VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

文字の大きさ
上 下
163 / 228
本編

第149話 マヨイは失敗していた。

しおりを挟む

⚫︎マヨイ

「何もない……というか木しかないね」

「そりゃ森だからな」

 僕らはボス戦──というか説教──が終わってから更に奥に進んだ。しかし、これといって何か目立つようなものはなかった。ただ木に関しては見覚えあるものが群生している。

「お兄さん、この木って……」

「うん、アルテラ大森林に生えてたゼパースウッドだね」

「切り倒すのが難しいって言う高い木材ですよね?」

 織姫の言う通りゼパースウッドは組合で普通の木材よりも高い値段で取引されている木材だ。物理的な手段で切り倒すのが難しく、切り倒すのに時間を掛けているとモンスターを引寄せてしまうためプレイヤーによる伐採報告は限られているのだとか。

「兄さんなら余裕でしょ」

「なんでアカちゃんがドヤ顔してるの?」

「べ、別にドヤ顔なんてしてないよ!?」

「アホ面はしてたけどな」

「ひどっ」

 実際、魔力弾を応用すれば伐採するのは簡単だ。問題なのはゼパースウッドを流通させた時の値崩れくらいだろう。自然破壊に関しては破壊されたフィールドが毎日リセットされる仕様なので問題ない。

「さて、伐採はするけど……木材は流通させない方針でいこうか」

「なんで?」

「1週間くらい前に僕というかアイがゼパースウッドを200本くらい流通させたのは知ってる?」

「うん。掲示板でも話題になってたから覚えてる」

「あれって当時の木材不足もあってすぐになくなったんだけど、その後でゼパースウッドを使った装備が少しだけ流通してね。スタンウッドを使った装備よりも高性能だからか高値で取引されてるんだよ」

「だから?」

「はぁ……アカちゃん、このタイミングでゼパースウッドを大量に流通させればトラブルの種にしかならないよ?」

「え、なんでトラブルの種になるの?」

 組合になら売っても大丈夫だと思うけど、それでもゼパースウッドの相場は1週間前の2倍近くまで膨れ上がっている。このタイミングで流通させて値崩れさせれば間違いなくクレアの言う通りトラブルの種になるだろう。

「伐採で資金稼ぎしてるプレイヤーが伐採してるのはほぼスタンウッドだけなのは知ってるよな?」

「うん」

「スタンウッドがゼパースウッドのほぼ下位互換だっていうのは少し調べれば分かる。それでもスタンウッドが売れているのはゼパースウッドの流通量は少ないからだ」

「あ、ゼパースウッドが大量に流通するとスタンウッドでお金を稼いでるプレイヤーが困るんですね!」

「織姫、正解」

 もちろんゼパースウッドを恒常的に伐採して市場を独占するという選択肢もある。しかし、それでは流星群がやろうとしたことと大差ない。やるにしても流星群との一件を知らないプレイヤーが増えてからにするべきだろう。

「……倒木する時に大きな音が出るだろうから気をつけてね」

「はい!」

 そう言って織姫は耳を塞ぎ。目を瞑る必要はないんだけど……言っても聞こえないだろうからツッコミは我慢だ。

「形状変化・魔力弾×100000」

 僕は薄い円盤上の魔力弾を1つ放った。実は"蜂の巣"のボス戦の時に気が付いたのだけど、形状変化を応用することで今まで散弾のように放っていた魔力弾を一塊にして放てたのだ。対人戦なら回避されやすくなるだけなのでまず使わないだろうけど今回のような場合は便利な攻撃だ。

「うっひゃぁ……これ拾うの?」

「アカちゃん、今日はいいとこなしなんだからつべこべ言わず拾って!」

「ちょっ……さっきからクレアひどいっ」

 クレアは援護しようとしたところで「要らない」と言われたのを根に持っているらしい。それに織姫に対して「邪魔」と怒鳴った件が重なれば辛辣な態度になってもおかしくない。
 このままではパーティの──ひいてはギルドの──雰囲気が悪くなる一方なので明日以降も尾が引くようなら注意するとしよう。

「先輩、拾い終わりました!」

「はやっ」

「織姫ちゃん、はやい!」

 気がつけば織姫が1人で8割近く拾っていた。
 そういえば織姫が獲得している覚醒の名前は"ランナー"なのだから僕と同じように移動速度を上昇させる効果を持った技能を習得していてもおかしくはない。今の位階ですら移動速度なら僕らと同じくらいなのだから今後位階があがれば面白いことになりそうだ。


[ワールドアナウンス:闘技場に初めてプレイヤーが足を踏み入れました。ヘルプに闘技場の項目が追加されます]
[CIL運営:第2回イベント開催のお知らせ]


「……まだ第1回イベントも終わってないのに!?」

「ワールドアナウンスにあった闘技場がフラグだったんだろうね。予選の申し込み締め切りが1週間後までで開催がその翌日みたい」

 運営からの通知を読むと会場や予選のルールについて説明がしっかりて書かれていた。会場はワールドアナウンスで流されたアインという街の闘技場のようだ。

「予選は500人ごとのグループに分かれてのバトルロイヤルをスイスドロー形式で行うって書いてあるけど、このスイスドロー形式って何?」

なーにーみー?」

「参加者全員が一定数戦う形式だな。他のプレイヤーを倒すと1pt手に入って、他のプレイヤーに倒されると1pt失うってことは漁夫の利で最後まで生き残ってもそこまで意味はなさそうだね」

「え、でも残り100人になるまで生き残れば2pt貰えるって書いてありますよ?」

「それなら10ptくらい稼いで自殺すればいいさ。わざわざって書いてあるだろ?」

「うわー、揚げ足取りだー」

だーにゃー

 予選のスイスドローが何回戦あるかは書いてないけど、上位128名が決勝ラウンドに進むということは少なくても3~4回はバトルロイヤルをすることになるだろう。

「ねぇ……これ出場しないプレイヤーや住民限定だけど賭けができるって書いてある。予選通過するかどうかの賭けもあるみたいだから兄さんに全額投入しれば億万長者じゃない?」

「……そう上手く行くか分からないぞ?」

「なんで?」

「僕らは今回のイベントで悪目立ちし過ぎたからな。参加すれば何人かは僕らに賭けるだろ」

「なら織姫!織姫なら顔も名前も知られて……あ」

 織姫もテコの訓練場で僕と模擬戦したのを結構な人数のプレイヤーに見られている。あれには示威行為という意味もあったんだけど、今回は色々と裏目に出てしまった形だ。

「失敗したなぁ……ごめん」

「こんなの予想出来ないからしょうがないですよ」

ないですよにゃにゃ?」

 その後、僕らはダンジョンからエイトの組合まで戻ることにした。クレア曰く影猿とキマイラの素材以外は使いにくいらしく、アイテム欄を圧迫するだけなので全て売却したいらしい。

「あのハゲまだいるかな?」

「いないといいなぁ……胸じろじろ見てきて鳥肌が立つかと思ったし」

「あ、わかる。いくらなんでも露骨だったよねー」

 朱桜會のタイタンに対する暴言や誹謗中傷は他に誰も見ていない場所でしてくれ。あと彼のスキンヘッドはファッションだと思うぞ。


───────────────
お読みいただきありがとうございます。

イベント中にも関わらず闘技場にたどり着いたプレイヤーが現れましたね。実は1話書く度に1D100を振って01が出たらワールドアナウンスを入れることにしてました。
しおりを挟む
感想 576

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...