168 / 228
本編
第155話 アカトキはロマン砲を放つ。
しおりを挟む⚫︎アカトキ
ボス部屋に続く扉は幅3m高さ5mはある巨大な扉だった。
その大きさに見合うだけの重厚な印象を受ける扉を押し開けると、その先にあったのは学校の体育館のような広い空間だった。天井に照明はなく、代わりに壁際の松明によって照らされた室内は奥にステージというには低い段差があるのが見てとれた。段差の上には人が座るには幅広い煌びやかな装飾の施された椅子、そして椅子には私たちを睥睨する大柄なゴブリンが座っていた。その横にいる白いドレスローブを着たゴブリン、段差の下には立派な騎士鎧を着たゴブリンが6体いる。
「コレヨリシレモノヲハイジョスル、カカレェ!!」
「「「「「「ハッ!」」」」」」
椅子に座ったゴブリン、まず間違いなくゴブリンキングが立ち上がり片言で叫んだかと思ったら騎士鎧を着たゴブリンが私たちの方へと駆けて来た。この騎士鎧を着たゴブリンがゴブリンインペリアルだよね。
「少しでも距離を詰めるよ!」
「うん!」
それに合わせて私たちも駆け出す。思ったよりもゴブリンキングとの距離があるせいで縮地1回では接近しきれない。だから体育館──たぶん玉座の間──の中央付近でゴブリンインペリアルと剣を交える所まで近づいた私はゴブリンインペリアルからの攻撃を盾で受け止めて強引に押し返した。あとは体勢を崩したゴブリンインペリアルの脇を抜けてゴブリンキングに肉薄するだけだ。他のゴブリンインペリアルが私の行く手を遮ろうと動いたけど私が縮地を発動させる方が早い!
「(縮地!)」
私が急に目の前に現れたからなのかゴブリンキングとゴブリンエンプレスの反応は鈍い。おかげでゴブリンキングの巨体に回り込んでゴブリンエンプレスからの射線を塞ぐことが出来た。
「(セルフサクリファイス90%・士道《背水》!!)」
セルフサクリファイスで体力を90%消費することで私の基礎ステータスは45倍、これで自分の体力が1割以下になった時に筋力と耐久と敏捷の3つのステータスが10倍になる士道《背水》の発動条件も満たすことが出来た。
450倍になった私のステータスはきっと兄さんのそれを超える。
ゴブリンキングとゴブリンエンプレスは私の最高火力の練習台になって貰おう。
「(ヒゲキ)」
お姉ちゃんと同じ自分で開発した技能。
自分の体力が1割以下であることが発動条件の飛撃の火撃の複合技。このためだけに火属性魔術を習得したけど知力のステータスが弱くて牽制くらいにしか使えない。でもセルフサクリファイスと士道《背水》によって上昇したステータスから放たれるヒゲキの威力は……あ、私も試すのは初めてだから知らないや。
─────ッッ
剣を振り下ろした瞬間に分かった。これはヤバイやつだ。
目の前のゴブリンキングとゴブリンエンプレスが消し飛んだのはともかく、現在進行形でビームのように伸びた白炎の剣撃がダンジョンの壁を大きく削りとりながらダンジョン全体を震わせている。
[Goblin Kingを倒した]
[素材:小鬼王の王冠した]
[称号:小鬼王の討伐者]
[Goblin Empress倒した]
[素材:小鬼王妃のティアラを獲得した]
[素材:小鬼王妃の宝杖を獲得した]
[称号:小鬼王妃の討伐者]
「逃げるよ!」
「え、隠しボスは!?」
「それどころじゃないからっ」
危機感の薄い織姫はまだゴブリンインペリアルと戦闘中だ。
時間が惜しかった私は縮地で織姫の側まで移動すると力任せに剣を振るってゴブリンインペリアルを消しとばした。ステータスが急上昇し過ぎて全力で走ろうとすると転んでしまいそうだ。
[warning:ダンジョン崩壊まであと1時間です]
わーにんぐ?の意味はよく分からないけど1時間後にダンジョンが崩壊することは理解できた。入り口近くからボス部屋前まで走って1時間前後だったことを考えると脱出できるか微妙な時間だ。織姫も同じアナウンスが聞こえたみたい。ただステータスの欄には恐怖と恐慌の文字がある。もしかして感情とかに影響されて状態異常になったりするのかな。
「なにこれ!? なんで立てないの!?」
状態異常の効果なのか織姫は腰を抜かして立ち上がることが出来なくなっていた。ここで織姫を死なせたのが知られたら間違いなくお兄ちゃんとクレアに怒られちゃう。ただでさえ今日は色々とやらかしてるんだから汚名返上のためにも織姫は死なせちゃいけない。
「え、ちょっ暁!?」
「舌噛まないでねっ」
ちょっと恥ずかしいけど私は織姫をお姫様抱っこして崩壊し始めたダンジョンを駆け上がった。織姫は顔を真っ赤にして何やら「吊橋効果」って何度も繰り返しているけど吊橋効果って何?
「「はぁ……はぁ……はぁ…………」」
道中にモンスターの姿がないおかげで思っていたよりもスムーズにダンジョンから脱出できたとはいえ時間的にはギリギリだった。その証拠に私たちがダンジョンを出て10秒もしないうちにダンジョンは崩壊。その更に数秒後には対峙した記憶にない[Goblin Avengerを倒した]というアナウンスが聞こえた。たぶん隠しボスなんだろうけど、いくらなんでも扱いが可哀想過ぎる。
「暁、何あれ!?」
「えっと、あれは──」
私は織姫に何一つ隠すことなく全てを正直に話した。
「450倍のステータスって……それにオリジナル技能って何!?」
「騎士道って技能にある士道《背水》とセルフサクリファイスの相性が良過ぎるだけだって。それとオリジナル技能は開祖って名前の技能があれば作れるよ。あと組合にオリジナル技能用のアイテムが売ってるみたい」
「……アカなら先輩と普通に対戦しても勝てたんじゃない?」
「何言ってんの?技能使わないって条件でも勝てなかったのに勝てるわけないじゃん。それにステータスを450倍にした状態では攻撃と移動のどちらかしか出来ないんだから真っ当な決闘で使えるものじゃないんだよ?そもそも私とお兄ちゃんにはゲームセンスに絶望的なまでの差があるの。織姫もお兄ちゃんと一緒にいればいつか絶対に理解かるよ。いつの日か置いて行かれないために私たちはもっと強くならなきゃいけないの!」
「うっ……って聞きたかったのは技のことじゃなくてダンジョン壊しちゃったことよっ!これどうするの!?」
「…………見なかったことにしない?」
その後、おそるおそるダンジョンのあったインスタンスエリアから出て振り返るとダンジョンは元通りになっていた。これならお説教は避けられたかな。元通りになって本当によかった。
「素材は組合に売るの?」
「売っても対した額にならないと思うからクレアへのおみやげにしようよ」
そういえばお兄ちゃん、ククルちゃんをギルドホーム──というかクレアのところ──に放置したまま出掛けちゃったけど、これって大丈夫なのかな?
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
ゴブリンアベンジャー「解せぬ」
ダンジョン「わかる」
以前、マヨイが予想していた暁のとっておきの公開ですね。
ステータス450倍+超火力ロマン砲の併せ技でした。
イメージ的に某セイバーさんのエクス◯リバー。火属性ですけど()
ちなみにダンジョンを崩落させたことを聞いたクレアがマヨイに連絡したためお説教は不可避です。なおブーメランの模様。
41
お気に入りに追加
2,270
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる