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本編
第158話 マヨイはZAPする。
しおりを挟む⚫︎リエル
迷い家のギルドマスターさんが訓練場を後にしてから少しして朱桜會のメンバーがやって来ました。最初は参加しないと言っていたDチームの皆さんもいます。
「お待たせ。Dチームも説得できたから連れてきたわ」
「ナカミアさん!ありがとうございます!!」
「PiCも戦闘系プレイヤーを派遣してくれるってよ」
「ミケ猫さんもありがとうございます」
迷い家のギルドマスターさんは私がギルドメンバーから裏切られたって言っていたけど、こうして当初の予定よりも多くのプレイヤーが駆けつけてくれました。
「それにしてもあいつら……援軍を出し渋って足元見てきやがったぞ。何のための同盟だよ」
「こうして援軍を出してくれたのだからいいじゃない」
「そうですよ!」
「ま、逃げ出した奴らに比べればマシか」
「そうね。追放機能が凍結されてなかったら追放してたわよ」
「そ、そんなに怒らなくても……」
ナカミアさんもミケ猫さんも今回の決闘に参加しないギルドメンバーに対して怒り心頭です。今もギルドチャットでは私に対して「責任取ってギルマスやめろ」とか「無能ギルマスと心中とか勘弁」とか色々と書かれています。
「ギルマス、チャット見るのは構わねぇけど反応はすんなよ」
「っ」
「確かに反応するだけ無駄ね。負ければ自分たちがどうなるかも分かってないみたいだったし」
今回の決闘は抗争宣言された相手に対する賠償金を私たちが払えないから起こったものです。勝者は敗者に対して無理のない範囲で要求を通せるルールなので勝てれば賠償金の減額をお願いするつもりでした。しかし、その"減額"というのが良くなかったみたいで「何で踏み倒さないんだ!」とか「迷い家に装備や金を要求しろよ」と怒り出したメンバーもいました。
「タイタンの糞野郎が迷惑掛けたのは事実みたいだからな。いくらなんでも7億は払えねぇけど、いくらかは払うべきだろ」
「その……迷い家のギルドマスターさんとさっき会ったら"タイタンからの謝罪が大前提"だって言ってました」
「マジで俺らに勝てるつもりなのかよ」
「で、リエルちゃんのことだから見たんでしょ?」
「うっ……は、はい」
私は観測という技能を持っています。使い方は鑑定技能とほとんど同じ技能なんですけど、鑑定と違って相手が人ならステータスしか看破できません。でも代わりに無効にされないという鑑定にはないメリットがあるんです。
「それで彼のステータスはどれくらいだったの?」
「……細かなところは覚えられなかったけどステータスが全部1000万を超えてました」
「「「「「「!?」」」」」」
ここまで会話に入って来なかったメンバーも含めて全員の顔が驚愕に染まりました。それも仕方ありません。だって朱桜會で最も平均ステータスの高い私で1番高い筋力のステータスが40万ちょっとなのです。
「チート……ではないよな?」
「……違うでしょうね」
「ギルマスの観測って補正値込みのステータスの看破なんだっけ?」
「そうですよ」
「ってことはステータスをそれだけ上げられるぶっ壊れ技能があるってことだよな?」
「いくらなんでも決闘までの40分ちょっとの間に習得できるもんじゃねぇだろ」
「そうだよなぁ……」
「負けたら何を要求されるんだ?」
「ま、まだ負けると決まったわけじゃねぇし……」
「その、めちゃくちゃにするって言ってました」
「マジか……」
ミケ猫さんの顔は顔を歪ませ何やら考え始めました。口や態度が軽くて悪くてオマケに短気なのが玉に瑕ですけど、ミケ猫さんは朱桜會の仲間には比較的親身な人です。それにギルドの中ではトップクラスのプレイヤースキルを持っています。
「……それでも相手は1人だ。人数の有利を活かして押さえ込んだところに状態異常攻撃を浴びせて戦力差を埋めるってのはどうだ?」
「チャラ王さんと対戦した後で状態異常が効かないって言ってましたよ?」
「……デバフならどうだ?」
「なら頭数がもっと欲しいわね。ここに来てない奴らや親交のあるギルドを説得しないと……」
「チッ……マジで面倒クセェな」
こうして私たちは決闘までの残り時間を限界まで割いて迷い家のマスターさんと戦ってくれる人をかき集めました。朱桜會のメンバーも追加で6人も来てくれることになったし、PiCや中小規模のギルドからの援軍も何だかんだ文句を言いながらも駆けつけてくれました。当初の5倍以上、67人で彼に臨むことになります。
もう何も怖くありません!!
⚫︎マヨイ
僕が決闘が始まる10分前に訓練場に到着するとリエルの周りには人集りが出来ていた。聞いていたよりも多いように見えるので僕と話した後で頑張って人を増やしたんだろうか。
「来たぞ」
「あれが迷い家のギルマスか」
「小さくね?小学生?」
「ギリギリ中学生ってところか」
「あれが7億の装備?」
「嘘、あれで男の子なの?」
「勝てば奪えたりすんのかな」
野次馬なのかリエルの仲間なのか判別出来ないプレイヤーたちからの不躾な視線が向けられる。それと同時に聞こえてくる会話の話題も僕のことが大半らしく、僕の神経を逆撫でするような内容ばかりだった。
リエルはともかく朱桜會サイドのプレイヤーからも凄い睨まれてるけど、とりあえず挨拶はしておこうと彼らに声を掛けることにした。
「こんばんは。迷い家のギルドマスターをしているマヨイと言います。お手柔らかにお願いしますね」
「その、嘘をついたみたいになっちゃってすいません!!」
「あぁ……聞いていた話よりも多くの方が来ていることについては気にしてませんよ。どうせ結果は変わりませんから」
「「「「!?」」」」
「イキってんじゃねぇぞ、クソ野郎。てめぇのせいで俺らにどんだけ迷惑掛けてんのか自覚ねぇのか。抗争宣言なんてしねぇで普通に謝罪を求めればいいだけだろうが」
軽くジャブのつもりで挑発するとリエルの隣にいるミケ猫ジェロニモスが言い返してきた。確かに彼の立場からすればとばっちりなんだろうけど彼にそれを言う資格はないよね。
「はぁ……君は僕の装備の資産額を掲示板に晒したよね。ここに来ているプレイヤーの中には僕の装備が目当てのプレイヤーもいるみたいだけど、君は僕に迷惑を掛けている自覚はないのかな?」
「はぁっ!? あれは組合が俺らに教えたことだろ。だったら公開情報だろうが!」
「もしかして自分のネットリテラシーのなさが未就学児レベルだって自慢してるの? ちょっと高度過ぎてついてけないや。ごめんね」
「こんのっ」
図星を突かれたのかミケ猫ジェロニモスは背中の大剣を抜いて斬りかかって来た。ここは訓練場の敷地内なのでPK行為は問題にはならないと言えばならないんだけど、まさか軽く挑発しただけで斬りかかってくるほど短気な人物だったのか。
「っ」
ひとまず僕はバックステップで彼の攻撃を避け……ようとすると退路を妨害するように朱桜會のメンバーが僕の真後ろに入り込んだ。後ろから攻撃を仕掛けてこないのはミケ猫ジェロニモスの攻撃が突発的なものだからかな。それにしても良い連携だ。
「ZAP」
「は?」
しかし、彼らから攻撃を仕掛けてきたのなら遠慮する必要はない。僕は目の前に迫った大剣ごと魔力弾でミケ猫ジェロニモスを吹き飛ばした。おまけにミケ猫ジェロニモスの後ろにいたプレイヤーたちが巻き添えを喰らって蒸発したけど些細な問題だ。
ちなみに"ZAP"というのはレーザーやビームの攻撃で敵を攻撃した時に使われる英語圏の擬音語(?)だ。これなら傍目から今の攻撃が魔力弾だとは分かりにくいだろう。確かに魔力弾を使うと決めたけど、だからといって敵に攻撃手段を教えてあげるほどお人好しではないんだよね。
「死ねぇぇ!!」
「うわぁぁぁああ!!」
「なんだよ今の!?」
こうして朱桜會からの不意打ちによって前哨戦の火蓋が切って落とされた。決闘開始まで残り10分、これ決闘開始までに全員殺してもいいんだよね?
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
ミケ猫「寸止めして脅かしてやろうと思ったら死んだ」
リエル「(なんでこうなるのぉぉぉ!?)」
ZAPというと某友情破壊TRPGを思い浮かべてしまいますね。
ちなみに擬音語ではなく動詞です。
それとマヨイにデバフを掛けるとどうなるかは第4話を参照してください。
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