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本編
第185話 マヨイも怒っていた。
しおりを挟む⚫︎カナデ
迷い家の訓練場は私が想像していたよりも遥かにしっかりした施設だった。そして迷い家に入るために今からここで迷い家のメンバーの1人だというクレアという女の子と模擬戦をすることになった。
「いい、勝負、しよう?」
「はい。お願いします」
緊張しているようには見えないけど、それでも何処か表情の硬い彼女からは私を嫌悪というか拒絶するような雰囲気を感じる。
[10秒後に決闘を開始します]
マヨイの妹の友達だなんて薄い繋がりで運良く迷い家に入れたアマチュアに負ける気はないけど、藍香たちが選んだ私の対戦相手が並だとは思ってない。
[決闘開始]
「(強度上昇・属性耐性付与・障壁×500)」
クレアは扱うのは相当に難しいはずの弓を持っていた。開始位置から50mくらい離れたここまで届くとは思えないけど、決闘開始早々に大量の障壁を展開する。
「消え……っ!?」
クレアから意識を逸らしてはいないはずなのに彼女の姿が何処にもない。そして次の瞬間、展開して障壁が数十枚単位で何かに貫かれ消滅した。
「(強度上昇・貫通耐性付与・障壁×500)」
予想されるクレアの戦闘スタイルは"姿を消した状態で遠距離から不可視の貫通攻撃を放つ"という反則じみたものだ。
私が努めて冷静に貫通対策を施した障壁を展開すると、すぐに追加で展開した障壁から何かが当たったような音が聞こえた。
そちらに視線を向けると1本の矢が障壁に突き刺さっていた。貫通対策をしてこの有様ということは貫通耐性を抜けるほどの付与がされているか、単なる力負けか、その両方という可能性は考えたくない。
「……障壁に当たると、見える?」
後方に目をやると1本目の矢が地面に落ちていた。
どうやら彼女の放つ矢は何らかの衝撃を受けると……いえ、ダメージを受けると透明でなくなるのかもしれない。
「(攻撃威力調整+100%・ホーリーレイ×15000)」
この手の強力な技能の再使用時間は総じて長い。
ダメージを受けて透明化が解除されれば後は回避行動に専念しつつ──
「かは……ッッ」
そこまで思考したところで私は背後から喉を何かに貫かれた。後ろを振り返らなくても分かる。これは致命傷だ。私は背後からの衝撃そのままにうつ伏せに倒れ込んだ。
⚫︎シキ
モニターの向こう側で行われた模擬戦の内容を私は全く理解することが出来なかった。何せ始まったのと同時にクレアちゃんの姿が消えた。そして次に姿を見せたと思ったら、それと同時にカナデは地面に倒れてしまった。
「テレポート?」
「似たようなものだけど違うよ」
ルイの呟きを拾ったマヨイには何が起きたのか分かっているようだった。覚醒を2つ手に入れるのが迷い家に加入する最低条件だと聞かされた時は「なんでそこに拘ってるんだろう?」と疑問に思ったけど今ならよく分かる。
そうしなければパーティの足並みが揃わないんだ。
「あれは自分が射った矢と自分の位置を交換する技能だね。奇襲にも回避にも使えるのは便利そうだ」
「あの消えたのは?」
それを口に出したのはマヨイの妹だと紹介されたアカトキちゃんだ。マヨイの話では力加減が下手すぎて大参事になるから今回の試験では出番はないみたい。大参事って何が起きると思われてるのか少し気になる。
「消えた?」
「うん、クレアが消えたと思ったらカナデさんが出したバリアがひとりでに割れたように見えたよ」
「何か透明になる技能でも手に入れた……だけど僕には効果がなかったってことかな?」
「私も普通に見えてたわよ」
ちょっと気になってショウとルミの方を見ると2人とも首を横に振っていた。私と同じくらいクレアちゃんの姿が見えなくなっていたみたいだ。
「なんで?」
「僕とアイが満たしていてアカトキが満たしていない条件があるんだろうな。たぶん知力か精神のステータスだと思うよ」
「知力のステータスはクレアの方が少し高かったはずだから精神だと思うわ」
すごい。僅かな情報から初見の技能の弱点まで予想するなんて私には出来ない。私は迷い家に入ることが出来るのか不安になってきた。
「合否は?」
「実際に対戦したクレアの意見も聞いた上で判断するつもりだよ。ただ僕の期待を裏切ったまま舐めプしたのは許せないね」
「舐めプ?」
「ステータスで自分を上回る相手と模擬戦をしてるのに棒立ちってのが舐めプなのさ。相手の武器が弓だと分かっているのだから開始早々に回避行動を取るだけで少しはマシになったはずさ……とはいえ後からなら何とでも言えるからね。勝敗は気にしなくていいよ」
「そ、そっか……よかった……」
この時点は私はクレアちゃんよりも強いというアイに勝てるなんて希望的観測は捨てていた。なので勝敗がそのまま合否に繋がるわけではないと改めてマヨイから聞けてホッとした。
そして数分もしないうちにクレアちゃんが管理棟にやって来た。その後ろには何やら落ち込んだ様子のカナデもいる。
「お兄さん、勝ちました!」
「見てたよ。プロゲーマー相手に凄いじゃないか」
それを聞いたクレアの後ろにいるカナデがビクッと身体を痙攣させた。
「マヨイ」
「おつかれさま。合否の判断は実際に戦ったクレアの意見を聞いた上で僕が判断するよ」
「あ、え……え?」
「クレアが全力で戦ったのはカナデが自分の実力を見て貰う立場だって理解しないままだったからだよ。それにさ──
なんで流星群のオリオンとして散々迷惑を掛けたクレアたちに一言も謝ってないの?」
「え……だって、マヨイたちに……」
突然豹変したマヨイの雰囲気に呑まれてしまったカナデはまともに喋ることも出来ないようです。それは私たちだけでなく、先ほどまで満面の笑顔だったクレアちゃんも同じです。アカトキちゃんとアイさんは平気な顔をしてます
「それにしても予想以上に見栄えのある動画が撮れたよ。タイトルは……"古巣を裏切ったプロゲーマー、アマチュアJCに惨敗する"なんてどうかな?ついでにオリオンが流星群を裏切った証拠も経緯もドキュメンタリー風に演出してあげるよ」
この時のマヨイの顔は普段の可愛らしい女の子のようなあどけないものではなく、敵対者には容赦しない厳格な男のものでした。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
マヨイは訓練場でカナデとクレアを2人きりにすればカナデはクレアに対して謝罪をするだろうと期待していました。
コミュニケーション能力/Zeroなカナデに謝罪行脚は無理難題だと注意できた人はいませんでした。
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