上 下
174 / 228
本編

第161話 渡辺久美子は策を巡らせる。

しおりを挟む

⚫︎呉朱莉

「朱莉はいるか!」

 隣のクラスの嶺村くんが私を尋ねて来たのは放課後のホームルームの後、織姫が部活に行ってしばらくしてのことでした。その横やなはいつもの女の子がいて私を睨んでいます。あ、今日は1人なんですね。

「こんにちは、嶺村くん。今日は何の御用ですか?」

「朱莉もCiLシールやってるだろ。一緒にパーティ組もうぜ!」

「嫌です」

 お兄さんたちから「そういう相手には勘違いの余地がないほど端的にハッキリと意思表示をするべきだ」とアドバイスを貰いました。

「なっ……なんでだ!?」

「私が嶺村くんのことを嫌いだからです」

「そんなはずない!」

「なんで聡が嫌われなきゃならないのよ!」

「常に周囲に彼女面している人たちがいて、その人たちが私を誹謗中傷しているのを側で見聞きしているにも関わらず止めようとしない。そんな男の子は嫌われて当然だと思います」

「っ!?」

「はぁっ!?あんたが聡に言い寄ったんでしょうが!!」

「それは何のことですか? 言い掛かりも大概にしてください」

 階段でよろけたところを助けられたことはありますけど、そもそも助けられなくても普通に着地できる高さと体勢でした。よろけた原因も目の前の彼女と肩がぶつかったからです。それとも彼に助けられたら彼を好きにならないといけない決まりでもあるんでしょうか。

「……気持ち悪い」

「なんですって!?」

 いけません。彼に言い寄ろうとする自分を想像したら吐き気を催してしまいました。

「ねぇ……私の親友に何してんの?」

「ひっ……」

「アカちゃん!」

「良いところに来た!暁からも何か言ってくれよ!」

「前にも言ったけど下の名前で呼び捨てにしないで。朱莉、こんなのと関わっても時間の無駄だし行くよ」

「う、うん」

 アカちゃん、すっごく怒ってるような気がします。
 私が嶺村くんたちに嫌な思いをさせられたことに怒ってくれてるのかな。不謹慎かもしれないけど少し嬉しいです。

「あ、ちょっと!!」

「あ、そうだ。朱莉、ちょっと生徒会室に寄るけどいい?」

「え、うん。いいよ」

 アカちゃん、書記だもんね。何か仕事があるのかな?
 そう思っているとアカちゃんは私の手を引きながら生徒会室に向かう途中で空き教室に入りました。息を殺して数秒待つと追いかけて来た嶺村くんたちが通り過ぎて行きました。嶺村くんたちの足音が聞こえなくなってから空き教室を出てました。

「あれ、行かないの?」

「行かないよ。ああ言えば生徒会室前で出待ちするだろうから安全に帰れるってだけ」

「アカちゃん、偶にお兄さんみたいになるよね」

「えへへ……そう?」

 お兄さんの話題になると卑屈になることが多いアカちゃんですが、お兄さんに例えられて褒められると急に照れます。かわいいです。ただ織姫ちゃんによるとアカちゃんは"つんでれ"という不治の病にかかっているそうで、普段はお兄さんに辛辣な態度を取ってしまうことがあるみたいです。

「朱莉、ウチで一緒に宿題やらない?」

「やります」

 久しぶりにお兄さんの家で勉強することになりました。
 現実でお兄さんと会うのは久しぶりなので楽しみです。



⚫︎渡辺久美子

 登校日の放課後、生徒会室で中澤から妹への教育が終わったという連絡を受けてから数分もしない内に会計の進藤しんどうせつがやって来た。

「ねぇ、廊下に変なカップルいたんだけど……」

「え、なにそれ?」

「何かここの様子を伺ってるみたいでさ。片方は確か……暁ちゃんの友達のストーカーだったかな」

 暁ちゃん。それは宵ちゃん様の妹御で生徒会の書記だ。
 まだ暁ちゃんには伝えてないけど、ファンクラブの総力を挙げて彼女を次の生徒会長にすることになっている。

「そんなのが何で入り口にいるの?」

「わかんないから聞いたんだけど……ここに暁ちゃんがいるとでも思ってるとか?」

「暁ちゃんの友達のストーカーなのよね?」

「確かに変だね。アレは暁ちゃんの友達もここにいると思ってるってこと?」

「……ここで話していても無駄ですから直接聞いてしまいましょう」

 そう言って廊下に出ると、そこにいたのは幼さが残る優しげな風貌の男の子と不機嫌そうな雰囲気を発しながらチラチラと男の様子を伺っている女の子だった。暁ちゃんの友達のストーカーって男女の2人組だった?なにそれ怖い。

「こんにちは。生徒会室に何か用事?」

「あ、ここに暁は来ていませんか!?」

「うちの書記に何か用事でもあった?」

「暁が朱莉と生徒会室に行くと言っていたので出てくるのを待ってたんですよ」

 暁ちゃんは男から下の名前で呼ばれるのを嫌がる傾向にある。
 特に呼び捨てを許容しているのは家族以外には居ないと本人から聞いている。つまり目の前で暁ちゃんを何の臆面もなく呼び捨てにしている男は暁ちゃんを不快な気持ちにさせているのだ。

「そっちの女の子も?」

「私は聡がここに来たいって言ったからついて来ただけよっ」

 ここで私も何となくではあるが彼らの事情を把握できた。
 目の前の害虫は暁ちゃんに出し抜かれた間抜けなのだ。

「なら少し廊下で待っててくれるかしら。ちょうど2人に仕事を頼んだところで手が離せないのよ」

「なら俺にも手伝わせt……」

 手伝いを申し出ようとした彼の言葉を遮るようにして私は生徒会室の扉を閉めた。扉の向こうでは連れの女の子がブツクサと文句を言っているようだけど、別に私は宵ちゃん様に全てを捧げてるだけで高飛車でも高慢でもないのよね。

「暁ちゃんがいないのにいいの?」

「構わないわ。あの子たちにはせいぜい待ちぼうけして貰いましょう」

「ったく……付き合わされる身にもなってよ」

 そう言って雪は生徒会室の鍵を内側から掛けた。
 私も開けていた窓を締める。これで生徒会室は密室だ。

「これを見つけたのって藍香先輩なんだっけ?」

「いえ、宵ちゃ……真崎先輩よ」

「いや、今更それ誤魔化す必要ある?」

「……ないわね。これは宵ちゃん様が見つけたらしいわ」

 そう言って私は生徒会室の壁際に固定されている本棚の1番下の段に入っている学校史を取り出す。実はこの棚の向こう側に人が1人通れる程度の隙間があるのだ。

「っと……ねぇ、前は埃があったのに随分と綺麗になってない?」

「暇だったから掃除したのよ」

 学校史を元あった場所に順番を意識して戻す。これは宵ちゃん様からここを教えて貰った時に「順番がめちゃくちゃになってれば怪しむ人ががいるかも知れないからね」と注意されたのよね。

「一番意味が分からないのは普通の学校になんで隠し通路みたいなのがあるかってことなんだけど……」

「今は宵ちゃん様がふさいでしまったけど、元々は監視用の覗き穴があったみたいよ」

「へぇ……」

「この建物を設計した人が何を考えていたのかなんて知らないけど、こうして有効活用されてるのだから設計者冥利に尽きるんじゃないかしら」

 こうして私たちは隠し階段を降って地下通路を経由してから中庭の銅像近くにある出口から外に出た。この地下通路は学校の敷地内の何箇所かに繋がっていて便利なんだけど意外と複雑なのよね。

「さて帰るわよ」

「あれ、クミのことだから廊下にいた2人に何かするのかと思ったんだけど何もしないの?」

「そんなの身辺調査をしてからに決まってるでしょ」

「……あ、はい」


…………………………………


……………………………


………………………


 その日のうちに使色々と調べさせた。
 ストーカーの彼は宵ちゃん様ほどではないにしても文武両道で、よく言えば気さくで人当たりが良い性格をしているみたいだけど、報告を読む限りでは馴れ馴れしく軽慮と言った方がいいわね。思い込みが激しく、隣のクラスの女の子に彼氏面をして付き纏っている……これが暁ちゃんの友達かしら。

「お嬢。昨日頼まれてた身辺調査の追加報告が来ました」

「ありがとう。後で読むから貰えるかしら」

「どうぞ。それと例のゲームの追加スロット分を無事に確保出来ました」

「そう……ならファンクラブのメンバーの中で貢献度の高い者から順に配りなさい。もし興味があるようなら貴方たちが優先的に受け取ってもいいわよ?」

「…………では私と田代、他数名の分をいただきます」

 彼らはお父様が私の為に用意してくださった護衛だけど、最近は小間使いのような仕事ばかりさせてしまっている。ゲームをするのは息抜きにちょうどいい。そして受け取った追加報告に目を通すと面白いことが書いてあった。

「思考誘導ですか……」

 それは暁ちゃんのクラスメイトである鏑木悠太が同じくクラスメイトである佐藤拓哉・天城司・鳥野クリスの3名に対して暴力や支配欲を肯定するように思考を誘導していた可能性が高いという報告だった。
 動機は今のところ判明していないようだけど、暁ちゃんの側でそのような危険な行為が行われているのを見逃すことは出来ない。私は迷うことなくファンクラブの総力を持って彼らを排除することに決めた。

「でもまずは藍香先輩に相談ね」


───────────────
お読みいただきありがとうございます。
彼女の方は早々に帰りましたが嶺村の方は夜7時近くまで待っていたそうです。

現深森中生徒会陣容
会長  3年生 渡辺久美子 宵ちゃんFC発起人。
副会長 3年生 畠山早苗  藍香の従姉妹。ゲーマー。
              宵ちゃんFCは黙認。
会計  3年生 進藤雪   宵ちゃんFC会員。早苗の親友。
書記  2年生 真崎暁   気がついたら生徒会役員。
庶務  2年生 金森飛鳥  宵ちゃんFC会員。未登場。
顧問  教師  滝沢佳子  顧問。宵ちゃんFC会員,
              ショタコン。カプ厨。

選挙で選ばれる会長と副会長以外は会長(と顧問)に任命権があります。
金森飛鳥以外は(番外編含めれば)登場済みですね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
この作品は 旧題:金運に恵まれたが人運に恵まれなかった俺は、現実逃避するためにフルダイブVRゲームの世界に逃げ込んだ の内容を一部変更し修正加筆したものになります。  宝くじにより大金を手に入れた主人公だったが、それを皮切りに周囲の人間関係が悪化し、色々あった結果、現実の生活に見切りを付け、溜まっていた鬱憤をVRゲームの世界で好き勝手やって晴らすことを決めた。  そして、課金したりかわいいテイムモンスターといちゃいちゃしたり、なんて事をしている内にダンジョンを手に入れたりする主人公の物語。  ※ 異世界転移や転生、ログアウト不可物の話ではありません ※  ※修正前から主人公の性別が変わっているので注意。  ※男主人公バージョンはカクヨムにあります

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞
SF
「お前もういらないから」  大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。  彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。 「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」 「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」  個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。 「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」  現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。  私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。  その力、思う存分見せつけてあげるわ!! VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。 つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。 嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

処理中です...