上 下
207 / 228
本編

第194話 ルイは手を掛ける。

しおりを挟む

⚫︎マヨイ

 ルイの試験を終わらせた僕は管理棟に戻る。
 もちろんルイも一緒だ。しかし、不本意な負け方だったのか、何やらずっと考え込んで黙ったままだ。
 正直、かなり気まずい。

「ただいま」

「おつかれさま」

 管理棟に戻ると藍香が苦笑いを浮かべながら出迎えてくれた。やっぱり勝ち方がよくなかったよね。男子高校生の僕が小学校高学年くらいのルイをうつ伏せに押し倒して首を絞めた絵面はどう見ても僕が悪者だ。

「兄さん、謝った?」

「なんで?」

 絵面的には僕が悪者だったんだろうけど、あれは試験という名の模擬戦だ。

「なんでって……そういうとこだよ、兄さん」

「アイ、僕なんか謝らないといけないことした?」

「……してないわね。でも客観的に見たら女子小学生の陰湿なイジメ現場みたいだったわよ?」

「あー、アイ?」

「シキ?」

「私たち同じ高校のクラスメイトなんだよね」

「「「「え」」」」

 以前、シキは高校生だって言ってたはずだ。そのシキとクラスメイトということはルイは少なくとも僕と同い年か年上ということになる。

「驚いた」

「来月18歳」

「高校3年生なんですか?」

「そう。マリア以外は推薦入学が決まってる」

「マリア?」

「ここに来てないクラスメイトだよ。ちょっと自己中で世間知らずなとこがあってさ。さすがに付き合いきれないから距離を取ってるんだ」

 確かシキから聞いた話だと、テコで暴走していた厄竜をテイムしていたのがマリアで、そのせいかのか分からないけれどPKから狙われるようになったんだよね。

「マヨイ。試験は合格?」

「僕は3人とも合格でいいと思う。アイたちは?」

「私もいいと思うわよ」

「私もです!」

「私もさんせー」

 暁は試験に参加出来なかったからか少し投げやりな感じだけど反対というわけではないらしい。

「というわけで3人ともよろしくね」

「ありがとう。それでさっそくなんだけどギルドのルールとかってある?」

「マヨイ、説明しないで連れて来たの?」

「あー、うん。変な配信者に絡まれてそこら辺の説明するの忘れてた」

「まったく……」

 こうして藍香の口からギルドのルールとその理由が説明された。

「──だから転移システムを利用できる11人までは人数を増やしたいのよね。もしギルドに参加させたいプレイヤーがいればギルドチャットで連絡してちょうだい」

「おっけー。テコで……というか前のイベントで知り合った人なんだけど、ギルドに参加してなくて上手い人がいるんだ。迷い家の参加条件とか教えても大丈夫?」

「いいわよ」

「どんな人なんですか?」

「前のイベントで私たちとパーティを組んでパーティランキング9位に入った人たちだよ。第1印象はナンパ野郎って感じだったけど、割と面白い人たちでさ」

「ナンパ野郎といえば、僕らもテコでナンパされたっけ」

「アンとポンとタンの3人組だよね」

「あれ、マヨイたち知り合いなの?」

「え?」

「私が誘いたいって言った人たち。アン、ポン、タンって3人組なんだけど……」

 偶然ってあるもんだなぁ……それにしてもイベントのパーティランキングで9位になったのか。僕らと会った時点では覚醒を持ってなかったはずだけど、あの後で手に入れたのかな。

「ナンパされたわ。マヨイが」

「マヨイが?」

「そう。マヨイが」

「あれナンパじゃなかったでしょ……」 

 しかも藍香はあの3人をMPKしようとしたよね。

「と、とりあえず声だけ掛けてみるね」

「分かったよ。それでこれからどうしようか」

「イベントの報酬を貰ってからアインに行くのはどうかしら?」

「イベントの報酬?」

「あ、私たちも貰ってない」

「ランキング上位に入ったプレイヤーはエイトの領主から褒賞を受け取れるはずよ。忘れてたの?」

「欲しかったものは先に手に入っちゃってたからね。何かどうでもよくなってた」

 立派なギルドホームも貰っちゃったからね。

「それじゃぁ今から行きましょうか」

「いや、時間的に昼休憩を挟もう」

「もうそんな時間?なら午後2時に集合しましょう」

 こうして僕らは昼休憩を挟んでから領主館に向かうことになった。




⚫︎ルイ


 ボクが昼休憩を終えてログインしたのは午後1時30分過ぎだった。まだギルドメンバーでログインしていたのはマヨイの妹らしいアカトキとクレアだけみたい。

「ただいま」

「ルイ……さん?おかえりなさい」

「ルイでいい」

 ボクが年上だと分かったからかアカトキはボクに敬称を付けようとしてくれたけど、何となく疎外感を覚えたボクは呼び捨てにして欲しいとお願いした。

「えっと……ルイ」

「うん。ボクもアカトキって呼んでもいい?」

「もちろん!」

「クレアは?」

「さっきの試験で何かいいアイデアが浮かんだって言ってたから工房にいるんじゃないかな」

「…………」

「…………」

「………………」

「………………」

 会話が続かない。
 シキたちもいないしどうしよう。

「……ルイは兄さんと戦ってどう思った?」

「っ……すごい簡単にあしらわれた、と思う」

「それは兄さんがルイの技能やステータスを先に高位鑑定で知ってたからだよ。もし何も知らないまま戦ってたら兄さんだって苦戦したんじゃないかな」

 技能とステータスを知られてしまうというのがこれだけ恐ろしいものだとは思ってなかった。

「アカトキもボクに勝てる?」

「分からない。でも負けないよ」

 アカトキはまるで断言した。まだ会って間もないボクに喧嘩腰になる理由は何だろう。何か怒らせるようなことを言ったかな。

「アカトキは前衛なのに?」

「うん、絶対に負けない」

「なら、勝負しよう」

 ボクは試験に参加しなかったアカトキの実力を知らない。マヨイが手加減が出来ないと言っていた意味を知らないまま、ボクは興味本位の軽い気持ちでパンドラの筐に手を掛けてしまった。

───────────────
お読みいただきありがとうございます。
書いていて気がついたら暁がルイに喧嘩売ってた。
プロットにないけど面白そうだからこのまま書きます。
大丈夫かなぁ……?
しおりを挟む
感想 576

あなたにおすすめの小説

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

処理中です...