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本編

第156話 マヨイは逃げられる。

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⚫︎マヨイ

「朱桜會は迷い家の出した条件は飲めないようです。決闘は本日20時からとなりましたので時間までに訓練場までお越しください」

 テコを経由してアルテラに着いた僕は連続接続制限スレスレの時間まで組合の加工施設を借りてポーションを作ってからログアウトしていた。そして夕飯を食べてから再びログインしてすぐに組合の受付に行くと朱桜會が予定通り今日の20時からの決闘を選択と聞かされた。。

「分かりました」

 朱桜會が今日の決闘を選択するのは僕の狙い通りだ。しかし、来週のイベント当日で構わないと形振り構わず来らずに良かった。そう内心で安堵しつつ僕は訓練場に足を向けた。

「……まだ来てない、か」

 まだ18時20分を回ったばかりなのだから当たり前だ。決闘が開始されるまで訓練場の隅で掲示板でも流し読みしていよう。そう思ったのがよくなかった。掲示板で僕の装備の値段が晒されているのを見つけてしまったのだ。

「……同じ晒し行為をしたチャラ王との決闘がアレだったんだから彼らにも同等の仕打ちをしてあげるべきだよね」

 そうと決まれば映える演出を考えないといけない。
 僕の予想通りなら朱桜會側は援軍を含めて80人前後になる。彼らをステータスに任せて蹂躙するだけじゃ見栄えが悪いし、何より僕の気が晴れない。

『マヨイ。シキだけど今大丈夫?』

 朱桜會にどうやって勝つかを考えているとシキからフレンドコールが届いた。

『……まだ大丈夫だよ。どうしたの?』

『マヨイが倒してくれた紫色のドラゴンなんだけど、どうもマリアがテイムしたものだったらしい。そのせいなのか分からないけど、ちょっと前からマリアが犯罪者プレイヤーたちから狙われてるんだ』

 テイムしたモンスターが暴走状態だったとはいえ、テコのリスポーンエリアが吹き飛んでいる。犯罪者プレイヤーから狙われている理由は分からないけど、因果応報とか自業自得ってやつじゃないかな。

『…………マリアは犯罪者プレイヤーにはなってないの?』

『なってないね。カルマ値は見たことないくらい下がってるけど』

『直接関与してるわけじゃないからかな。それでシキは僕にどうして欲しいの?』

『これ以上は現実での知り合いでも付き合ってられないから私とショウとルイの3人でギルドを作ろうと思ったんだけど……その、ルイが迷い家に入りたいって言い出して……』

 ルイはシキの仲間の1人だ。そこまで仲良くした記憶はないのだけど僕とはそれなりに共通点が多いプレイヤーだ。少なくとも2種類の覚醒は持っているのでプレイヤースキルさえ伴っていれば織姫と同じように模擬戦をした上で加入を認めてもいいかもしれない。

『なんで僕ら?』

『ちょっと待ってね。…………強くなれそうだから、だって』

『へぇ……いいじゃん。ただ迷い家に加入するには条件があるんだ』

『条件?』
 
 そうなると問題はシキとショウだ。シキは分からないけどショウは覚醒を1種類しか持っていなかった。つまり僕が織姫にも提示した"覚醒を2つ以上獲得していること"という条件を満たしていないことになる。その上で僕かアイと決闘して加入を認めるに足る結果を出して貰う必要がある。

『なら後はショウだけだね。……ショウが2つ目の覚醒を獲得してプレイヤースキルに自信が付いたら模擬戦をお願いしていいかな?』

『もちろん』

『それと朱桜會と決闘するみたいだけど大丈夫?』

『ありがとう問題ないよ』

 僕のステータスはいずれ追いつかれる数値だとしても今はまだ他のプレイヤーよりも遥かに高い。それこそプレイヤー同士なら多勢に無勢の状況でも勝ち方を選べるくらいには余裕がある。

『そっか。それじゃ朱桜會との決闘頑張ってね!』

 そう言ってシキは僕とのフレンドコールを切った。
 それから再び掲示板を覗いたりダンジョンに出掛けた暁たちと連絡を取ったりしていると赤髪の少女が僕の方にやってきた。プレイヤー名はリエル。朱桜會のギルドマスターだ。

「迷い家のギルドマスターさんですか?」

「そうだよ」

「その……ごめんなさい!」

 リエルは深々と僕に頭を下げた。

「……僕が謝罪を求めた相手は君じゃなくて僕から装備を奪おうとしたタイタンだよ。僕の想像してた以上の賠償額になってしまったのは申し訳ないと思ってるから交渉には乗るけど、それも彼からの謝罪が大前提だ」

 まさか僕の装備が国宝級だったなんて知らなかったんだよね。1000万くらいかなと気軽に査定に出したら7億とか言われたから目が点になった。さすがに同情したよ。

「その……タイタンさんは

「は?」

「さっきタイタンさんがログインした時にギルドチャットで話をしようとしたんですけど"俺は悪くねぇ!"って言ってログアウトしちゃったんです」

 今にも泣き出しそうだし同情する余地もあるけど……

「だから?」

「え」

「それを僕に言ってどうするの?」

「どうするって……その、許して貰えないかなって……」

「勝てばいいじゃないか」

「…………です」

「ごめん、聞こえなかった」

「逃げちゃったのはタイタンさんだけじゃないんです」

 はい?

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お読みいただきありがとうございます。
マリア、ついにリア友から見限られました。
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