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本編
第166話 マヨイは依頼する。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
しばらくするとカナデが組合のエントランスに戻って来た。
「猫ちゃん、可愛くて、忘れてた」
どうやらククルに抱きつかれた時に発生したダメージによってカナデは死んだらしい。カナデによると今の状態では通行人と肩がぶつかった程度でも死ぬらしい。見た目は小さくてもステータスは僕と同等であるククルから抱きつかれれば死ぬのは分かりきったことだったようだ。
「でもテイムされたモンスターは基本的に暴走状態になってなければプレイヤーにダメージを与えられない仕様じゃなかった?」
「分からない。それと、ごめんなさい」
「何が?」
「私が死んだから、マヨイ、カルマ値が下がっちゃった」
「まぁ……そこまでカルマ値に拘ってるわけじゃないからいいよ」
「そう。ありがとう」
「らいじょぶ?」
「心配、してくれてるの?」
「そうだね。大丈夫かってさ」
「大丈夫、だよ」
そう言ったカナデは何かを諦めたかのような顔をしていた。
「カナデ。アンチカース・ポーションの素材については決して高価なものじゃないけど、対価として何か出せるものはあるの?」
「……………………私?」
「いや、お金とか素材とか情報とかで」
「…………お金は……少しだけあるけど、たぶん、足りない」
僕としてはCiLを始めたらしい父さんの情報とか聞ければ良かったんだけど、そもそも簡単に仲間を売るような人を受け入れるほど父さんたちは慈善家じゃない。ちなみに所持金があるのはキャラを削除する前に誰かに預けていたのを受け取ったんだろう。
「そもそもカナデは父さんと同じチームに入ったんだし自分を対価にとか無理だよね?」
「私、プロゲーマー、やめた」
「はい?」
「あ、違っ……えっと、このゲームは単純に、楽しむためにやることにした」
「プロゲーマーとしての活動はするけど、このゲームは所属チームとか関係なく遊ぶってこと?」
「(コクッ)」
その後、カナデから長ったらしい説明を延々と受けることになったのだけど、要約すると指定された大会に出場さえすれば後は自由にしていいという契約らしい。
それでいいのかプロゲーミングチーム……
「なるほど……アンチカース・ポーションの対価についての話に戻すけど、価格は友達価格ってことで割引はするけどタダじゃ渡せないよ?」
「だから、対価、私」
「え」
「私、迷い家、入れて」
そう言ってカナデが拝むように手を合わせながら僕に頭を下げるのを見て僕は割と悩んだ。確かにカナデなら迷い家に入るための条件はクリアしているし、転移機能を利用するためにメンバーの増員は急務だ。それでもアイテムの対価としてギルドに所属させるというのは喉の奥に魚の小骨が刺さった時のような不快感を覚える。
「……………………分かった。対価は出世払いってことでアンチカース・ポーションで治るかどうか試してみよう」
「ありがとう!」
しかし、ただ不快だというだけで断るのもカナデに失礼なので僕はカナデを受け入れることにした。もっとも、ひとまずは呪いを解くことが先決なんだけどね。
…………………………………
……………………………
………………………
加工施設を借りて癒草の根からアンチカース・ポーションを作る。そうして出来たアンチカース・ポーションは前よりも若干であるけど効果が向上していた。ステータスが上がっているからか、そうでなけざ技能に熟練度のような隠しステータスがあるのかもしれない。
「はい、1本飲んで。スタックが減るようなら量産するから」
「ありがとう」
ここまで僕自身には関係してこなかったからスルーしていたけれど毒や呪いのような状態異常にはスタックという状態異常の強さを表す指標がある。例えば毒状態で[毒:100/60s]とある場合は毎秒100のダメージを60秒受けるという風になっている。
そしてカナデがうけた呪いは[呪い:ステータス固定/2412500s][呪い:経験値取得量減少(×0)/241250s][呪い:痛覚倍加/2412500s][呪い:デスペナルティ解除/2412500s][呪い:技能封印/2412500s]の5種類だ。それと2412500秒はおよそ28日だ。ログイン中しかカウントが進まないようなので自然に解除を待つとしたら2ヶ月近く必要になる。
「あー、うん。減ったね」
「ほんと!?」
効果が若干向上したとはいえアンチカース・ポーションでは6000しか減らない。このペースなら40本飲めば呪いを解くことが出来るんだけど、それで解けるのは[呪い:ステータス固定/236625s]だけだ。どうやら全ての呪いを解くには200本弱のアンチカース・ポーションが必要なようだ。
「カナデ。喜んでるところ水を差すようで悪いんだけど──」
「え、そんなに?」
スタッフの減り具合についてカナデに僕の予想を伝えると大きなショックを受けた様子だった。カナデが何を思ったのかは分からないけど、たぶん200本分の対価について考えたんだろう。
「そんなに飲んで太らない?」
「……VRだから大丈夫でしょ」
そんなこと考えていたのか。
「そうだった。でも200本分の素材、あるの?」
「そこなんだよね……僕の手持ちの癒草だけじゃ200本も作れないし、朱桜會が狩場を独占してた関係で組合の在庫もそんなに多くないみたいなんだよね」
「どうすれば、いい?」
「そりゃ自分で採取するしかないよね。それか少し時間とお金が掛かるけど組合に依頼して他のプレイヤーに取ってきてもらうってのもありだと思う」
「お金少ない、外出たらすぐ死ぬ、どうしよう?」
「ちょい割高で依頼を出して……うん、掲示板に書き込んじゃおうか」
この手の宣伝行為は褒められたものじゃないけど、それでも今回は責任を他所に押し付けることができるからね。依頼内容だけじゃなくてギルドの名前を出さないように注意して理由と目的も書き込んでおこう。
「マヨイ」
「ん?」
「すっごい、悪どい顔してる。かっこいい」
「ははは、ありがと」
かっこいいなんて言われ慣れてないからちょっと照れる。
僕は組合の受付で癒草の採取依頼を出してから掲示板の中で最も多くのプレイヤーが見ているであろう総合掲示板に書き込んだ。
【イベント】Continued in Legend 総合掲示板 39【おつかれ】
1.月
ここは主に雑談や専門のスレッドのない話題で盛り上がることを目的としたスレッドです。専門のスレッドがある話題が長引くようならどなたか誘導してあげてください。
それと運営によると誹謗中傷や第3者によるプレイヤーの個人情報の書き込みなどはアカウント停止処分などの処分が下る可能性があるそうです。
次スレは>>950が建ててください。
…………………………………
……………………………
………………………
321.マヨイ
おはようございます。
今回は緊急のお願いがあって書き込んでいます。
強力な呪いの状態異常を受けた女の子を救うためにアンチカース・ポーションが大量に必要になりました。しかし、その肝となる癒草の群生地を一部のギルドが占有し組合を介さず横流ししているためアルテラの組合では癒草が手に入りません。
そこで私はアルテラの組合に癒草の採取依頼を相場より高い金額設定で出すことにしました。どうか掲示板を見ている皆さんのお力を貸してください。
「さて、と……僕はテコの北山に行くけどカナデは?」
「呪いのスタック、減らしたいから、ずっといる」
「OK。ならフレンド登録し……あれ?」
「どうしたの?」
「フレンドのオリオンの欄がいつの間にかカナデになってる」
「……フレンド欄、マヨイやアイの名前あった」
「それじゃまたね」
「ありがとう」
こうして僕は当初の予定通りテコの北山へと向かうことにした。もし組合に出した依頼を誰も受けてくれなかったら僕自身で採りに行こうかな。それはそれで楽しそうだ。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
数字の細かなミスを修正しました。
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