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本編

第155話 アカトキはロマン砲を放つ。

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⚫︎アカトキ

 ボス部屋に続く扉は幅3m高さ5mはある巨大な扉だった。
 その大きさに見合うだけの重厚な印象を受ける扉を押し開けると、その先にあったのは学校の体育館のような広い空間だった。天井に照明はなく、代わりに壁際の松明によって照らされた室内は奥にステージというには低い段差があるのが見てとれた。段差の上には人が座るには幅広い煌びやかな装飾の施された椅子、そして椅子には私たちを睥睨へいげいする大柄なゴブリンが座っていた。その横にいる白いドレスローブを着たゴブリン、段差の下には立派な騎士鎧を着たゴブリンが6体いる。

コレヨリシレモノヲハイジョスルこれより痴れ者を排除するカカレェかかれぇ!!」

「「「「「「ハッ!」」」」」」

 椅子に座ったゴブリン、まず間違いなくゴブリンキングが立ち上がり片言で叫んだかと思ったら騎士鎧を着たゴブリンが私たちの方へと駆けて来た。この騎士鎧を着たゴブリンがゴブリンインペリアルだよね。

「少しでも距離を詰めるよ!」

「うん!」

 それに合わせて私たちも駆け出す。思ったよりもゴブリンキングとの距離があるせいで縮地1回では接近しきれない。だから体育館──たぶん玉座の間──の中央付近でゴブリンインペリアルと剣を交える所まで近づいた私はゴブリンインペリアルからの攻撃を盾で受け止めて強引に押し返した。あとは体勢を崩したゴブリンインペリアルの脇を抜けてゴブリンキングに肉薄するだけだ。他のゴブリンインペリアルが私の行く手を遮ろうと動いたけど私が縮地を発動させる方が早い!

「(縮地!)」

 私が急に目の前に現れたからなのかゴブリンキングとゴブリンエンプレスの反応は鈍い。おかげでゴブリンキングの巨体に回り込んでゴブリンエンプレスからの射線を塞ぐことが出来た。

「(セルフサクリファイス90%・士道《背水》!!)」

 セルフサクリファイスで体力を90%消費することで私の基礎ステータスは45倍、これで自分の体力が1割以下になった時に筋力と耐久と敏捷の3つのステータスが10倍になる士道《背水》の発動条件も満たすことが出来た。
 450倍になった私のステータスはきっと兄さんのそれを超える。
 ゴブリンキングとゴブリンエンプレスは私の最高火力の練習台になって貰おう。

「(ヒゲキ)」

 お姉ちゃんと同じ
 自分の体力が1割以下であることが発動条件の飛撃の火撃の複合技。このためだけに火属性魔術を習得したけど知力のステータスが弱くて牽制くらいにしか使えない。でもセルフサクリファイスと士道《背水》によって上昇したステータスから放たれるヒゲキの威力は……あ、私も試すのは初めてだから知らないや。


 ─────ッッ


 剣を振り下ろした瞬間に分かった。これはヤバイやつだ。
 目の前のゴブリンキングとゴブリンエンプレスが消し飛んだのはともかく、現在進行形でビームのように伸びた白炎の剣撃がダンジョンの壁を大きく削りとりながらダンジョン全体を震わせている。


[Goblin Kingを倒した]
[素材:小鬼王の王冠した]
[称号:小鬼王の討伐者]

[Goblin Empress倒した]
[素材:小鬼王妃のティアラを獲得した]
[素材:小鬼王妃の宝杖を獲得した]
[称号:小鬼王妃の討伐者]


「逃げるよ!」

「え、隠しボスは!?」

「それどころじゃないからっ」

 危機感の薄い織姫はまだゴブリンインペリアルと戦闘中だ。
 時間が惜しかった私は縮地で織姫の側まで移動すると力任せに剣を振るってゴブリンインペリアルを消しとばした。ステータスが急上昇し過ぎて全力で走ろうとすると転んでしまいそうだ。


[warning:ダンジョン崩壊まであと1時間です]


 わーにんぐ?の意味はよく分からないけど1時間後にダンジョンが崩壊することは理解できた。入り口近くからボス部屋前まで走って1時間前後だったことを考えると脱出できるか微妙な時間だ。織姫も同じアナウンスが聞こえたみたい。ただステータスの欄には恐怖と恐慌の文字がある。もしかして感情とかに影響されて状態異常になったりするのかな。

「なにこれ!? なんで立てないの!?」

 状態異常の効果なのか織姫は腰を抜かして立ち上がることが出来なくなっていた。ここで織姫を死なせたのが知られたら間違いなくお兄ちゃんとクレアに怒られちゃう。ただでさえ今日は色々とやらかしてるんだから汚名返上のためにも織姫は死なせちゃいけない。

「え、ちょっ暁!?」

「舌噛まないでねっ」

 ちょっと恥ずかしいけど私は織姫をお姫様抱っこして崩壊し始めたダンジョンを駆け上がった。織姫は顔を真っ赤にして何やら「吊橋効果」って何度も繰り返しているけど吊橋効果って何?

「「はぁ……はぁ……はぁ…………」」

 道中にモンスターの姿がないおかげで思っていたよりもスムーズにダンジョンから脱出できたとはいえ時間的にはギリギリだった。その証拠に私たちがダンジョンを出て10秒もしないうちにダンジョンは崩壊。その更に数秒後には対峙した記憶にない[Goblin Avengerを倒した]というアナウンスが聞こえた。たぶん隠しボスなんだろうけど、いくらなんでも扱いが可哀想過ぎる。

「暁、何あれ!?」

「えっと、あれは──」

 私は織姫に何一つ隠すことなく全てを正直に話した。

「450倍のステータスって……それにオリジナル技能って何!?」

「騎士道って技能にある士道《背水》とセルフサクリファイスの相性が良過ぎるだけだって。それとオリジナル技能は開祖って名前の技能があれば作れるよ。あと組合にオリジナル技能用のアイテムが売ってるみたい」

「……アカなら先輩と普通に対戦しても勝てたんじゃない?」

「何言ってんの?技能使わないって条件でも勝てなかったのに勝てるわけないじゃん。それにステータスを450倍にした状態では攻撃と移動のどちらかしか出来ないんだから真っ当な決闘で使えるものじゃないんだよ?そもそも私とお兄ちゃんにはゲームセンスに絶望的なまでの差があるの。織姫もお兄ちゃんと一緒にいればいつか絶対に理解かるよ。いつの日か置いて行かれないために私たちはもっと強くならなきゃいけないの!」

「うっ……って聞きたかったのは技のことじゃなくてダンジョン壊しちゃったことよっ!これどうするの!?」

「…………見なかったことにしない?」

 その後、おそるおそるダンジョンのあったインスタンスエリアから出て振り返るとダンジョンは元通りになっていた。これならお説教は避けられたかな。元通りになって本当によかった。

「素材は組合に売るの?」

「売っても対した額にならないと思うからクレアへのおみやげにしようよ」

 そういえばお兄ちゃん、ククルちゃんをギルドホーム──というかクレアのところ──に放置したまま出掛けちゃったけど、これって大丈夫なのかな?


───────────────
お読みいただきありがとうございます。
ゴブリンアベンジャー「解せぬ」
ダンジョン「わかる」

以前、マヨイが予想していた暁のとっておきの公開ですね。
ステータス450倍+超火力ロマン砲の併せ技でした。
イメージ的に某セイバーさんのエクス◯リバー。火属性ですけど()

ちなみにダンジョンを崩落させたことを聞いたクレアがマヨイに連絡したためお説教は不可避です。なおブーメランの模様。
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