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本編

第164話 マヨイは質問に答える。

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⚫︎マヨイ

あたってぇぇぇ みぃぃぃぃぃにゃぅ!!」

 クルルの口から放たれたブレスはまるでレーザーのようだ。
 その速度は僕の魔力弾と同じか少し早いくらい。至近距離から放たれれば回避するのは困難だ。しかし、その攻撃は僕に当たることはない。

なんでぇにゃぁ

 ククルは僕を中心に2~3mの高さを忙しなく移動している。
 しかし、常に正面からブレス攻撃から来るように調整しているので避けるのは簡単だ。

あたらないよぉみにゃぁぁ

 ククルは高速で宙を移動しながら僕の側面に回り込もうとする。しかし、僕が振り向くだけで側面は正面になる。ここでフェイントを入れるなどの工夫があれば多少は当たる確率も上がるんだけど、まだ実験経験に乏しいククルにそれは無理なようだ。

「そろそろ終わりにするよ」

はーいみゃぁ

 ククルのブレスが訓練場にいた他のプレイヤーを巻き込んでしまっているようなので今回はこれくらいで引き上げることにした。

またやりたいにゃぁ!」

 ククルの"戦いたい"というのは子猫が親猫にじゃれつくのと同じ感覚なんだろうか。子猫を育てたことないからどう接すればいいか分からない……ってククルは竜か。うん、そっちの方が分からないよね。

どこいくのーみぃ?」

「ひとまずは組合のエントランスかな」

 アルテラの組合にはスキルファウンダーというアイテムを手に入れることの出来るクエストがある。魔力弾に依存しているとも言える今の僕にとって喉から手が出るほど欲しいアイテムだ。
 僕は掲示板に書かれている情報を元に組合のエントランスの隅でテーブルにカードを並べているお爺さんNPCを探して話し掛けた。

「こんにちは、お爺さん」

「こんにちは。お嬢ちゃん」

 "くびり殺してやろうか、クソジジイ"と思いながらNPCにいちいちキレれても仕方ないと自分に言い聞かせて冷静に応答する。

「僕は男だよ」

「おっと、それはすまんかったな。それで何用かな」

「そのカードで何をしているのか気になったんだよ」

「これかい? これは占いじゃよ。昔取った杵柄というやつじゃ」

「へぇ……よかったら僕を占ってよ」

 掲示板の情報が確かなら占われると「◯◯というクエストを受けると良いじゃろう」とアドバイスされるはずだ。そして「もし◯◯というアイテムを譲ってくれるのならとっておきと交換してやろう」と交渉を持ち掛けられるんだったかな。

「いいじゃろう。そこに腰を掛けて待っておれ」

「分かったよ」

わかったよーうにぃ?」

 そうして大人しくお爺さんの対面に座ると30~40枚はありそうなカードの束をシャッフルし始めた。ただリフルシャッフルはカードの寿命を縮めるから辞めた方がいいと思う。

「ん、どうしたんじゃ?」

「え、あ、いや……そのシャッフルの仕方はカードが痛みそうだなって思っただけです」

 顔に出ていたのか不意に聞かれて素直に答えてしまった。

「ふむ……確かにそうかもしれんな」

 そう言ってお爺さんはヒンドゥーシャッフルをし始めた。ヒンドゥーシャッフルというのはカードゲームに詳しくない日本人が想像する普通のシャッフルのことだ。シャッフルの仕方や名前については父さんと同じプロゲーマーで主にFPSのゲームを中心に活躍しているジョージGeorgeベネットBennettさんから(イカサマの仕方も併せて)教わった。プロとしての収入だけで食べていけなかった頃にマジシャンとして活動していたらしい。

「さて、いくつか質問をするから答えてくれんか」

「はい」

「全力で戦ったことはあるか?」

「ないよ」

 このゲームを始めてから苦戦らしい苦戦は経験していない。蒼の使徒や厄だって戦闘が長引いただけで常に安全マージンを取りながら戦っていた。

「他人と比較して恵まれていると思うか?」

「思うね」

 素質や覚醒の獲得に関しては恵まれ過ぎていると言っていい。
 ただ人運に関しては仲間に恵まれた反面、変なプレイヤーとの遭遇率が高いから差し引きゼロだ。

「今の状況を維持するのを良しとするか?」

「しないよ」

 適当に習得した技能を放置して魔力弾だけでゴリ押ししている今の僕の状態は今後のことを考えると絶対によくない。

「自分より強いと分かっている相手に挑む気概はあるか?」

「勝ち筋が僅かにでもあれば挑むよ」

 僕としては"100%負ける"と決まっていないなら挑む価値はあると思ってる。

「最後の質問じゃ。儂に対して嘘を言ったことはあるか?」

「はい」

 お爺さんに話し掛けた理由については嘘だからね。ここで嘘を重ねることも考えたけど僕の勘がそれが悪手だと訴え掛けてきたんだ。

「ほぅ……どんな嘘を言ったのか教えて貰えるかな」

「お爺さんに話し掛けたのはカードで何をしているのか気になったからじゃなくて、お爺さんの頼み事を聞くとスキルファンウダーってアイテムを貰えるって聞いたからなんだ」

「ほぅ……」

 お爺さんは目を細めて僕の顔をまじまじと見始めた。
 実際、ここまで馬鹿正直に言う必要もなかった気がする。

「ひとまずは占いの結果じゃな。人難の相が色濃く出ておる。致命的な難事を回避するには自身の力と向き合う必要があるようじゃな」

じんなんーにゃぁん

「ありがとうございます」

 でも人運に関しては諦めてます。
 もう少し平和なMMO生活が送りたいよ。

「さて……スキルファウンダーが欲しいんじゃったか」

「はい」

「タダで渡してもいいんじゃが……そうじゃの、この組合の地下にある克己こっきの間に行きなさい。無事に出ることが出来たらスキルファウンダーを譲ろう」

「克己の間? 自分のコピーとでも戦うの?」

 克己は自分に打ち勝つとか、そんな意味だったはずだ。

「察しがいいの。何、克己の間に入る為の紹介状は儂が書いてやる」

 そんなわけで僕は自分のコピーと戦うことになった。

ククルはみぃ?」

「あ、ククル。テイムしているモンスターはどうすればいいですか?」

「揺り籠は持っておらんのか」

「揺り籠は持ってないです」

 この場合の揺り籠とは中にモンスターを封印することの出来るアイテムのことだ。錬金術指南書に書いてある内容通りなら人工魔石といくつかの素材を錬金術で加工することで作ることができる。

「なら揺り籠を手に入れたら声を掛けて来なさい」

「分かりました」

ましたみにゃー」

 スキルファウンダーを手に入れるために揺り籠を作る必要ができたわけだけど魔石はともかく必要な素材が足りていない。揺り籠を作るためには封印するモンスターと同種もしくは近似種のモンスターの素材が大量に必要になる。

「ワイバーンじゃダメっていうか、嫌だしなぁ……」

 ワイバーンは亜竜に分類されるモンスターだけど、正直言ってワイバーンとククルを近似種とは思いたくない。かわいくないし。

「そういえばテコの北山にいるのは難しい方の龍だっけ?」


───────────────
お読みいただきありがとうございます。
ちなみにテイム専門のプレイヤーにも揺り籠の存在は知られてません。まだ錬金術を使えるプレイヤーが片手で数えられる程度しかいませんからね。

リフルシャッフルは俗称であるショットガンシャッフルの方が知られてるイメージがありますね。カードが痛むんで見栄えを意識しない限りはやめておきましょう。
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