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本編
第184話 クレアは怒っている。
しおりを挟む⚫︎アイ
ギルドホームの入り口で挨拶を済ませた私たちは訓練場にやって来た。真宵が組合から渡された資料によれば訓練場の大きさは隣接された管理棟から操作できるようだ。今回は第2回イベントの会場になるらしいアインの討議場と同じ直結200mの円に設定した。
管理棟には訓練場内の様子を映し出すモニターのようなものまである。そのため最初に対戦するカナデとクレアを除いた全員がここで観戦することになった。
「お姉ちゃんは花奏さんとクレア、どっちが勝つと思う?」
「花奏」
「え、だってステータスはクレアの方が高いんだよ?」
「クレアがステータスが高いというアドバンテージを活かせる戦い方を選択できれば五分五分にはなるでしょうね。でもクレアは対人戦の経験が少な過ぎわ」
下位互換とはいえ、真宵の魔力弾と同じような弾幕を扱えるだけでなく、結界による防御や神聖魔術による回復が可能なカナデは同じ位階なら私でも少し手こずりそうなほど欠点らしい欠点がない。
しかし、クレアは弓の驚異的な命中精度や自作した装備やアイテムの高性能さから忘れられがちだけどゲーム初心者なのだ。それに対人戦の経験はテコの訓練場で行われた真宵との模擬戦だけだそうだ。
「兄さんはどう思う?」
「クレアが7:3で有利かな」
「「え」」
「もちろん対人戦の経験はカナデが上だけどね。それでも相性が悪すぎてどうしようもないんじゃないかな」
「相性?」
「カナデのバランスの取れた戦闘スタイルは対人戦において対面不利を受けにくいという強みがあるけれど、それは相手のことを知っているという前提があるんだ」
なるほど。ここで私は真宵が何を言わんとしているのか、なぜクレアがカナデに対して有利なのかを理解した。
「カナデはクレアを弓を武器にしているプレイヤーとしか見ていないってことね」
「それに僕に負けてから弓使いの対人戦における立ち回りについて色々と勉強してるって言ってたかね」
「そう、なら楽しみね」
クレアには是が非でも私たちと勝敗を競える水準にまで成長して欲しい。その一歩手前で足踏みをしているカナデには競争相手が欲しかったところだし、今回の組み合わせは意図していた以上にちょうどいいわね。
「えっと、あのクレアって子そんな凄いの?」
そう考えていると真宵が連れて来た3人組みの1人が──確かショウだったかしら──が真宵にそんな質問をした。
「このゲームの弓にはゲームシステムの命中補正とかそういったものはなくてね。あるのは矢に特殊な効果を付与するタイプの技能だけなんだ。それなのに僕は彼女が矢を外したところを見たことがないよ」
アーチェリーの経験者ということだったかしら。
それにしても異常としか言えない命中精度には驚かされたわ。クレアの主張では50mを超えるとミリ単位でズレが生じてしまうらしいけど、それは誤差の範疇よね。それに50m以内ならミリ単位で調整できる自信があるということだ。
カナデなら結界で防ぐでしょうけど、クレアはどうやってカナデの結界を突破しようとするか楽しみだわ。
「防がれたところは見たことあるけどね」
「あら、そうなの?」
「兄さんと模擬戦した時に杖で片っ端から叩き落とされてたよ」
それは例外じゃないかしら。
ちょっとした違和感を感じながら私はそう解釈した。
「そろそろ始まるね」
アイテムの使用を含めて何も制限のない1本勝負。
50m離れた状態からスタートする模擬戦がモニターの向こうで始まろうとしていた。
⚫︎クレア
「いい、勝負、しよう?」
「はい。お願いします」
急に決まった模擬戦の相手、カナデさんからそう話し掛けられた私は内心の複雑な感情を隠しながらそう応えました。
「ふぅ…………」
私はカナデさんを迷い家に入れるのに反対です。
あのアイさんが強いと評価しているプロゲーマーさんに失礼だとは思うですが、私やアカちゃん──それにお兄さんが連れて来たシキさんたち──を見下しているような雰囲気が伝わってくるんです。そんな人と仲良くしたいとは思えません。
[30秒後に決闘を開始します]
模擬戦のカウントダウンが始まりました。今から模擬戦が始まるまで全ての技能の使用とアイテムの使用が禁止されます。
[20秒後に決闘を開始します]
カナデさんとの距離は49m87㎝。
この距離なら問題なく中てることが出来ます。
[10秒後に決闘を開始します]
カナデさんはプロゲーマーさんです。
プロゲーマーではないお兄さんは簡単に矢を叩き落としました。だからカナデさんも私の矢も簡単に防げるに違いありません。なので私はとっておきの技能を使うことにしました。
[決闘開始!]
「アサシネイトスタンス」
アサシネイトスタイルは暗殺術と付与魔術を習得しないと習得することの出来ない特殊な自己強化技能です。お兄さんと模擬戦をした後で習得しました。
技能:アサシネイトスタンス
分類:暗殺術 付与魔術 強化
効果:自身と装備に静音効果を付与する。
自身と装備に隠形効果を付与する。
自身と装備に認識阻害効果を付与する。
これらの効果は術者がダメージを受ける、または攻撃技能を使用するまで持続する。
制限:再使用30分
静音効果は私と私の装備から音が発生しなくなる効果です。声も聞こえなくなってしまうのでパーティで戦う時には使えないのが欠点です。
隠形効果は[分類:探知]や[分類:探索]などのタグを持った技能から身を守ることのできる効果です。オマケ程度だけど精神のステータスが少しだけ上昇したりもします。透明人間になるわけではないけれど、かくれんぼには便利そうな効果です。
そして認識阻害効果がその透明人間になる効果です。私と私の装備を透明にする効果の他にもパーソナルを非表示にする効果があります。欠点は音は隠せないこと、技能で発見されてしまう可能性があること、そして使用者よりも精神のステータスが高い相手には透明化効果が通用しないことです。
アサシネイトスタンスは攻撃技能を使うと解除されてしまいますが弓による攻撃は技能ではありません。
「カナデさん、全力で勝ちに行かせて貰います」
静穏効果でカナデさんに聞こえてないと自覚していながら私は自分に言い聞かせるように宣言して弓を番えました。
────────────────
お読みいただきありがとうございます。
カナデにそんなつもりはなくてもクレアはこう感じてるってお話でした。
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