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本編
第162話 リエルは巻き込まれる。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
ゲーム12日目。第1回イベント終了の翌日。
ログインすると運営からお知らせが届いていた。
ログアウトした訓練場の出入り口に突っ立ったまんまというのも変に視線を集めてしまうので訓練場の隅に移動してお知らせを開く。
[運営:イベント報酬の受け取りに関して]
[運営:転移機能の解禁について]
[運営:不具合の修正とお詫び]
[運営:緊急メンテナンスの実施とお詫び]
「不具合?」
イベントの報酬や緊急メンテナンスも気になるけれど、まずは不具合が確認することにした。
「あー、やっぱり不具合だったのか……」
どうやら昨日の段階で[訓練場内で死亡したプレイヤーがリスポーン地点を選択できない不具合][アルテラの訓練場で強制ログアウトが実行されなかった不具合][ステータスを上昇させる効果を持った技能を複数発動させた場合の計算式に誤りがあった不具合][ダンジョンを崩壊させた場合に大量の経験値を獲得してしまう不具合]の4つの不具合が確認されていたらしい。
ただ訓練場で死亡したプレイヤーが訓練場のリスポーンエリアでしかリスポーン出来なかったのは僕にとってはラッキーだったのかな。もし別の場所でリスポーンできる本来の仕様通りなら朱桜會との決闘をすることになっていただろうし……とはいえ朱桜會のメンバーをリスキルした手応えからして結果は同じだったろうけど。
「で、お詫びはまたリンゴジュースか。この運営の怒涛の林檎推しはなんなの?」
不具合4つに対してリンゴジュース4本、それらを修正するための緊急メンテナンスにリンゴジュース1本が配られた。リンゴジュースは前にも配られた経験値の獲得量を一時的に増やすアイテムだ。
「転移機能はギルドの機能の1つなのか……早めに開放しておいた方がいいよね」
別の街へ一瞬で移動できるらしい転移機能は組合に少なくない額を支払うことで使用可能になるようだ。それぞれの組合に直接出向き登録費用として10万R以上払う必要がある。登録費用が10万R"以上"なのは様々な要因で登録費用が上乗せされていくことがあるようだ。
迷い家としては資金は余り気味だし早めに登録してしまいたい。
「で、イベントの報酬は……あ、あった」
イベントはパーティランキングとギルドランキングどちらも1位だった。
パーティランキングの報酬はイベントエリアでモンスターを倒すと低確率でドロップした10種類の武器や防具・100万Rだ。もちろん僕らは全種類手に入れているので無用の長物である。
ギルドランキングの報酬は事前のアナウンスにもあったギルドエリア設置権だ。ギルドエリアを設置するには組合に行って申請をする必要があるようなのでギルドメンバーで相談してから色々と決めたいね。あとは"エイト領主からの招待状"というアイテムとギルド資産として500万Rが振り込まれている。
「招待状を使うなら皆んなログインしている時にしたいな」
今日は中学生組は登校日ということで夜までログインしないようだ。藍香も用事があるとかで今日はログインしないため、久しぶりのボッチ状態である。
そう思っていると空から白い何かが僕目掛けて突っ込んで来た。
「み!」
「ん?」
「すてないでー」
「っと……ククルか。ごめん、すっかり忘れた」
クレアにモフモフされてたククルをギルドホームに放置していたことに今更ながら気がついた。それにしても、どうやってここまで来たんだろ?
「わすれないで!」
「ごめんな。何かしたいことがあれば叶えてあげるから」
「ほんと?」
「ほんと、ほんと」
「たたかいたい!」
僕は餌としてイベントエリアで倒したモンスターの不用な素材を何度か与えている。肉系の素材が好物らしいので僕はてっきり餌をねだられるものかと思っていた。ククルの反応は予想外だった。
「え、どうしよう……」
今更だけどククルは同調という技能を持っている。テイマーもしくはパーティメンバーの1人と基礎ステータスが同じ値になるというテイマーの中ではハズレ扱いされている技能だ。多くのテイマーはステータスが偏ってしまう傾向にあるようなのでそれは仕方ない。
ちなみに技能まで同じになるわけじゃない。ククルの場合は最初から同調以外にも飛行と息吹を持っていた。現在はそれらに加えて"寝る仔は育つ"や"猫突猛撃"などの技能が追加されている。いつ習得したのかは分からないけどククルがよく寝ているのはこれのせいかな。
名称:寝る仔は育つ
タグ:睡眠 成長 可愛い
効果:睡眠中、親と認識した対象が経験した事象を学習する。
睡眠以外の状態異常にならない。
積極的に戦闘に参加しなくなる。
制限:モンスター限定技能
成体未満
名称:猫突猛撃
タグ:猫 強化 可愛い
効果:戦闘中、移動速度+50%
戦闘中、攻撃速度+50%
戦闘中、技能再使用時間-100%
制限:[タグ:猫]モンスター限定技能
タグに"可愛い"なんてあるのかとかも含めて色々とツッコミどころのある技能だけど強いのは間違いない。
ククルは基礎ステータスだけなら僕と同じ。そこら辺のモンスターでは相手にならないだろう。適当な相手がいれば……いるじゃん。
「なら僕と戦おうか」
「パパとあそぶー!」
ちょうど訓練場にいるからね。前よりかは実力を隠さないことにしたのだからプレイヤーの前で戦っても別にいいだろう。
だから流れ弾が当たっても事故だよ、事故。
⚫︎リエル
私は当然ログアウトしたアルテラの訓練場にログインしていました。すぐに運営さんからのお知らせが来ていることに気がつきましたが、それよりも普段は人の少ない訓練場が妙に騒がしいです。気になったのでまずはそちらの原因を探ることにしました。
「なに、あれ……」
そこにいたのはお口からビームを放ちながら空を高速で駆ける翼の生えた猫ちゃんと、私たちの心を根本からへし折った迷い家のギルドマスターさんでした。
「みぃぃぃぃぃにゃぅ!!」
猫ちゃんのお口から放たれたビームを迷い家のギルドマスターさんは余裕綽々といった感じで回避します。回避されたビームの先にいた野次馬プレイヤーは文字通り消し飛びました。昨日の私たちもあんな感じだったんですかね。
「あれって、テイムモンスターだよね……?」
ソプラがワイバーンに襲われた時のような例外を除けば、組合の訓練場で戦えるモンスターは基本的にテイムされているモンスターだけです。そして猫ちゃんをテイムしているように見受けられるプレイヤーは見当たりません。つまり猫ちゃんは迷い家のギルドマスターさんがテイムしているモンスターということになります。
「迷い家のギルドマスターさんだけでもアレなのに……」
現実逃避気味に先ほどから目まぐるしく更新されているギルドチャットを見ると、昨日の敗北の結果が組合に張り出されていることに関して大なり小なりの混乱が見られます。負けた責任を取れという声も少なくありませんが、昨日の決闘に参加しようとしてくれていたメンバーの多くは「いや、あれは無理ゲーだろ」「逃げ出した奴が文句言ってんじゃねぇ」と擁護してくれています。
やっぱり仲間とか友達というのはいいですね。
「あ、しまっ──」
そんな事を考えていたら流れ弾を回避できず死にました。
不幸とか理不尽と言っても過言ではないと思いますが、これからもギルドの皆んなと協力してコツコツと頑張っていこうと思います。
[リスポーン地点を選択してください]
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
リエルは不憫系のネタキャラになってますけど、これからも凄く大変な目に遭うと思います。強く生きてください
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