VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

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本編

第174話 マヨイは静観する。

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⚫︎マヨイ

 クオンたち3人と別れた僕は少し遅い昼食を摂ってから再びログインしてアルテラの組合に戻ってきた。まずは受付でクオンたちが被害に遭ったという詐欺についての確認だ。そのついでにクオンたちを騙した男の所属欄にあったという道具箱という名前のギルドついて組合が把握しているかも聞くことにした。

「人物鑑定で識別することが出来る対象の所属は何もギルドだとは限りません。国や領に仕える兵士なら所属の欄には国や領、あるいは仕える相手の名前が表示されます。道具箱という名前の組織はギルドではないようですから新興の商会かクランの可能性が高いですね」

「クラン?」

「クランは組合からの保証や補助を受けられない代わりに組合のルールに縛られないギルドのようなものです。国や領の法律に従わなければならないのは変わりませんが……先ほどの話にあったような犯罪行為を行うクランが多いですね」

「組合はアルテラにあるクランを把握していないんですか?」

 クオンたちはクランの存在を知らなかった。もしアルテラに存在しているクランの名前を把握できていればクオンたちから"道具箱"という名前を聞いただけで色々と分かったはずだ。

「組合が詳細を把握しているのはアルテラの漁業関係者によって運営されている"ピラタ"と林業関係者によって運営されている"ラトロー"という古くからある規模の大きなクランだけですね。アルテラには規模の小さなクランも多いですが、その殆どがピラタかラトローのどちらかの傘下に入っています」

ってことは全てではないんですね」

「そうですね。最近になって出来たという"百鬼夜行"や"ミライちゃん親衛隊"というクランは独自路線で活動しているようです」

 前者はともかく後者は間違いなくプレイヤーによって作られたクランだろう。ということはプレイヤーによってクランを作れるということだ。もしかしたら道具箱というのはプレイヤーによって作られたクランなのかもしれない。
 そんなことを考えてつつ僕は次の質問をした。

「クランに所属している人物から何らかの不利益を被った場合どのように対処するのが適切なのですか?」

「組合からクランに対しては基本的に不干渉ですね」

「ギルドとクランでのいさかいに関しても、ですか?」

「犯罪行為などは組合ではなく領の管轄になります。ですがエイト領の組合は昔から中小規模のクランとトラブルが絶えないので第3者に被害が無ければ特に動かないでしょう」

 まるで僕に対して暗に『クランを潰しても咎めることはない』と言っているようなものだ。何か事情でもある設定なのかな。

「分かりました。自分たちに被害が及ぶようなら適時対応させて貰います」

「そうですか。もし何かありましたら気軽にお声掛けください」

 そして僕は受付の人から加工施設を借りる許可を貰ってから受付を離れた。


…………………………………


……………………………


………………………


 組合の加工施設に入ると、ずっと僕の頭の上で寝ていたククルがもぞもぞと動き出した。どうやら目が覚めたらしい。

おあよーみにゃぁ

「おはよう、ククル。ごはんは?」

たべるーみぃ!」

 最近では僕の頭の上が定位置になっているククルの食事は主に魔物の素材と空気中の魔力だ。
 ちなみにモンスターと魔物の違いについて説明すると、モンスターというのは先天的に魔石を持って生まれてくる存在のこと、魔物ら後天的に魔石を得た存在のことだ。ククルや鋼王龍はモンスター、森大猪や厄は魔物という分類になる。そしてモンスターは空気中の魔力を食事として吸収ひて成長の糧にできるのに対し、魔物は空気中の魔力を吸収することができないらしい。その代わり魔物はモンスターよりも進化や変異が発生しやすいようだ。

「ククルも進化するのかな?」

しんかみぃ?」

「成長するってこと」

せいちょーにゃぁ!」

 戦闘能力そのものは十分に高いのだけど、なにせ見た目が翼が生えただけの仔猫だ。ククルに命令して戦わせる自分を客観的に見たら間違いなく動物虐待に見えるだろう。

「さて、これからククルの揺り籠をつくるから少し大人しくしててね」

わかったーみぃ

 そう言うなりククルは再び僕の帽子の中に潜り込んで動かなくなった。相変わらず寝つきがいい。

「えっと、まず揺り籠に必要なのは……」

 僕は錬金術指南書に書かれた揺り籠のページを開いて必要な素材を確認する。まずはテイムした当人の魔力が込められた人工魔石、これは前から僕が作り溜めているものがあるので問題はない。次に揺り籠に入れるテイムしたモンスター(あるいは魔物)の素材、これは前もってククルから抜け落ちた毛を集めたものがあるのでこれも問題ない。問題なのは最後のテイムしているモンスターの親または近似種の素材だ。

「ワイバーンは亜竜、鋼龍は龍、鋼王龍は真龍……ククルの種族は原竜の幼体だから……」

 簡単な竜の文字と難しい龍の文字の違いにどんな意味があるのか僕は知らない。鋼王龍のいた廃坑から拾った卵の名称は"原竜の卵"とだったので竜から龍へ進化するのではないか、というのが今の僕の予想だ。

「まずは鋼王龍の素材で試してみるか。えっと"まずは人工魔石以外の素材を錬金術を用いて液状化させます。次に液状化させたものに庇護と安息の効果を付与し、それを人工魔石に同化させて完成です☆"…………やるか」

 最後の読者を挑発するような星マークに若干の悪意のようなものを感じながら僕は指南書から素材の液状化と付与属性の詳細が書かれたページを確認しながら作業を進めることにした。


───────────────
お読みいただきありがとうございます。
ちなみに錬金術指南書の著者の名前はウォルター・エイトです。

明日で本作品を投稿し始めてから1年になります。
本当なら記念の閑話など書きたいところなのですがスランプ気味なのに加えて体調が芳しくなく書く余裕がありません。

代わりに人気投票的なものを行おうと思います。
本作品(番外編を含む)に登場したキャラクターの中から好きなキャラクターを最大3名まで感想欄に書いてください。最も多くの票を獲得したキャラクターの閑話を時間は掛かると思いますが頑張って書かせていただきます。

〆切は9/19です。
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