上 下
177 / 228
本編

第164話 マヨイは質問に答える。

しおりを挟む

⚫︎マヨイ

あたってぇぇぇ みぃぃぃぃぃにゃぅ!!」

 クルルの口から放たれたブレスはまるでレーザーのようだ。
 その速度は僕の魔力弾と同じか少し早いくらい。至近距離から放たれれば回避するのは困難だ。しかし、その攻撃は僕に当たることはない。

なんでぇにゃぁ

 ククルは僕を中心に2~3mの高さを忙しなく移動している。
 しかし、常に正面からブレス攻撃から来るように調整しているので避けるのは簡単だ。

あたらないよぉみにゃぁぁ

 ククルは高速で宙を移動しながら僕の側面に回り込もうとする。しかし、僕が振り向くだけで側面は正面になる。ここでフェイントを入れるなどの工夫があれば多少は当たる確率も上がるんだけど、まだ実験経験に乏しいククルにそれは無理なようだ。

「そろそろ終わりにするよ」

はーいみゃぁ

 ククルのブレスが訓練場にいた他のプレイヤーを巻き込んでしまっているようなので今回はこれくらいで引き上げることにした。

またやりたいにゃぁ!」

 ククルの"戦いたい"というのは子猫が親猫にじゃれつくのと同じ感覚なんだろうか。子猫を育てたことないからどう接すればいいか分からない……ってククルは竜か。うん、そっちの方が分からないよね。

どこいくのーみぃ?」

「ひとまずは組合のエントランスかな」

 アルテラの組合にはスキルファウンダーというアイテムを手に入れることの出来るクエストがある。魔力弾に依存しているとも言える今の僕にとって喉から手が出るほど欲しいアイテムだ。
 僕は掲示板に書かれている情報を元に組合のエントランスの隅でテーブルにカードを並べているお爺さんNPCを探して話し掛けた。

「こんにちは、お爺さん」

「こんにちは。お嬢ちゃん」

 "くびり殺してやろうか、クソジジイ"と思いながらNPCにいちいちキレれても仕方ないと自分に言い聞かせて冷静に応答する。

「僕は男だよ」

「おっと、それはすまんかったな。それで何用かな」

「そのカードで何をしているのか気になったんだよ」

「これかい? これは占いじゃよ。昔取った杵柄というやつじゃ」

「へぇ……よかったら僕を占ってよ」

 掲示板の情報が確かなら占われると「◯◯というクエストを受けると良いじゃろう」とアドバイスされるはずだ。そして「もし◯◯というアイテムを譲ってくれるのならとっておきと交換してやろう」と交渉を持ち掛けられるんだったかな。

「いいじゃろう。そこに腰を掛けて待っておれ」

「分かったよ」

わかったよーうにぃ?」

 そうして大人しくお爺さんの対面に座ると30~40枚はありそうなカードの束をシャッフルし始めた。ただリフルシャッフルはカードの寿命を縮めるから辞めた方がいいと思う。

「ん、どうしたんじゃ?」

「え、あ、いや……そのシャッフルの仕方はカードが痛みそうだなって思っただけです」

 顔に出ていたのか不意に聞かれて素直に答えてしまった。

「ふむ……確かにそうかもしれんな」

 そう言ってお爺さんはヒンドゥーシャッフルをし始めた。ヒンドゥーシャッフルというのはカードゲームに詳しくない日本人が想像する普通のシャッフルのことだ。シャッフルの仕方や名前については父さんと同じプロゲーマーで主にFPSのゲームを中心に活躍しているジョージGeorgeベネットBennettさんから(イカサマの仕方も併せて)教わった。プロとしての収入だけで食べていけなかった頃にマジシャンとして活動していたらしい。

「さて、いくつか質問をするから答えてくれんか」

「はい」

「全力で戦ったことはあるか?」

「ないよ」

 このゲームを始めてから苦戦らしい苦戦は経験していない。蒼の使徒や厄だって戦闘が長引いただけで常に安全マージンを取りながら戦っていた。

「他人と比較して恵まれていると思うか?」

「思うね」

 素質や覚醒の獲得に関しては恵まれ過ぎていると言っていい。
 ただ人運に関しては仲間に恵まれた反面、変なプレイヤーとの遭遇率が高いから差し引きゼロだ。

「今の状況を維持するのを良しとするか?」

「しないよ」

 適当に習得した技能を放置して魔力弾だけでゴリ押ししている今の僕の状態は今後のことを考えると絶対によくない。

「自分より強いと分かっている相手に挑む気概はあるか?」

「勝ち筋が僅かにでもあれば挑むよ」

 僕としては"100%負ける"と決まっていないなら挑む価値はあると思ってる。

「最後の質問じゃ。儂に対して嘘を言ったことはあるか?」

「はい」

 お爺さんに話し掛けた理由については嘘だからね。ここで嘘を重ねることも考えたけど僕の勘がそれが悪手だと訴え掛けてきたんだ。

「ほぅ……どんな嘘を言ったのか教えて貰えるかな」

「お爺さんに話し掛けたのはカードで何をしているのか気になったからじゃなくて、お爺さんの頼み事を聞くとスキルファンウダーってアイテムを貰えるって聞いたからなんだ」

「ほぅ……」

 お爺さんは目を細めて僕の顔をまじまじと見始めた。
 実際、ここまで馬鹿正直に言う必要もなかった気がする。

「ひとまずは占いの結果じゃな。人難の相が色濃く出ておる。致命的な難事を回避するには自身の力と向き合う必要があるようじゃな」

じんなんーにゃぁん

「ありがとうございます」

 でも人運に関しては諦めてます。
 もう少し平和なMMO生活が送りたいよ。

「さて……スキルファウンダーが欲しいんじゃったか」

「はい」

「タダで渡してもいいんじゃが……そうじゃの、この組合の地下にある克己こっきの間に行きなさい。無事に出ることが出来たらスキルファウンダーを譲ろう」

「克己の間? 自分のコピーとでも戦うの?」

 克己は自分に打ち勝つとか、そんな意味だったはずだ。

「察しがいいの。何、克己の間に入る為の紹介状は儂が書いてやる」

 そんなわけで僕は自分のコピーと戦うことになった。

ククルはみぃ?」

「あ、ククル。テイムしているモンスターはどうすればいいですか?」

「揺り籠は持っておらんのか」

「揺り籠は持ってないです」

 この場合の揺り籠とは中にモンスターを封印することの出来るアイテムのことだ。錬金術指南書に書いてある内容通りなら人工魔石といくつかの素材を錬金術で加工することで作ることができる。

「なら揺り籠を手に入れたら声を掛けて来なさい」

「分かりました」

ましたみにゃー」

 スキルファウンダーを手に入れるために揺り籠を作る必要ができたわけだけど魔石はともかく必要な素材が足りていない。揺り籠を作るためには封印するモンスターと同種もしくは近似種のモンスターの素材が大量に必要になる。

「ワイバーンじゃダメっていうか、嫌だしなぁ……」

 ワイバーンは亜竜に分類されるモンスターだけど、正直言ってワイバーンとククルを近似種とは思いたくない。かわいくないし。

「そういえばテコの北山にいるのは難しい方の龍だっけ?」


───────────────
お読みいただきありがとうございます。
ちなみにテイム専門のプレイヤーにも揺り籠の存在は知られてません。まだ錬金術を使えるプレイヤーが片手で数えられる程度しかいませんからね。

リフルシャッフルは俗称であるショットガンシャッフルの方が知られてるイメージがありますね。カードが痛むんで見栄えを意識しない限りはやめておきましょう。
しおりを挟む
感想 576

あなたにおすすめの小説

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

処理中です...