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本編
第196話 アカトキは勝ちたい。
しおりを挟む⚫︎ルイ
アカトキを狙い放たれた小次郎の攻撃が彼女の背中に命中する寸前、それまでボクに絶え間なく剣を振るっていた彼女の姿が消えた。
それによって小次郎の放った攻撃がボクを襲う。
小次郎の放った攻撃はサンダー・レイという雷属性の付与されたビームだ。威力は低いものの命中すれば高確率で麻痺の状態異常を与える追加効果を持っている。
「うっ……」
けれどボクは例外はあるみたいだけど、基本的に状態異常にならない。サンダー・レイの威力も大したことはないと分かっている。だからボクはサンダー・レイを回避するよりも姿が消えたアカトキを探すことを優先した。
「キャン!」
「小次郎!」
アカトキはすぐに見つかった。どうやら彼女はボクよりも先に小次郎を狙うことにしたらしい。しかし、小次郎にも物理ダメージを与えることはできない。
「縮地、魔力撃!」
これはチャンスだ。
ボクはアカトキの背後を取った。
ザッという訓練場の地面をボクが踏みしめた僅かな音を聞き取ったのか、アカトキがボクの接近に気が付いた。しかし、このタイミングなら縮地で逃げるよりも先にボクの魔力撃が当たる。
「うぐっ……」
結論だけを言うならばボクの魔力撃はアカトキの体力を削り切ることは出来なかった。しかし、収穫もあった。ボクが接近するまでに小次郎から攻撃を受けたことで残り5割近くまで回復していたアカトキの体力が3割くらいまで減っている。
ここまでの戦闘でアカトキは"攻撃を受けると体力を最大値の2割回復する"ことはほぼ間違いない。つまりボクの全力の魔力撃でアカトキの体力を4割ほど削れてから今の体力まで回復したんだ。
つまり、もう1度だけ全力の魔力撃を当てれば勝てる。
「小次郎、ムーブ&サポート!」
「わん!」
ボクの魔力撃を受けた衝撃でたたらを吹き飛んだアカトキゆ追撃を加えたいところだけど、中途半端な威力の攻撃では逆に体力を回復されてしまう。小次郎を引き離してボクのサポートを徹底させる。
「──たい……」
あとは魔力が最大値まで自然回復するまで耐えて魔力撃を命中させればボクの勝ちだ。
「──んだ……」
アカトキは緩慢な動きで起きあがると虚な目でボクの方を見据えた。
何か様子がおかしい。それ気がついたのは、まだ距離があるにも関わらずアカトキが剣を振りかざした直後だった。
「────」
アカトキが小さな声で何かを呟くと同時に振り下ろされた剣から放たれた白いビームが飛んできた。しかし、魔法攻撃なら回避する必要もない。
「封魔領域」
これで目の前に迫るビームを受けても問題ない。
あれ、封魔領域の効果範囲内に入ったのにビームが消えない?
[決闘に敗北しました]
「え」
こうしてボクとアカトキとの初対戦はアカトキの勝利という形で終わった。
⚫︎アカトキ
小次郎からの攻撃を上手く回避してフレンドリファイアを引き起こすことに成功した私は"ルイが麻痺状態になっている"と思い込んでターゲットを小次郎に切り替えた。
小次郎がルイの"黄金の神威"を共有していることは予想していたし事実その通りだった。しかし、テイム技能のテイムしているモンスターと技能を共有する効果には"テイマーが状態異常を受けている場合、モンスターは共有されている技能を使用できない"という弱点があるからだ。
(なんで!?)
しかし、私が小次郎を斬りつけても小次郎はダメージを受けなかった。
もしかして小次郎も物理ダメージを受けないの!?
「縮地、魔力撃!」
動揺した私の背後にルイが現れた。
魔力撃は魔力を消費して攻撃を強化する技能だったはず。小次郎から攻撃を受けたおかげで私の体力は半分近くまで回復しているとはいっても、覚醒3つ持ちのルイの(おそらくは)全力だ。耐えられるかは微妙だと思う。
「っ」
回避は間に合わない。それを悟った私はルイの攻撃が命中した瞬間、わざと足を滑らせた。宙に浮いた身体はルイの攻撃の衝撃で吹き飛ばされる。
吹き飛ばされ地面に落ちるタイミングで柔道の受け身を取る。柔道は小学校を卒業と同時に辞めちゃったけど、こんなところで役に立つなんて思っても見なかった。
「うぐっ……」
「小次郎、ムーブ&サポート!」
「わん!」
何とか耐えた私が起き上がるとルイは小次郎に指示を出して守りを固めていた。きっと魔力の自然回復を待って一気に決めるつもりなんだろう。
そして私はルイの耐性を突破できていない。今のままじゃ遅かれ早かれ負けてしまう。
そう考えた時、気がつけば私は本心を吐露していた。
「勝ち、たい……」
勝ち目はある。私のオリジナル技能"ヒゲキ"は魔法ダメージを与える攻撃技能だ。今の私のステータスがセルフサクリファイスを元の80倍まで上昇している。このステータスで放った"ヒゲキ"が命中すればルイもひとたまりもないはず。でもルイには封魔領域っていう魔法攻撃を無効にしてしまうオリジナル技能がある。
「勝つ、んだ……」
勝ち目は薄いけど、まだ負けたわけじゃない。
まずは封魔領域を使わせる。その後は効果時間が切れるまで耐え忍んでからヒゲキを連打しよう。
「ヒゲキ」
大上段に構えた剣を振り下ろしてヒゲキを発動する。
いくらルイを1撃で倒せる可能性のある攻撃とは言っても、この間のメンテナンスでダメージ倍率に修正があってセルフサクリファイスと士道《背水》は同時に使えなくなってしまったから、威力は小鬼骨堂を崩壊させた時の5分の1以下なんだよね。ちょっと不安だ。
「封魔領域!」
そしてルイは私の目論見通り封魔領域を発動してくれた。あとは封魔領域の効果時間60秒を凌ぐだけだ。
[決闘に勝利しました]
[称号:炎神の加護を獲得しました]
「ほぇ?」
なんで?
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
次話は(ギルド施設の)安否確認です。
ルイ、ここに来て噛ませ犬疑惑浮上。
これも全部プロット無視したアカトキって奴が悪いや……
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