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本編
第172話 マヨイは売却する。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
僕が廃坑を崩壊させたことをクオンたちに告白してから30分後、僕は彼ら3人と一緒にテコの組合に来ていた。もちろん僕が鋼王龍を倒したことと廃坑を崩壊させたことを報告するためだ。
フィールドは日付が変われば元に戻るとはいえ、このままではクオンたちが受けたクエストが失敗扱いになってしまう。さすがにそれは可哀想だからね。僕から報告を聞いたブライトは僕の後ろについて来ているクオンたちを一瞥してから大きな溜息をついた。
「はぁ…………誰が何を崩壊させたって?」
「僕が彼らが調査する予定だった廃坑を壊しちゃったんですよ」
「いくら慈母龍神様のお力で復元されるとはいえやりすぎだぞ」
「慈母龍神様?」
「慈母龍ミール・ムンドゥス様だ。この星の損傷を復元するほどの力を持っている龍神様だぞ、これくらい知っておけ」
どうやら日付の変更と同時に破壊されたフィールドが元に戻るのはその慈母龍の力によるものらしい。
「それで僕にペナルティはあるの?」
「あると言いたいところだが鋼王龍と戦闘中に崩壊したのなら事故のようなものだろう?」
「廃坑の中に潜んでる鋼龍たちを間引きするために故意に破壊したから流石に事故とは言いにくいかなぁ……」
「……どちらにせよ廃坑が復元されれば領主様から管理を委託されている組合に不利益はない。むしろ今代の鋼王龍を討伐したというのなら利益の方が大きいくらいだ。鋼王龍の素材は売ってくれるんだろ?」
「希少部位は僕らのギルドで使う予定なので売れるのは鱗くらいですけどね。それに売れるのは手に入れた量の1割が限度です」
鋼王龍の素材は貴重だ。クオンたちが持っていたワイバーンの素材と鋼龍の鱗を交換したように他プレイヤーとの交渉材料になる。正直なところ、揺り籠を作るためにどれくらいの量が必要なのかも分からない状況で売りたくはないのが本音だ。
しかし、組合からの評価を落としたくない僕としては従わざるを得ない。仕方なく僕はカウンターに鋼龍と鋼王龍の龍鱗をそれぞれアイテム欄から出した。
「分かった。査定しよう」
そう言ってブライトは奥から年配の女性を連れて来た。どうやら彼女が鋼王龍の龍麟を査定するらしい。ロクに事情を説明されてなさそうな彼女は鱗を数秒見つめると頭に手を当てながらフラつき、そのまま倒れてしまった。幸い床に倒れる前にブライトが抱きとめたので大事にはならなかった。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……まさか倒れるとはな」
それから30秒もしない内に彼女は目を覚ました。
「まったく、何てもの見せるの!?」
「鋼王龍の鱗だな。何も言わなかったのは悪かったと思ってる」
「後で説教よ。で、これの査定をすればいいの?」
「あぁ」
彼女は僕が提出した2種類の龍鱗を調べ始めた。
高位鑑定で知ることが出来るの対象の情報の中には詳細な価格は含まれない。おそらく高位鑑定とは別の相場を調べるような技能を持っているんだろう。
「では結論から。鋼王龍の龍鱗は希少性を考慮すると値段は付けられないわね。組合が主催しているオークションに出すことをオススメするわ」
「……やっぱそうなるよな」
「無理に値段を付けて買い取ろうにも組合の資金が足りないわ」
「で、鋼龍の鱗の方はどうだ?」
「こっちは1枚につき6万Rね」
「「「!?!?!?」」」
値段を聞いたクオンたち3人が僕の後ろで動揺しているのが分かる。クオンたちと物々交換をした後に掲示板でワイバーンの素材の相場を確認したけれど、ソプラで狩られたワイバーンは1匹分の素材で約15万Rになったそうだ。僕としては大量にある不要な素材でワイバーンを狩りに行く手間が省けたのだから損をしたとは思ってないのだけど、クオンたちは自分たちが得をし過ぎたことに負い目を感じたのかもしれない。
「なら鋼王龍の鱗は自分たちで使います。鋼龍の鱗は何枚まで6万Rで買い取って貰えますか?」
「オークションには出さないのか。鋼龍の鱗は偶にではあるが持ち込まれるからな……60枚までなら相場を崩さないだろ」
「そうね、それくらいが妥当でしょう」
「なら鋼龍の鱗は60枚売りますね」
相場が崩れないギリギリの量を提出した僕はお金を受け取ってから組合を後にした。すると組合を出てすぐにクオンたちが追いかけてきた。
「マヨイさん!」
「カナタちゃん、そんな大きな声出さなくても聞こえてるよ」
「ごめんなさい!私、あの鱗があんな高いものだなんて知らなくて……」
どうやら僕の予想通り相場が釣り合っていないトレードをしたことに後ろめたさを感じているようだった。
「僕にとってはワイバーンを狩りに行く手間が省けたからね。それを考えれば気にすることじゃないよ」
「で、でも……」
「カナタの言う通りだ!これじゃあ俺たちが詐欺したみたいじゃねぇか!」
「私も今回の件ではさすがに貰いすぎだっなと思う。追加で金銭かアイテムを渡したい」
「……少し場所を移してしっかりと話し合おうか」
クオンが声を荒げたからなのか周りにいるプレイヤーやNPCから注目を集めてしまったようだ。僕は人目を避けてカナタたち3人を説得するために南門近くにある宿屋の1室を借りることにした。
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