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本編
第147話 マヨイは慰める。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
「いいとこ取りするなら最初から援護してよ!」
「援護要らないとか言ったくせに手こずったアカトキが悪い」
「っ……でも!」
道中は鬱憤を晴らすかのようにクレアが飛び出してきたモンスターを片っ端からヘッドショットで倒している。暁も3~4回攻撃すれば倒せるだけの攻撃力があるのだけど、ステータスの合計値はほぼ差がないのにも関わらずクレアが一撃で倒してしまうからか少し拗ねている。
「それに攻撃力に不安があるのはタンクの常なんだなら割り切ればいいのに」
「もうタンクやめる!」
「いいぞ」
「え」
「いや、だって嫌なんだろ?」
「嫌ってわけじゃないけど、お兄ちゃんやクレアを見てると何か羨ましいっていうか……」
隣の芝は青いってやつかな。タンクにはタンクの面白さがあるし、アタッカーにはアタッカーの面白さがある。ただアタッカーの方は割と派手だし分かりやすい爽快感があるも事実だ。暁がアタッカーに転向したくなる気持ちも分かる。
「お兄さん!」
「はいよ」
こっちに来た影猿を始末すると頭の上でモゾモゾとククルが動き出した。ギルドホームを出てからずっと眠っていたみたいなんだけど、いくららなんでも寝過ぎじゃないかな?
「みゃぁ!」
「あ、ククルちゃん!」
「ちょっ……クレア!?」
「(魔力弾×10、魔力弾×10)」
クレアがククルに気を逸らしてしまったので僕が代わりに暁たち──というか織姫──を援護する。この"不忍の杜"は暁やクレアはステータス的に余裕があるダンジョンだけど織姫にとっては道中に出現する全ての敵が同格という結構しんどい場所だ。
今後のことを考えれば織姫の位階を上げなければならないので、暁とクレアが織姫がソロで戦える状況を作り出しながら邪魔なモンスターを排除していたのだ。
「あ、ごめんなさい……」
「どこかいたいのー?」
「違うよ。ママが良くないことをしちゃったから謝ったの」
「あたちもあやまるー!」
「それはダメだよ」
「なんでー?」
「ママは悪いことしちゃったから謝ったの。ククルちゃんは悪いことしてないでしょ?」
「わかった!」
クレアの一人称がママになっているのはともかく、なんかククルとめっちゃ親子してる。あれ、親子って動詞だったっけ?
「兄さん、あれがバブみってやつ?」
「さぁ……?」
「いいなぁ……」
「「織姫?」」
「いや、ククルちゃんじゃなくてクレアがだよ!?」
その後は大量の影猿に襲われたら僕とクレアが援護、それ以外は織姫を鍛えながら僕らはダンジョン"不忍の杜"を順調に進んで行った。
…………………………………
……………………………
………………………
「結局さ、強いのは猿だけだよね」
「他は覚醒を持っていても1つだけだったしね」
それでも覚醒を1つでも持っていればアルテラ大森林の猪の変異種と同じくらいの強さだ。この森が異常なのかアルテラ大森林のモンスターが弱いのかは分からないけど、このダンジョンのボスだと資料に書かれていた位階30前後のキマイラの群れの強さは想定を上方修正するべきだろう。
「あれ雰囲気が変わった?」
「なんか暗くなりましたね」
「なりましまね」
「あー、なんか囲まれてるっぽいな」
森の雰囲気が少し暗くなったと思えば僕らはモンスターに囲まれていた。僕らを囲んでいるモンスターの名前はフォレスト・キマイラ。資料にあった"不忍の杜"のボスだろう。
「アカトキは正面の敵から織姫とクレアを守れ!」
「分かった!」
「クレアと織姫、あとククルは耳塞いどけよ!」
「「はい/わかったー」」
「「私は!?/え」」
「魔力弾×100000」
正面以外の全方位にいるキマイラに向けて魔力弾を放つ。
ボス戦は暁たちに任せて見学してようと思っていたけど、さすがに囲まれた状態からのスタートでは織姫が厳しい。仕方ないので正面の5匹だけ残して殲滅することにしただ。
しかし、予想していたよりも音が大きかったのか単純に慣れていないからなのか織姫は踞ってしまった。
「~~~~」
「織姫ちゃん!?」
これはさすがに事前に教えておかなかった僕が悪い。
あとで謝るとして残した5匹はどうしようか。
「織姫、邪魔!兄さんのとこまで下がって!」
織姫は暁の言葉に頷くと僕の近くまで下がって来た。
その表情は今にも大声で泣き出しそうだ。
暁も少し言い方に気をつけてくれよ……これは後で説教だな。
「カスタムアロー!」
クレアの攻撃でキマイラの体力が目に見えて減っていく。それに翼の付け根や顔などを簡単そうに射抜いて空に飛んで逃げようとするのを防いでいるけど、それは達人技ってやつだと思うんだ。
「足引っ張ってばかりでごめん、なさい……」
「いいって。僕の方こそ大きな音が出ることを言わないでいてごめんね」
「でも、暁が邪魔って……」
「あの言い方はないよね。織姫にとってステータス的に厳しいダンジョンなんだから仕方ないよ」
こうして僕は織姫を慰めながら暁とクレアが残ったキマイラを倒すのを見学することにした。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
暁は説教不可避ですね。
織姫のステータスはキマイラ1匹と同程度。
足を引っ張らないよう頑張っていましたが、魔力弾の轟音による混乱と暁からの失言で緊張の糸が切れちゃいました。
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