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本編
第201話 マヨイは久しぶりにやらかす。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
衛兵に案内され通されたのは前とは違う部屋だった。
中央には見ただけで分かる高級そうなソファーが足の短い木製の机を挟んで向かい合っている。会議や執務という用途ではなく、応接用の部屋のようだ。
「ソファーにお掛けになってお待ちください」
「あ、はい。ありがとうございます」
下座側のソファーに座る。想像以上に柔らかい。スプリングでも入っているのか弾むような感触もある。その感触を楽んでいるとすぐにウォルターがやって来た。前にもウォルターの側にいた男女も一緒だ。
「待たせたな!」
「いえ、こちらこそアポイントもなく申し訳ありません」
「気にするなよ。わざわざ来たということは何か相談事でもあるんだろう?」
「はい。実は──」
僕は暁とクレアの攻撃によってウォルターから下賜さられた屋敷の施設、訓練場と畑が破壊されてしまったことを説明する。
「そこそこ頑丈に設計したんだけどなー。あ、もしかして壊した子たちは神の使徒や巫女か?」
「……そうみたいですね。直接そうと聞いたわけではないですけど」
暁は使徒でも巫女でもないけれど、クレアの覚醒の名前が少し前まで弓神の巫女だった。今は弓神の後継者という名前に変わっている。
「なるほど……それは悪かったな。さすがに干渉力の高い使徒や巫女の全力に耐えられる設計にはなってないんだ。前もって伝えておけばよかったな」
「干渉力、ですか?」
攻撃力とは違うもののようなニュアンスだ。
「干渉力というのは簡単に言えば"個人の行動に付加される力"のことだな。シーリー、訓練場から抵抗球を持ってきてくれ」
「……分かりました」
ウォルターはウォルターの後ろに控えながら僕を睨みつけていた女性の護衛に指示を出した。彼女はウォルターの姪だったはず。特に話したこともないのに睨まれるっていうのは居心地が悪いね。
「悪いな。少し前にアポイントもなく訪ねてきた渡界人が領主館の前で暴れんだ。それもあって同じように訪ねてきたマヨイを警戒してるみたいだな」
「警戒するのは護衛としては当然の判断ですが、客人を威嚇するような真似はよろしくありませんな。あとで指導しておきます故、ご容赦ください」
「あ、あぁ……大丈夫ですよ。実害があるわけではありませんから」
理由があるなら仕方ない。それよりプレイヤーが迷惑を掛けたという話が気になる。エイトは街に入る段階で悪質なプレイヤーは弾かれるはずだ。それなのに何故そのプレイヤーは領主館までたどり着けたんだろう。
「そいつはアルテラ北部平原での一件でそれなりに活躍したギルドの一員みたいでな。領主からの招待状を見せられたら門番も拒絶はできなかったらしい。それ以降は招待状を持ってきた者は館に入れず入り口付近で感謝状と報酬を渡すだけにしたのさ」
「……それなら僕と会うのはまずかったんじゃ」
「いいんだよ。実際のところ、俺が全員と会うのが面倒だってだけだからな」
いいのか、イベントの報酬を支払うNPCがそれで……
まぁ……報酬の受け渡しには不都合はないみたいだからいいのか。
「お待たせしました」
「ご苦労。ここに置いてくれ」
「はい」
それからしばらく話しているとシーリーが戻って来た。その両手に抱えられている直径20㎝はありそうなピンクの球体が、ウォルターが持ってくるよう指示したレジスト・ボールというアイテムなんだろう。
机の上に置けば転がり落ちるのではないかと心配になったけれど机と接した部分が凹んだ。どうやら僕の心配は杞憂だったらしい。
そしてシーリーが手を離すとピンクをしていたレジスト・ボールが半透明になった。どういう仕組みなんだ?
「干渉力について"個人の行動に付加される力"だと説明したが、マヨイは攻撃技能が人や物に与えるダメージ量がどのように決定されるか知っているか?」
「技能の威力とステータス、そして参照される項目による補正によって算出された基礎ダメージ量から相手の耐性や防御力を差し引いた量になる……ですか?」
当たり障りのない回答だけど、こうとしか言いようがない。細かな仕様については掲示板の検証スレッドでも"ステータスに書かれていない何らかのパラメーターがある"となっていたはずだ。
「ようするに干渉力というのは今言ってくれた参照される項目の1つだな。もっとも、干渉力には大きく分けて3種類ある。まずは個人の持っている干渉力。これは個人の素質や覚醒、位階や称号によって決定される。次に攻撃技能そのものの干渉力。例えば攻撃技能を放つ場合、その攻撃の干渉力は技能そのものの干渉力と放つ者の干渉力の平均になる。そして最後が抵抗力とも呼ばれる干渉力に対する干渉力だな。これも個人の干渉力と同じく素質や技能、位階や称号によって決定される。訓練場を破壊したマヨイの仲間が使徒や巫女だと予想したのは、使徒や巫女であるだけで干渉力が大幅に上がるからだ」
「なるほど……何となく分かったよ」
[ワールドアナウンス:干渉力の情報を獲得したプレイヤーが現れました。以後、ヘルプ欄に干渉力の項目が追加されます]
これがワールドアナウンス案件だってことは。
大多数のプレイヤーの皆さん、対人イベント前にこんな情報を拡散させて本当にごめんなさい……
「で、この抵抗球は個人の干渉力を測るために俺が作った魔道具……なんだが、これはまだ試作品でな。データ集めに協力してくれるなら壊した施設は無料で直してもいいぞ」
「ちなみに実費だと幾らくらい掛かるかな?」
「詳しくは見てみないと判断がつかねぇな。でも訓練場と管理棟を修繕するなら最低でも2億は「協力する。何をすればいい?」……ははっ、ありがとよ」
何か裏がありそうだけど仕方ないよね。
こうして僕は施設を無料で直して貰う代わりにウォルターのデータ集めに協力することになった。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
この干渉力がフィールドを気安く破壊可能にしていた元凶です。
各スレッドの反応
総合スレッド「干渉力なにそれ???」
検証スレッド「たぎってきたぞぉぉおお!」
対人スレッド「……技能選び直さなきゃ……立ち回りも考え直して……うがぁぁぁぁ!!」
本編200話を記念して番外編を書こうと思います。
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