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本編
第195話 ルイは棚に上げる。
しおりを挟む⚫︎アカトキ
「なら、勝負しよう」
気がついたらルイに喧嘩売っちゃってました。
ここで前言撤回するのは簡単だけど、それは怖気付いて逃げるみたいで嫌。それにお兄ちゃんに負けたルイには負けたくない。
「うん、いいよ」
そんな気持ちが背中を押したのか気がつけば私は勝負を受けていました。お兄ちゃんに止められていたのは試験の対戦相手だし、別に誰と模擬戦をしようと私の自由だよね。
……でも念のためクレアには伝えておかなきゃ。
『クレア、ちょっといい?』
『え、もう時間?』
『まだだよ。これからルイと模擬戦するんだけど、その間に兄さんたちがログインしたら模擬戦中だって伝えてくれない?』
『いいよー』
『ありがとう』
現実でも確認が出来るギルドチャットは使わない。
もしかしたら怒られるかもしれないもん。
「ルイ、小次郎は?」
「留守番。2対1はフェアじゃない」
「テイマーがテイムしてるモンスターを使わないって……それこそフェアじゃないよ。なんなら3対1でもいいよ?」
「知ってたの?」
「兄さんから教えて貰ったルイの技能欄にあるテイムのところに(2/3)って書いてあったんだよね。それって3体までテイムできて今は2体テイムしてるってことでしょ?」
兄さんたちがツッコミを入れなかったからスルーしてだけど、兄さんと戦った時のルイは全力じゃなかった。それは兄さんも同じだけど、やっぱり全力のルイと戦ってみたい。
「そうだけど……2体目は表に出せない」
「なんで?」
「──できないから」
「?」
「制御できないから。出しても言うことを聞かない」
「そっか、連携が取れない味方は味方じゃないもんね」
テコで暴れたっていう紫色のドラゴンと同じなのかな。あれもテイムされたモンスターだって掲示板に書いてあった。
「だから……おいで、小次郎」
「あん!」
「これでいい?」
「ありがとう!」
ルイが全力を出してくれるなら私も頑張らなきゃ!
⚫︎ルイ
訓練場に到着したボクたちは自然と距離を取った。マヨイと戦った時のように開始距離を示し合わせたりはしない。
アカトキの表情は真剣そのもの。まるで勝負はすでに始まっているのだとでもいいたげな様子だ。
[20秒後に決闘を開始します]
アカトキの動きに合わせるようにボクも動く。
小次郎がボクの背に隠れるようにポジションを調整する。小次郎の種族名はウルフ・メイジ。狼型のモンスターの中では珍しい魔術攻撃を得意にしている。もちろん接近戦が出来ないわけじゃないけれど、基本的には後衛のアタッカー兼バッファーだ。しかもボクの習得している技能の中でも特に強力な"黄金の神威"を共有している。
[10秒後に決闘を開始します]
アカトキの装備は片手剣とバックラー。魔術や魔法を使うのに必要な媒体を持っているようには見えない。つまりアカトキの攻撃手段は物理攻撃が主体だ。
しかし、アカトキには相性で優るボクに対して勝算があるらしい。たぶん彼女の勝算の裏にあるのはオリジナル技能だ。どんなオリジナル技能かは分からないけど、油断せず慎重に戦おう。
[決闘開始]
縮地はマヨイとの対戦で使ってしまっている。そしてアカトキも縮地を使えるのは知っている。縮地の使用回数だけみたらボクが不利だ。
だから試合が始まるとボクはアカトキに向かって駆け出した。
「小次郎、ゴー!」
「ワァォォォンン!!」
ボクの背後にいた小次郎が吼えた直後、小次郎はアカトキの背後に回り込むために駆け出した。それと同時にボクの移動速度も上がった。今の小次郎の雄叫びには味方全員を対象とした移動速度上昇の効果がある。
「え」
しかし、ボクは目の前の事象に驚いて足を止めてしまった。まだ攻撃も何もしていないのにアカトキの体力が減少したのだ。
すでにアカトキの体力は目算で1割を切っていた。技能のコストにしては重すぎる。そこから予想できるのはアカトキがボクの想像が及ばないほど強力な技能を発動したということ。
「小次郎、アタック!」
「ワンッッ」
小次郎の周囲に無数の魔法陣が浮かび上がり、そこから幾条もの光線が放たれる。1本1本の威力は大したことないけれど、それら全てに強力な麻痺の追加効果が備わっている。もし命中して麻痺の状態異常まで与えれば残り体力は簡単に削れるはず……だった。
「!?」
「麻痺!?」
アカトキが小次郎の攻撃を盾で受け止めた直後、アカトキの体力が僅かに減ってから大きく回復した。残り1割だった体力がもう半分近くまで回復している。
麻痺の状態異常になったアカトキに追撃を掛けたいところだけど、アカトキが体力を回復した原因が"状態異常の時にダメージを受けると体力を回復する"なんて技能だったら攻めるだけ損になる。
「やぁっ!」
でも迂闊に攻められないとはいえ攻めなければ勝てない。そう判断したボクはアカトキに斬りかかった。
──ギンッッ
しかし、ボクの攻撃は簡単に盾で防がれてしまった。
ステータスの差なのか、本来の効果時間よりも効果が短い。そしてボクの攻撃を盾で受け止めたアカトキの体力がまた回復した。今回も僅かに減ってから体力が回復したように見えた気がする。
「……ダメージを受けると回復って反則じゃない?」
「物理攻撃無効に言われたくないはぁ……」
「たしかに」
ボクの最高火力は任意の魔力値を消費して与ダメージを上昇させる"魔力撃"という攻撃技能だ。魔力を最大限消費してアカトキを1撃で倒せなければボクに打つ手はない。
どうにか隙を作って魔力撃を撃ち込みたい。
「……また体力が減った?」
体力が減った原因が分からない。技能のコストだと予想はできても肝心の技能の効果ぎ分からない。
「────いきます」
「っ!?」
アカトキはそう宣言すると物理攻撃が効かないボクに斬りかかった。ボクはアカトキの繰り出した斬撃を避けることなく、逆に反撃しようと剣を振りかぶる。
────ドンッッ
しかし、ボクの剣はアカトキには届かなかった。
ボクがアカトキの攻撃を受けて後方へ吹き飛ばされたからだ。ボクを吹き飛ばした隙を突くように小次郎がアカトキを背後から襲ったけど、残念ながら振り返りざまに剣の腹で薙ぎ払われた。小次郎はまるでトラックにでも轢かれたかのように勢いよく吹き飛ばされた。
「やっぱり。無効にするのはダメージだけで衝撃までは無効にならないんだね」
その通りだ。あくまで物理ダメージ無効だけで叩かれれば衝撃は受けるし切られれば出血する。怖くて試してなかったけど、マヨイに窒息死させられそうになったことから出血によるダメージも普通に受けてしまう気がする。
「行くよっ」
そこからアカトキによる怒涛の連続攻撃が始まった。ボクも盾で受け止めようとするけれど、アカトキの攻撃の衝撃でとてもじゃないけど全ては受け止められない。
「小次……っ、アタック!」
吹き飛ばされた状態から回復した小次郎に指示を送る。
不完全な指示でも小次郎はアカトキに向かって麻痺攻撃を放ってくれた。
これで少しは攻撃の手が緩むはずだ。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
長くなりそうだったので話を分けます。
管理棟「よかった。まだ生きてる」
ホーム「ほんとだよ」
アカトキの体力がひとりでに減っているのはセルフサクリファイスを思考発動で使っているからです。
ダメージ受けると回復するタンクvs物理攻撃にダメージ無効の神官騎士。泥試合になる予感がしかしない。
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