172 / 228
本編
第159話 マヨイは要求する。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
「ちょ、ちょっと待っ「ZAP」──」
突発的に始まった前哨戦。ミケ猫ジェロニモス(と他数名)の次は止めに入ろうとしたリエルだ。何故なら、ここにいるプレイヤーの中では僕の次くらいにステータスが高く、朱桜會のギルドマスターということもあって彼女を倒せば間違いなく相手方の士気を挫くことが出来ると判断したからだ。
「訓練場からで「ZAP」」
次に倒したのはナカミアという名前の女性プレイヤー。言い終わる前に近くにいたプレイヤーごと吹き飛ばしたけど、確かに訓練場から出れば決闘開始前に僕に殺されることはなくなる。
「ZAP、ZAP、ZAP」
この訓練場で殺されたプレイヤーは訓練場の出入り口近くにあるリスポーンエリアで復活したようだ。リスポーン場所は選べるはずなので訓練場でリスポーンするなんてリスキルしてくれと言っているようなものだ。ここで3回倒してしまえば決闘本番を待たずに僕の勝ちが確定するので決闘後の面倒な交渉を省くためにも彼らには3回死んでもらおう。
「お、俺らは関係ないぞ!」
「ZAP」
知らないよ。こっち見て録画してた時点で君も敵だ。
「リスキルなんて汚ねぇぞ!」
「ZAP」
だからどうした。先に手を出したのは朱桜會サイドだ。
僕は敵対した相手には容赦できない。
「ありがとうございます!」
「死ね」
やめろ。気持ち悪い笑顔で突っ込んでくんな。
「もうやめてぇぇぇええ!!!」
「ZAP」
ギルド対ギルドの決闘で不戦勝っていうのも格好付かないけど、これは君の仲間が選択した結果だ。甘んじて受け入れろ。
「ZAP」
「はっ、来るのわかってればよゆ──」
「ZAP、ZAP、ZAP」
意外にミケ猫ジェロニモスには1発だけ防がれてされてしまったけど、そのドヤ顔が癪に触ったので複数発撃ち込んでやった。結果だけみれば他のプレイヤーと大差ない。
「こんな理不尽なことあるっ!?」
「ZAP」
そうこうしている内に僕以外の訓練場にいたプレイヤーはリスポーンエリアにすし詰め状態になった。おかげで細かな照準を定めずともリスキルが出来て楽でいい。
「ZAP、ZAP、ZAP」
復活したプレイヤーの多くが僕に向かって状態異常やステータスを低下させる魔術を使ってくるんだけど、そもそも僕に状態異常は効かないし、僕に対するステータスを低下させる効果は全て増加に反転する。
「ZAP、ZAP……ふぅ……これで終わりかな」
こうして5分ほど魔力弾を撃ち続けた僕は朱桜會と朱桜會の協力者らしきプレイヤーのほぼ全員を3回殺してログインが8時間禁止されるデスペナルティを与えた。どうやらリスポーン地点が訓練場に固定されているらしい。僕としてはラッキーだったけど、念のために運営に連絡を入れておこうかな。
…………………………………
……………………………
………………………
決闘開始直前に訓練場に現れたのは支部長であるギュンターだった。おそらく彼は今回の決闘の審判というか見届け人なんだろう。彼は無数のクレーターができた訓練場の惨状に驚き、次に朱桜會のメンバーと思しき人物がいないことで僕が関わっていることに気付いたらしい。すぐに僕に事情を説明するよう求めて来た。
「その小競り合いで訓練場に大量のクレーターが出来て防護壁がズタボロになったと?」
「……はい」
「小競り合いで相手を全滅させてしまったが、それは相手が想定以上に弱かったからで故意ではないと言いたいのか?」
「あー、そこは微妙かな。少なくとも僕に攻撃を仕掛けて来た奴は潰すつもりだったよ」
「訓練場から逃げ出した者はいるか」
「僕もそこまで鬼じゃないよ。僕に向かって来なかった奴は見逃したさ」
「部下が見た様子では出入り口に陣取っていたようだが?」
「生憎と僕に向かって来た奴らが僕へ攻撃を仕掛けようとしていたのか、それとも訓練場から退避しようとしたのかは判別が難しくてね」
「その結果が……あれか」
「あれだね」
そう言って僕とギュンターはリスポーンエリアの端で震えているプレイヤーに視線を向けた。さすがに不戦勝というのは申し訳ないのでリエルだけは2回しか殺さなかったのだ。
「はぁ……しかし、もう予定時刻を過ぎてしまったぞ。朱桜會側は彼女だけか?」
「ここに残っているのは彼女だけだね」
僕は野次馬も含めて80人近くのプレイヤーがいたにも関わらず単調なステータスのゴリ押しに蹂躙されるがままだったことに若干の虚しさを覚えていた。たぶん1人か2人くらい僕の知らない技能を使って反撃するなり逃げるなりすると期待してたのかな。
「会話ができるような状態には見えないが……」
そう言いながらギュンターは自失状態にあるようにしか見えないリエルに話をしに行った。プレイヤーに対する精神的な負荷が大きくなると強制的にログアウトされる仕組みなのでリエルは今のところ(ギリギリな気がするけど)大丈夫なんだろう。
しばらくするとギュンターはリエルを連れて戻って来た。
「マヨイ。朱桜會は決闘を棄権するそうだ。不戦勝という扱いにはなるが勝ちは勝ちだからな、朱桜會に対する要求を改めて聞こう」
「……まず朱桜會はギルド名の変更をしないこと」
「ほぇ?」
予想していなかった要求だったのかリエルが変な声を出した。
ちょっと面白い。
「次に現時点で朱桜會に所属しているメンバーの追放・脱退・移籍の原則禁止。ギルドの解散も原則禁止。相応の理由がある場合は組合に届け出て認可を貰ってください」
「こっちの仕事をあんまり増やさないで欲しいんだが」
「組合が僕の装備の概算を朱桜會側に漏らしたことについて追求してもいいんですよ?」
「分かった。任せてくれ。ただ永続的な制限は組合のルールに反するから期限を決めてくれないか」
永続的な禁止は組合のルールに抵触するようなので期限を1年間とした。そして実はキャラクターを削除するには所属なしの状態である必要がある。つまり朱桜會のメンバーは1年間キャラクターの削除を禁止されたのだ。脱退して逃げるとか許さないから。
「そして3つ目は今後1年間、朱桜會は組合を仲介しない取引・依頼・交渉を行わないこと。それに違反した場合、組合は相手側を含めて相応の違反金を課してください。違反金の金額については組合が決めて貰えると助かります」
「いいだろう」
これは朱桜會とPiCとの癒着を制限するための要求だ。もっとも交渉相手が朱桜會でなくなるだけでPiCは今後も市場操作をしようとするんだろうけどね。
ちなみに朱桜會から組合に支払うことになる仲介料は本来のものよりも少し高額になる。その割増分や違反金の一部が今回の迷惑料ということで迷い家に入ってくることになっている。
「4つ目は今回の発端となった朱桜會のメンバーからの正式な謝罪ですね。これが1週間以内になかった場合、朱桜會から任意のモノを迷い家が貰い受けます。安心して下さい、個人の所持金や装備を要求することはしません」
個人的には謝罪して貰いたい気持ちはまだあるけど、この場に居なかった時点で半ば諦めてるんだ。それなら欲しいものを手に入れる方向に舵を切ってもいいよね。
「そして……これらの内容が書かれた張り紙を近隣の組合に張り出してもらえませんか。それと組合は現時点でログインしているリエル以外の朱桜會に所属している全てのメンバーに非公開不可の不名誉称号を与えてください」
「………….どこで気がついた?」
「あ、やっぱりそうなんですね」
「カマかけられたってことか」
「はい。すいません」
「ちっ……希望は叶えてやるから言わないでくれよ?」
「信用できない人に教えたりなんかしませんよ」
「?」
僕とギュンターのやりとりが理解できなかったらしいリエルの頭の上には大きな疑問符が浮かんでいたけど分からないならそれでいいんじゃないかな。
「それじゃ今日はありがとうございました」
「ああ、これからは穏便に済ましてくれよ」
こうして迷い家と朱桜會との間で起こった一連のトラブルは一旦の収束となった……はずだ。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
マヨイは何に気づいたんでしょうね。
41
お気に入りに追加
2,268
あなたにおすすめの小説
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる