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本編

第180話 マヨイは食レポする。

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⚫︎マヨイ

「お待たせ」

「別に、待ってない」

「美味しそうだね、それ」

「美味しそう、じゃなくて、美味しい」

 僕がカナデのいる酒場に着くとカナデはスパゲッティを食べていた。藍香から聞いた話ではカナデは割と良いとこのお嬢様で舌が肥えているはずだ。そんなカナデに美味しいと言わしめるスパゲッティに僕も興味が湧いたので店員さんを呼んで注文する。

「真似?」

「美味しそうだったからね。それに店に来て何も頼まないとか普通に店側に失礼でしょ?」

「……確かに。ならオムライスも頼むといい。絶品」

「それは今度来た時に頼むよ」

 当たり前のことではあるけれど、没入型のVRゲームの中で暴飲暴食をしたところで現実で太ることはほぼない。しかし、味覚を感じることで脳が"食事をした"と錯覚を起こすことはあるらしい。そのためゲーム内で食事をすることで現実での食事を減らすダイエットなんてものが昔はあったそうだ。現在では栄養失調などを引き起こす危険な行為として周知されている。このゲームでも対策の一環としてゲーム内で暴飲暴食を繰り返すと味覚がオフになるなどのデメリットが生じるようになっているらしい。

「お待たせしました。こちら当店自慢のスパゲッティでございます」

「ありがとうございます」

 ちなみにスパゲッティの値段は85Rだ。ものさしにする物によって多少のズレはあるんだろうけど日本円換算で1Rが10円くらいなんだろう。

「麺はかなり細いけど、トマトソースがよく絡むし想像以上に弾力があって食べ応えがあるね。トマトソースには刻んだ玉ねぎとニンニク、あとコンソメ……じゃなくて鶏ガラスープかな?めちゃくちゃ美味しいね!」

「……………………」

「え、なに?」

「レシピ、何度も通い詰めて教えて貰ったのに……」

「え、何、これのレシピ教えて貰ったの?」

 料理のレシピっていうのは料理人の人たちが試行錯誤して出来た財産だ。今でこそネットで少し検索すれば色々な料理のレシピが出てくるけど、実際に高級レストランなどで振る舞われるレベルのレシピはまず見つからない。
 このレベルの料理のレシピを聞き出すなんて、カナデはいったいどれだけここに通い詰めたんだろう。

「うん。でも、絶対に教えられない」

「いや、それはそうでしょ」

「マヨイ、もしかして料理得意?」

「好きではあるけど、得意と言えるほどではないね」

 僕が作れる料理のレパートリーは本当に少ない。それもネットで見つけたレシピを何度も作って覚えたものばかりだ。多少のアレンジを加えたりはしているけど、実際にお店に出されているものほど完成されたものではない。

「ふぅん……」

「何その目」

「何でもない。……この完璧主義者め」

「ごめん、聞こえなかった」

 お昼時だから酒場には結構多くのNPCがいるのだけど、彼らの話し声でカナデの声が聞き取れなかった。

「なんでも、ない」

「ならいいけど……」


…………………………………


……………………………


………………………


「ごちそうさま。……そろそろ本題に入ろうか」

 10分ほど黙々と目の前のスパゲッティを食べた僕は本題に入ることにした。

「ほんとに、出来たの?」

「素材集めに関しては他力本願だったけどね」

「すごい」

「カオルの呪いを解くために必要なアンチカース・ポーションは約200本。相場が1本400Rだから80000R、お友達価格ってことで2割引きにして64000Rだね」

 言外に「これくらいは頑張れば払えるでしょ?」とカナデの方を見ると何やら想定外とでも言いたげな顔をしていた。
 呪いを解いた後、ステータスが戻ったカナデなら適当に変異種を倒すだけで稼げる金額だ。変異種の討伐報酬は高くても5000Rくらいだけど、素材を丸ごと売れば変異種1体で10000~20000Rにはなる。

「払えない」

「え、なんで?カナデなら変異種を倒せるよね?」

「ケンゴが辺りの変異種を片っ端から倒して回ってる」

「父さんが?」

「だから、変異種で、お金、稼げない」

「いや、ずっと周回するわけじゃないだろうし……」

「そういうこと、じゃなくて……素材、市場にたくさん流れ始めたから、相場すごく下がってる」

 なるほど。父さんが──おそらくチームメイトと──レベリングと金策を兼ねて変異種を片っ端から倒しているから市場に変異種の素材が流れて相場が崩れているのか。
 僕としては相場を一気に崩すのはやめた方がいい気がするんだけど、父さんたちからすれば出遅れを取り戻すためには仕方ないことなんだろう。

「なら昨日も言ったけど出世払いでいいよ」

「迷い家に、入れる?」

「そんなに入りたいの?」

「うん」

「入団?入会?参加?するために僕と……だと依怙贔屓しちゃいそうだから……ちょっと待ってね」

 試験なんてしなくてもカナデの実力は確かなものだ。
 それでも試験をせずにカナデを加入させれば試験を突破した織姫は面白くないだろう。
 僕の代わりにカナデと模擬戦してくれる人がいないかギルドチャットで確認しておこう。


マヨイ:現役のプロゲーマーがギルドに参加したいって言ってるんだけど、僕の代わりに彼女と模擬戦してくれる人はいないかな?

クレア:そのプロゲーマーの方は女性なんですか?

マヨイ:流星群にいたオリオンだよ

アカトキ:花奏さん?

マヨイ:面識あったっけ?

アイ:前に私の家で会ってるわね。
   クレアが模擬戦してくれないかしら

クレア:私がですか?

アイ:リアルで面識がない方がやりやすいでしょ

アカトキ:私がやってもいいよ?

アイ:ダメよ。アカトキは手加減できないじゃない

マヨイ:場所は何処がいい?

クレア:ギルドホームにいます

マヨイ:なら僕らがギルドホームに行くよ
    3時間後でいいかな?

クレア:大丈夫です。


「3時間後、エイトにある僕らのギルドホームでメンバーの子と模擬戦をして貰って、その結果で加入の可否を決めることになったよ。大丈夫?」

「大丈夫」

「そうは言っても呪いを解かないと街から街への移動なんて難易度が高すぎるから今からアンチカース・ポーションを200本。頑張って飲んでね」

「え、あ……」

 アンチカース・ポーションを200本も飲むのは大変だろうけど1本辺りの容量はそこまで多くない。1時間あれば飲み終えるだろう。そこからエイトまで最短距離を約1時間半で移動すれば余裕で間に合う計算だ。

「カナデのちょっといいとこ見てみたい♪」

「いじわるぅぅ……」

 カナデが顔を真っ赤にして僕を睨んでくるけれど、目の前に次々と並べられるアンチカース・ポーションを飲まなければならないのは理解しているせいか迫力はない。
 カナデがアンチカース・ポーションを飲み終わるまでの1時間、手持ち無沙汰になった僕は好奇心に負けてオムライスを注文した。めちゃくちゃ美味しかったですまる

───────────────
お読みいただきありがとうございます。
鶏がらスープはコンソメの代わりです。

カナデvsアカトキになっていた場合、開幕でアカトキがヒゲキを使用してギルドホームが吹き飛ぶことになってました。

アンケートの結果、掲示板常連プレイヤーたちの閑話を書くことになりました。具体的に誰の話が読みたいなどのリクエストはなかったので適当に選出します。
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