VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

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本編

第154話 アカトキはトレインする。

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⚫︎アカトキ

 兄さんがギルドホームを出てしばらくした頃、私と織姫は2人でエイト南部にある洞窟型ダンジョン"小鬼骨堂"にやって来ていた。

「ねぇ……いいの?」

「なにが?」

「レベリングに付き合ってもらっちゃって」

「いいって。言い過ぎたことの罪滅ぼしみたいなものだし」

「…………分かった。ありがとう」

 ちょっと空気は悪いけど私たちが衛兵に許可証を見せてダンジョンに入るとすぐ緑色の人型モンスターが襲い掛かってきた。身長は兄さんよりも1回り小さく、刃が欠けてノコギリみたいになっている片手剣を持っている。資料にあったゴブリンソルジャーだ。

「やぁっ!」

 織姫が反応してカウンター気味にゴブリンソルジャーの顔を殴るとゴブリンソルジャーは多少フラつきながらも私たちから距離を取ってジリジリと後退し始めた。

「逃げるなっ」

「ダメ!」

「っ」

 後退しようとするゴブリンソルジャーとの距離を詰めようとする織姫を制止する。資料に書かれていた内容が事実ならゴブリンソルジャーは同格のゴブリンと群れて行動しているはずだ。

挑発!」

「囲まれてたの!?」

 透明獅子に囲まれた時と同じ類の嫌な予感を覚えた私は普段は使わない範囲挑発を使った。範囲挑発には稼げるヘイトが少ないというデメリットの代わりに後方にも届くというメリットがある。
 そして背後に回り込んでいたらしい個体のゴブリンソルジャーが2人、目の前のゴブリンソルジャーの後方にいたゴブリンメイジとゴブリンプリーストがそれぞれ1匹ずつ。範囲挑発に掛かってくれた。

「キラーチェーン!織姫は後ろ2人をお願いっ」

「任せてっ」

 織姫はゴブリンソルジャー2匹に突っ込んで行った。これで後方をそこまで警戒しなくて済む。私は織姫がゴブリンソルジャーと戦闘を始めるのを待ってから目の前のゴブリンソルジャーたちに攻撃を仕掛けた。

「やぁっ!せやぁっ!」

 このダンジョンに入ってすぐのところにいるモンスターには少しもったいないけれど、飛撃などの攻撃技能を躊躇うことなく使用して10秒も掛けずに目の前のゴブリンソルジャーたちを始末した。

「やぁっっ!!」

「おつかれー」

「はぁ……はぁ……アカは何で疲れてないの?」

「うーん、ステータスや技能のおかげで負ける気が全くないからじゃない?」

 忍耐の技能がチート過ぎるんだよ。今の私ならゴブリンソルジャー100匹に囲まれたとしても余裕で生き残ることができるもん。

「そういえば織姫って技能使わないよね」

「えっと……その……」

「ん?」

「技名を言いながら攻撃したりするのって恥ずかしくない?」

「……まさかとは思うけど、恥ずかしいから技能を使ってないの?」

 そして小さく頷く織姫を見て私は切れた。

「足を引っ張ってた自覚があったのに縛りプレイとかふざけないでよ!」

「だって好きな人の前で中二病みたいなことしたくなかっのっ」

「だったら思考発動を習得すればいいじゃん」

「え、何それ」

「頭の中で意識するだけで技能を発動できるようになるって効果の技能があるの。ほら、私が兄さんとの模擬戦で声に出さすに技能を使ってたでしょ?」

「…………でもどうやって習得するの?」

「言葉に出さずに技能を出そうと何度もやってれば習得できるよ?」

 お姉ちゃんから教わったことだし、実際に私も習得できているから間違いない。でも一緒に教わったクレアはまだ習得できてないみたいだから個人差はあるんだと思う。

「ダンジョンを出たら絶対に習得する」

「ここで練習してもいいと思うけどね」

「え、大丈夫なの?」

「ここに出てくるモンスターが資料通りならどんなに攻撃受けても大丈夫だもん」

「え、マジ?」

「一撃で私の体力を2割以上削れそうなのは隠しボスとして出てくる特殊なゴブリンくらいだと思う。最下層で大量にゴブリンを倒すとボス戦の後に出てくるんだって」

「そんなのいるんだ……」

 私は不忍の杜の資料をよく読み込まなかった失敗を繰り返さないために小鬼骨堂の資料はしっかりと読み込んだのに織姫はそうじゃないみたい。

「ちょっと戦ってみたくない?」

「えっ…………うん」

「なら今から私が全部を攻撃を受け止めながら最下層にあるっていうボス部屋の前まで行くね。あ、織姫はモンスターに攻撃しないでよ」

「え」

 普通のフィールドならトレインというマナー違反行為だけど、ここはインスタンスフィールドだから私と織姫しかいない。ちょっと悪いことをしているような背徳感を覚えながら私は最下層にあるらしいボス部屋の手前に向けて駆け出した。

「挑発、挑発、範囲挑発!掛かってこ~い!」

「ちょ、待ってよ!」


…………………………………


……………………………


………………………


 それから1時間近く走り続けた私たちは無事にボス部屋手前の大広間に到着した。大広間にはゴブリンソルジャーやゴブリンナイトといったゴブリンの上位種が10匹くらいいたけれど、道中でセルフサクリファイスを使ってステータスが激増している私にとっては歯牙にも掛からない雑魚だ。

「はぁ……はぁ……」

「そういえば振り切っちゃったけど少ししたら来るよね?」

「"来るよね?"じゃなくて!あれ100匹とかそういうレベルじゃないんだけど!?」

「あ、来たよ!」

 大広間の私たちが通ってきた入り口からわらわらのゴブリンやゴブリンの上位種が現れた。セルフサクリファイスの効果時間も10分を切ったし早めに数を減らした方がいいよね。そう考えた私は打ち寄せるゴブリンの波に突っ込んでいった。

「ねぇ暁、私の話聞いてる!?」

「聞いてない!」

「聞いてよ!?」

 そう文句を言いながら技能の思考発動を練習している織姫は本当に勤勉だと思うよ。

「飛撃ぃ!」

「はっ!」

 ただ失敗だったのは私たち2人に広範囲を攻撃するような手段がほぼなかったことだ。そのせいでトレインしたゴブリンを全て倒すのに時間がかかってしまった。

「はぁ……やっと終わったぁ……」

「何言ってるの織姫。これからボス戦だよ?」

「そうじゃん……その後で隠しボスとも戦うんでしょ?」

「そのためにトレインしたんでしょ。どうする?」

「……やる」

「それじゃボスの情報を再確認しよっか」

 こうして私たちはボスがいるらしい部屋の前で今更ながらボスの情報を共有、どうやって戦うかを話し合うことにした。

「まずボスはゴブリンキングとゴブリンエンプレスの2体。それに加えて取り巻きとしてゴブリンインペリアルが4体。戦闘能力はキングが補助タイプ、エンプレスが魔術士タイプ、インペリアルが戦士タイプね。あと位階はキングが60固定でエンプレスは50~55、インペリアルが40~45。キングとエンプレスが覚醒3つなのにインペリアルは2つしかないね」

「キングの補助タイプって何?」

「味方の強化、相手の弱体化、味方の回復をしてくるって資料にはあるよ。エンプレスを倒すとステータスが急上昇して接近戦を仕掛けて来るようになるみたい。逆にキングを倒すとエンプレスとインペリアルのステータスが上がって攻撃魔術を使ってくるようになるんだって」

「インペリアルを全滅させるとキングが蘇生魔術で復活させるとか書いてあるんだけど……2人で勝てるの?」

「……余裕じゃないかな」

「え」

「1番怖いのはキングの補助だけど、逆に言えばキングさえ倒せば私が攻撃を引きつけてればいいだけじゃない?」

「……上手く行くかなぁ」

「今日は残り2回しか使えないけど縮地があるからキングに近づくのはたぶん大丈夫。範囲挑発を使って攻撃を引き付けるから織姫はインペリアルを1体ずつ倒して」

「キングは覚醒3つもあるのに簡単な倒せるの?」

「私だって超高威力技がないわけじゃないし何とかなるよ。キングを倒したらエンプレスを優先して挑発するからインペリアルはお願いね」

「分かった」

「それと資料に書いてないだけで相手の援軍はある気がする」

「なんで?」

「いくら複数いるとは言ってもキングやエンプレスとインペリアルのステータス差があり過ぎるんだよ。だからインペリアルを全て倒したら補充されて更に蘇生とか、そういったギミックはあると思う」

「ならインペリアルは全部倒さない方がいい?」

「そうだね。もし援軍が来たらフィーリングで」

「フィーリングって……」

「フィーリングは大事だよ。……よし、私の方は技能のクールタイムも全部明けたけど織姫は?」

「私も大丈夫」

「それじゃぁ行こっか」

 作戦会議を終えた私たちはボス部屋へ突入した。

───────────────
お読みいただきありがとうございます。
時系列順に話を進めたかったので今日明日は暁&織姫サイドのお話になります。

季節の変わり目で気をつけてはいたものの体調を崩してしまいました。それもあってストックが完全に尽きてしまいしばらくは土日のみの更新になります。申し訳ありません。
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