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本編
第168話 マヨイは情報を集める。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
アルテラの組合でカナデと別れてから約40分後、僕はテコの街の南門に到着していた。そこまで急いだわけでもなく、普通に歩いて来たというのに以前よりも早く着くことができたのはステータスが関係しているのかな。既に200万を超えているというのに20分前後しか短縮できていないことを考えると移動速度の上昇率は決して高いわけではないんだろう。
そのままテコの街に入った僕らは鋼王龍についての情報を得る為に組合へと向かった。
「相変わらず人気ないですね」
「来て第一声がそれか。要件は?」
受付には金髪縦ロールの女性受付嬢とブライトの2人がいたのだけど、ブライトの側に並ぶプレイヤーは相変わらず少ないようですんなりと僕の番が回ってきた。
「この街の北山にいるらしい鋼王龍についての情報が知りたいんだ」
「挑むのか?」
「うん」
「そうか。なら鋼王龍だけでなく鋼龍の情報も買っていけ」
鋼龍。名前からして鋼王龍の仲間かな。
そうなると多勢に無勢になる可能性もありそうだ。
それにしてもお金取るんだね。
「厄の時はお金払わなかったよ?」
「あれは緊急事態だったからな。上が情報は広めた方がいいと判断されたんだ。だが鋼王龍は基本的に狭い縄張り以外では人を襲わないモンスターだ。同列扱いすることは出来ない」
「なるほど。なら鋼龍の情報も併せていくらになるの?」
「15万Rだが、アルテラで薬草採取の依頼を出したろ?あれをウチでも出して貰えないか」
「え、なんで?」
「必要量以上に集まった場合、余った分は組合に卸してくれるんだろ?」
「うん。アルテラの組合は癒草壁が枯渇してるみたいで……もしかしてテコも?」
「そういうことだな。組合から出してる薬草採取の依頼は基本的に地元住民しか受けられないんだが、その依頼──特に癒草の採取依頼──に対する妨害がここ数日の内に何度も行われているんだ。死者こそ出ていないが重傷者は出ている。消費は増えて供給が途絶えた今の状況は芳しくないんだ」
「分かった。ならアルテラに出したのと同じ内容で依頼を出すよ。依頼料は……アルテラと同じ50万Rでいいかな?」
「ああ、助かる」
そして僕はブライトが差し出してきた契約書の内容を確認する。ちなみにアルテラの組合でも似た内容の契約をしたのだけど、その時も今回も[契約に同意しますか]という確認のウィンドウが出た。念のため契約内容を確認するけれど、不審な点は──僕が優遇されているという点を除いて──見当たらないので同意のタブをタップしてから契約書にサインした。
「それにしても僕にばかりメリットのある契約ですけど、本当にいいんですか?」
「いいんだよ。君が高く仕入れた癒草の余剰分を俺たちが少し色を付けて買い取るだけだからな。依頼としては出せないが持ち込まれたものとして扱えばどうとでも誤魔化せるさ」
組合のルールでは「各組合が常設依頼の依頼量を独断で変更する行為」は禁止されているそうだ。ただ「持ち込まれた素材の在庫が少ない場合には高く買い取ることが可能」という別のルールを抜け道のように利用することができるらしい。前者のルールは不正行為を防ぐためのルールだとアルテラで説明を受けた。緊急事態なら大目に見てもらえると思うのだけど、そういうわけにもいかないのだとか。
とりあえず僕が情報と依頼委託の代金として65万R支払うとブライトは受付の奥から数枚の紙を持ってきた。
「これが鋼王龍、こっちが鋼龍の資料だ」
「ありがとうございます」
そう言って資料を渡された僕は一言お礼を言ってからテコの組合をあとにして馴染みとなりつつある喫茶店へと入った。
そして席についてサンドイッチを頼んでから鋼王龍の資料に目を通して僕は思わず一言呟いてしまった。
「…………相性悪いなぁ」
はっきり言って僕にとって鋼王龍と鋼龍は難敵としか言いようがないスペックをしていたのだ。資料によればどちらの鱗には魔力弾を初めとする魔術・魔法を反射する能力が備わっているらしい。つまり僕のメインウェポンである魔力弾が通用しない。
「物理耐性も低いわけじゃない、と……」
全く通用しないというわけではないだろうけど、物理攻撃の耐性も一通り揃っているようだ。それなや鋼龍の鱗はダメージを受けて破壊されると自然と剥がれてすぐに新しい鱗が生えてくると書いてある。鋼王龍も推定調だけれどそれと同じことが書いてある。壊れた鱗を狙って大きなダメージを与えることは難しそうだ。
そして鋼王龍というのは鋼龍の群れの長となった個体が進化した種族のようなので、鋼王龍と戦闘する際には間違いなく複数の鋼龍とも戦闘になるだろう。
「……唯一の弱点はいくつかの状態異常に弱いってところかな」
資料によると過去の挑戦者が鋼王龍に挑んだ際、睡眠と麻痺の状態異常を掛けることに成功したことがあったそうだ。睡眠の状態異常は不意打ちで仕掛けたものらしく、戦闘が始まってならは通用しなかったらしい。麻痺に関しては戦闘中も通用したそうだけど、何回も麻痺させる内に効き目が弱くなったようだ。
「ハメ殺し対策かな……これ」
ハメ殺しとは主に格闘ゲームやハンティングゲームなどで使われる『特定の手段で相手に反撃する機会を与えずに倒す戦法』のことだ。格闘ゲームでは「決められた側が悪い」とも言われたりするのだけど、ハンティングゲームでは強力なモンスターを安全なつ確実に素早く倒せるため『装備や実績は上級者なのにプレイヤースキルは脱初心者程度』なんてプレイヤーが増える温床になっている。
今回の場合は後者のような事態を回避するための調整、もしくは単純に運営のモンスターを設定した人の性格が悪いかのどちらかだろう。
「そもそも僕って状態異常を与える技能とか使ってないからなぁ……」
実は使ってないだけで持ってはいるんだけど、この際だし自分の持っている技能を改めて確認しておこうかな。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
マヨイが状態異常を与える技能を習得したのは技能の統合をしていた時ですね。何話だったっけか……(ド忘れ)
ハンティングゲームのハメ殺しは麻痺や睡眠などの状態異常を使ったものが多いですね。個人的に最も印象に残っているのはモン◯ンのキ◯ンに対する睡眠爆破でしょうか。
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