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全部、嘘だった
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しおりを挟む「は?本気とかありえねーだろ。昨日も弁当作ってきてさ、罰ゲームで付き合ってやっただけなのにマジきめー」
背中に当たる冷たい壁。
ひやりと、身体の芯から冷めていく感覚に落ちた。
…ぐらり、視界がぶれる。
「……え……?」
零した自分の声が、やけに鼓膜を刺激する。
(…『罰ゲーム』って言った…?)
確かに、そう聞こえた。聞き間違いではない。
…確かに、彼はそう言った。
今背にしている壁の向こうには、穂積がいる。
教室で、友人と話す恋人がいる。
”明日も会おうぜ。次は俺がデートプラン考えとくから。楽しみにしとけよ”
頭を撫でてそう優しく笑ってくれたのも、
”紘人といると楽しいっつーか、癒される、からさ…、俺、…男と付き合ったことないし、こんなの思うのも初めてで、けど、一緒にいたいと思う。”
照れくさそうに笑ってそう言ってくれたのも、
この二か月間…おれに向けてくれた言葉全てが、
『罰ゲーム』…だった…?
不思議と涙は出なかった。
それでも渇いた感情と、今見た、聞いた現実と、自分の心の落差で、平衡感覚を失う。
耳が、聞こえなくなれば良いのにと思った。目が見えなくなればと思う。
好きじゃないなら、最初から付き合ってくれなければ良かったのにと思った。
嬉しいと思った。楽しいと、彼といる時間が好きだと思ってしまった。幸せだと感じてしまった。
…あの瞬間の自分全てを、今すぐにでも捨て去りたいと思った。
「別れよう」
告げた言葉に迷いはなかった。
動かしにくいと思っていた頬と唇はすんなり動いた。
震えてはいない…震えない、躊躇わない、きっとこれで終われる。うまくさよならできる。ちゃんとできる、と俯いていた顔を上げる。
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