそうな程に記憶や身体に刻まれている感覚に酷い嘔吐感が止まらなかった。
寒気で全身が震える。
そしてまた込み上げてきた恐怖に涙を零した。

けど、


「犬?」

「…え、…」

「…何の話?」


きょとんとした顔で、彼は首を傾げた。
まるで俺が変なことを言ったみたいに困ったような表情をして、その整った眉を垂れさせた。


「嗚呼、そうか。昨日テレビで見た犬のこと?そんなに怖かった?」

「…てれ、び…?」


小さく呟いて顔を見上げると、よしよし、もう怖くないよ。と頭にのった手が動く。
それからぎゅう、と抱き締められ、手で前髪をあげられる。念のために熱を測ろうとしたのか、こつんとおでこをくっつけられた。

すぐ目の前に彼の顔があることを意識して、ドキドキと勝手に心臓が鼓動を速くする。


「……寝る前に一緒に見たホラー映画に怖い犬が出てたから、それで嫌な夢でも見たのかな」

「…っ、ゆ、め…、…」

「…?」


(…どこから、どこまでが夢…?)


今見たものと、現実がごちゃごちゃになって、どれが本当かわからない。

詰め寄るようにして必死に聞く俺に動揺した様子もなく、ただ不思議そうに眉を寄せるその姿に、冗談を言ってるんじゃないんだとわかった。
けど、

自分の身体を抱き締めるようにぎゅっと腕に力を込め、震える。
俯くと、さらりと少しだけ伸びた前髪が目元を隠す。


「ちが、…っ、昨日、前に会った、犬がおかしくて、…っおれにぶつかって、噛もうとしてきて、押し倒されて、噛まれそうになって、怖くて、…っ、なんでか、わかんないけど、襲われそうに、なって、」


戸惑いながら、ぱくぱくと口を動かしてそんなとりとめのない言葉を吐いて、どうにかしてこの記憶の擦れ違いを正そうとする。
それでも、
優さんの表情は思い出したようなものになるどころか、ますますその顔に浮かぶ心配そうな色が濃くなった。


「疲れてるみたいだから、もう一回寝ようか」

「…っ、」


ぎゅう、と腕の中に閉じ込めるように抱かれて、頭を撫でられる。
そうやって俺をいつものように寝かしつけようとしてくれる手に、
いつもならすぐに眠ってしまうけど、今の状況ではそうしていられるはずもなかった。


「…っ、でも、でも…ッ、」


もし優さんの言うことが本当なら、自分の頭がおかしくなったのかもしれない。
そう思うと、不安で怖くて、食い下がるように首を振って涙を散らす。



「ありえないよ。そもそも、最後に公園で犬の傍を二人で通り過ぎたのは一か月以上前のことだから、流羽が昨日見たはずないし」

「…っ、いっかげついじょう、まえ…?」

「うん。それに本当に犬にそこまで怯えるようなことをされたら、何か跡が残ってるんじゃない?」


その言葉にハッとして、身体を起こす。
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