上 下
195 / 228
本編

第182話 マヨイは無視する。

しおりを挟む
⚫︎マヨイ

を倒してくれてありがとー、早くドロップ出してよ。ほら、ファンの皆んな視聴者たちも見せろってー」

 僕が倒した変異種のドロップアイテムが自分に差し出されるものだと信じて疑わないミライという配信者の発言によって場の空気が凍ったような錯覚を覚えた。
 もしかしたら単にドロップアイテムを見たいというだけなのかもしれないけれど、どうやらそういった感じではなさそうだ。
 それでも一応は確認しておくか。

「それはドロップアイテムを見せて欲しいって意味?それとも君に差し出せって意味?」

「わ・た・し・のターゲットだったんだからドロップは私のものに決まってんじゃん。ほら早く出しなさいよー」

「はぁっ!?何言ってんのアンタ?何をどう考えたらそうなるわけ?」

「ここは俺たちの狩場だって言ってんだろ!さっさとドロップを置いて出ていきやがれ!」

 そして僕が何か言う前にショウが口を出してしまった。
 でも本当にショウの言う通りだと思う。しかし、ミライのパーティメンバーはミライに同調するかのように──あるいはミライを庇うかのように──前に出てがなりたててきた。

「姫プレイヤーと取り巻きの思考、理解しようとするだけ無駄。行こう?」

「それもそうだね。あと彼女のこと姫プっていうのは姫プしてる人に失礼だよ。彼女たちみたいなのは迷惑プレイヤーで十分でしよ」

「そう、かも」

 そうだ。見たところショウも2つ目の覚醒を手に入れたみたいだからカナデと一緒に試験を受けて貰おう。
 都合が良いことに僕はシキたちとパーティを組んでいる。パーティチャットなら近くにいるミライたちに聞かれることなく会話することができる。

「はぁっ!?誰が迷惑プレイヤーよっ!!」

『シキたちさ、エイトにある僕らのギルドホームに来ない?』

『え?』

「無視すんな!」

『いいの?』

『シキたちが迷い家に入りたいって言った時に条件を出したよね。このカナデも同じで今から試験を受けに行くところなんだ。どうする?』

「ミライちゃんが話し掛けてくれてんのに無視してんじゃねぇよ!」

 外野が何か叫んでいるけれど彼らは手を出して来ない。
 先ほどからのミライの言動からして生配信中なのだろう。トラブルになったとはいえ先に手を出したら犯罪者判定を受けるだけだ。

『ならあの人たちを撒く必要があると思う。何か追いかけて来そうじゃない?』

『確かに、そんな気がする』

『どうすんのよ』

「わかってるのかなぁー?私をシカトしちゃってんのファンの皆んなから見られてるんですよー?」

 確かに彼女たちの前から去ったとしても追い掛けてくる可能性は高い。僕だけなら簡単に撒けそうだけどシキたちも一緒だと難しそうだ。

『大丈夫、結界で閉じ込める』

『え、このまま無視すんの!?』

『詠唱してたらバレちゃいますよ?』

『大丈夫。詠唱しない』

『ショウ。この手の自意識過剰な我儘女は自分の価値をおとしめられるのが1番こたえるんだよ』

『なるほど。……マヨイ、もしかしてキレてる?』

 シキが詠唱について心配するけど、カナデは僕と同じく技能を思考発動することができる。
 あと僕はキレてないです。

『マヨイと、同じ?』

『同じ』

『わかった』

 カナデとルイは口調も声も似てるから文脈を読まないとどっちが喋ってるか分からなくなりそうだ。それに初対面だろうに圧縮言語で会話するとか相性良すぎない?

『そういえばルイ、小次郎は?』

『揺り籠の中。前に「その狼を貰うわ」とか言って絡まれたから、避難させた』

 確かに言いそうな感じはする。これはククルを揺り籠の中に入れたまま移動して正解だったかもしれない。

『合図する。6でテコ方面へ走って。皆んなが離れたのを確認したら結界を張る』

 カナデはカウントダウンをすることで相手を身構えさせたいのだろう。そして途中で行動することで不意を突けると考えたようだ。単純だけど悪くない。

「10・9・8……」

「なによ、いきなり!」

「急にカウント始めて草」

 散々怒鳴り散らしていた相手がいきなりカウントダウンを始めたらミライは更に大きな声で叫び始め、ミライのパーティメンバーは一様に身構えた。

「7・6……」

「っ……あ、待ちなさい!」

 僕らが一斉にテコの方角に走り出すとミライたちは一拍遅れて反応した。しかし、もう既に彼女たちはカナデが発動した結界の中だ。

『カナデ、あれってどれくらいの強度なの?』

『私の耐久と精神のステータスを合計した防御力と私の体力の20%の耐久値がある』

『それはそれは……』

 カナデとミライたちに位階の差はほぼない。
 彼女たちの中で覚醒を獲得しているのはミライと先ほどから一言も発していないユキナという女性プレイヤーの2人のみ。その2人も獲得している覚醒は1つだけのようだ。覚醒を3つ獲得しているカナデとはステータス差が大きすぎる。

「ちょ、何よこれは!?」

「閉じ込められて草生えるんだけど」

 結界の壁を叩いて甲高い声で叫ぶミライと壁を壊そうとする彼女のパーティメンバーたちを後ろに見ながら僕らは予定通りの経路でエイトへと向かった。

「それにしても、意外だった」

「何が?」

「あの配信者、マヨイに殺されると思った」

「何言ってんの?アイたちとの約束が優先に決まってんじなん」

「あ、そういう。納得した」

「アイ、誰?」

「迷い家のサブマスターですよね」

「そうだよ」

「そう、なんだ」

「迷い家って何人いるんですか?」

「僕を含めて5人だね。でも組合の転移装置が使用可能になる11人までは増やしたいなって思ってるよ」

「え、そんなに少ないんですか?」

「前回イベント1位なのに?」

 こんな他愛もない会話をしている内にエイトの街門を抜けて僕らは迷い家のギルドホームに到着した。

「「「「……………………」」」」

「どうしたの?急に固まっちゃって」

「なんか想像していたのより数倍大きくてビックリした」

「ごめん、朱桜會のギルドホームと同じ平屋ひらやの安宿みたいなの想像してたからギャップがさ」

「「……すごく、すごい」」

 驚いてくれて何よりです。
 それにしても何か忘れているような……?


───────────────
お読みいただきありがとうございます。
マヨイたちがエイトに到着した頃、ようわくミライは結界を破壊することが出来ました。
ざまぁ回は後のお楽しみってことでお許しください。
しおりを挟む
感想 576

あなたにおすすめの小説

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

サモナーって不遇職らしいね

7576
SF
世はフルダイブ時代。 人類は労働から解放され日々仮想世界で遊び暮らす理想郷、そんな時代を生きる男は今日も今日とて遊んで暮らす。 男が選んだゲームは『グラディウスマギカ』 ワールドシミュレータとも呼ばれるほど高性能なAIと広大な剣と魔法のファンタジー世界で、より強くなれる装備を求めて冒険するMMORPGゲームだ。 そんな世界で厨二感マシマシの堕天使ネクアムとなって男はのんびりサモナー生活だ。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ユニーク職業最弱だと思われてたテイマーが最強だったと知れ渡ってしまったので、多くの人に注目&推しにされるのなぜ?

水まんじゅう
SF
懸賞で、たまたま当たったゲーム「君と紡ぐ世界」でユニーク職業を引き当ててしまった、和泉吉江。 そしてゲームをプイイし、決まった職業がユニーク職業最弱のテイマーという職業だ。ユニーク最弱と罵られながらも、仲間とテイムした魔物たちと強くなっていき罵ったやつらを見返していく物語

処理中です...