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本編
第149話 マヨイは失敗していた。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
「何もない……というか木しかないね」
「そりゃ森だからな」
僕らはボス戦──というか説教──が終わってから更に奥に進んだ。しかし、これといって何か目立つようなものはなかった。ただ木に関しては見覚えあるものが群生している。
「お兄さん、この木って……」
「うん、アルテラ大森林に生えてたゼパースウッドだね」
「切り倒すのが難しいって言う高い木材ですよね?」
織姫の言う通りゼパースウッドは組合で普通の木材よりも高い値段で取引されている木材だ。物理的な手段で切り倒すのが難しく、切り倒すのに時間を掛けているとモンスターを引寄せてしまうためプレイヤーによる伐採報告は限られているのだとか。
「兄さんなら余裕でしょ」
「なんでアカちゃんがドヤ顔してるの?」
「べ、別にドヤ顔なんてしてないよ!?」
「アホ面はしてたけどな」
「ひどっ」
実際、魔力弾を応用すれば伐採するのは簡単だ。問題なのはゼパースウッドを流通させた時の値崩れくらいだろう。自然破壊に関しては破壊されたフィールドが毎日リセットされる仕様なので問題ない。
「さて、伐採はするけど……木材は流通させない方針でいこうか」
「なんで?」
「1週間くらい前に僕というかアイがゼパースウッドを200本くらい流通させたのは知ってる?」
「うん。掲示板でも話題になってたから覚えてる」
「あれって当時の木材不足もあってすぐになくなったんだけど、その後でゼパースウッドを使った装備が少しだけ流通してね。スタンウッドを使った装備よりも高性能だからか高値で取引されてるんだよ」
「だから?」
「はぁ……アカちゃん、このタイミングでゼパースウッドを大量に流通させればトラブルの種にしかならないよ?」
「え、なんでトラブルの種になるの?」
組合になら売っても大丈夫だと思うけど、それでもゼパースウッドの相場は1週間前の2倍近くまで膨れ上がっている。このタイミングで流通させて値崩れさせれば間違いなくクレアの言う通りトラブルの種になるだろう。
「伐採で資金稼ぎしてるプレイヤーが伐採してるのはほぼスタンウッドだけなのは知ってるよな?」
「うん」
「スタンウッドがゼパースウッドのほぼ下位互換だっていうのは少し調べれば分かる。それでもスタンウッドが売れているのはゼパースウッドの流通量は少ないからだ」
「あ、ゼパースウッドが大量に流通するとスタンウッドでお金を稼いでるプレイヤーが困るんですね!」
「織姫、正解」
もちろんゼパースウッドを恒常的に伐採して市場を独占するという選択肢もある。しかし、それでは流星群がやろうとしたことと大差ない。やるにしても流星群との一件を知らないプレイヤーが増えてからにするべきだろう。
「……倒木する時に大きな音が出るだろうから気をつけてね」
「はい!」
そう言って織姫は耳を塞ぎ目を瞑った。目を瞑る必要はないんだけど……言っても聞こえないだろうからツッコミは我慢だ。
「形状変化・魔力弾×100000」
僕は薄い円盤上の魔力弾を1つ放った。実は"蜂の巣"のボス戦の時に気が付いたのだけど、形状変化を応用することで今まで散弾のように放っていた魔力弾を一塊にして放てたのだ。対人戦なら回避されやすくなるだけなのでまず使わないだろうけど今回のような場合は便利な攻撃だ。
「うっひゃぁ……これ拾うの?」
「アカちゃん、今日はいいとこなしなんだからつべこべ言わず拾って!」
「ちょっ……さっきからクレアひどいっ」
クレアは援護しようとしたところで「要らない」と言われたのを根に持っているらしい。それに織姫に対して「邪魔」と怒鳴った件が重なれば辛辣な態度になってもおかしくない。
このままではパーティの──ひいてはギルドの──雰囲気が悪くなる一方なので明日以降も尾が引くようなら注意するとしよう。
「先輩、拾い終わりました!」
「はやっ」
「織姫ちゃん、はやい!」
気がつけば織姫が1人で8割近く拾っていた。
そういえば織姫が獲得している覚醒の名前は"ランナー"なのだから僕と同じように移動速度を上昇させる効果を持った技能を習得していてもおかしくはない。今の位階ですら移動速度なら僕らと同じくらいなのだから今後位階があがれば面白いことになりそうだ。
[ワールドアナウンス:闘技場に初めてプレイヤーが足を踏み入れました。ヘルプに闘技場の項目が追加されます]
[CIL運営:第2回イベント開催のお知らせ]
「……まだ第1回イベントも終わってないのに!?」
「ワールドアナウンスにあった闘技場がフラグだったんだろうね。予選の申し込み締め切りが1週間後までで開催がその翌日みたい」
運営からの通知を読むと会場や予選のルールについて説明がしっかりて書かれていた。会場はワールドアナウンスで流されたアインという街の闘技場のようだ。
「予選は500人ごとのグループに分かれてのバトルロイヤルをスイスドロー形式で行うって書いてあるけど、このスイスドロー形式って何?」
「なーにー?」
「参加者全員が一定数戦う形式だな。他のプレイヤーを倒すと1pt手に入って、他のプレイヤーに倒されると1pt失うってことは漁夫の利で最後まで生き残ってもそこまで意味はなさそうだね」
「え、でも残り100人になるまで生き残れば2pt貰えるって書いてありますよ?」
「それなら10ptくらい稼いで自殺すればいいさ。わざわざ他のプレイヤーに倒されるとって書いてあるだろ?」
「うわー、揚げ足取りだー」
「だー」
予選のスイスドローが何回戦あるかは書いてないけど、上位128名が決勝ラウンドに進むということは少なくても3~4回はバトルロイヤルをすることになるだろう。
「ねぇ……これ出場しないプレイヤーや住民限定だけど賭けができるって書いてある。予選通過するかどうかの賭けもあるみたいだから兄さんに全額投入しれば億万長者じゃない?」
「……そう上手く行くか分からないぞ?」
「なんで?」
「僕らは今回のイベントで悪目立ちし過ぎたからな。参加すれば何人かは僕らに賭けるだろ」
「なら織姫!織姫なら顔も名前も知られて……あ」
織姫もテコの訓練場で僕と模擬戦したのを結構な人数のプレイヤーに見られている。あれには示威行為という意味もあったんだけど、今回は色々と裏目に出てしまった形だ。
「失敗したなぁ……ごめん」
「こんなの予想出来ないからしょうがないですよ」
「ないですよ?」
その後、僕らはダンジョンからエイトの組合まで戻ることにした。クレア曰く影猿とキマイラの素材以外は使いにくいらしく、アイテム欄を圧迫するだけなので全て売却したいらしい。
「あのハゲまだいるかな?」
「いないといいなぁ……胸じろじろ見てきて鳥肌が立つかと思ったし」
「あ、わかる。いくらなんでも露骨だったよねー」
朱桜會のタイタンに対する暴言や誹謗中傷は他に誰も見ていない場所でしてくれ。あと彼のスキンヘッドはファッションだと思うぞ。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
イベント中にも関わらず闘技場にたどり着いたプレイヤーが現れましたね。実は1話書く度に1D100を振って01が出たらワールドアナウンスを入れることにしてました。
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