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本編

第144話 マヨイは訓練する。

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⚫︎クレア

 迷子になっていた2人と合流した私たちは"不忍の森"というダンジョンに向かう前に組合までやって来ました。組合のエントランスまで行くと立ち話をしていた人たちがこちらを見てきました。

「うっわ……」

 その視線の中でも特に不躾な視線を向けてくる人がいました。
 それは紫色の長髪を雑に束ねた男の人です。整った顔からは精巧な人形みたいな印象を受けます。プレイヤー名はタイタンさん。素質や覚醒は私たちと同じように非公開にしているけど、位階は67とかなり高めです。所属ギルドの欄には朱桜會と書かれていました。

『気分は良くないだろうけど絡んで来なければ無視しようね』

『えぇ……』

『居心地が悪いのは確かだけど視線だけじゃ通報しようがないだろ?』

 確かにお兄さんの言う通りですけど、見知らぬ人からエッチい視線を向けられるのはなんか気持ち悪いです。

「それじゃ私と織姫は受付に行ってくるから」

「うん、ここで待ってる」

「あ、先輩。資料ってお金払うんですか?」

「1回目はタダみたいだよ」

「なら私も貰ってきます!」

 そう言って私はアカちゃんたちと受付に向かいました。


…………………………………


……………………………


………………………


 受付で資料を受け取った私たちがエントランスに戻ると、そこにお兄さんの姿はありませんでした。

「……あー、たぶん兄さんなら訓練場にいるんじゃない?」

「「え?」」

「さっき私たちをガン見してきたキモい奴がいないじゃん。きっと兄さんだけになったところで絡まれたんじゃないかな。それで兄さんに禁句を言っちゃったんだよ……」

「え、先輩に禁句?」

 どうやら織姫ちゃんはお兄さんが身長や容姿について言及されることを嫌っているのを知らないみたいです。

「織姫ちゃん、お兄さんは身長や容姿のことを言われるのが嫌なんだよ」

「そうなの?」

「うん」

「クレアの言う通り兄さんにそれは禁句だど……ねぇそこの人!」

 アカちゃんは何か腑に落ちない点があったみたい。
 エントランスにいた男の人に話し掛けて行きました。

「なんだ?」

「さっき私たちと一緒にいたプレイヤーを探してるんだけど、これくらいの身長で燻んだ銀髪のプレイヤーを見なかった?」

「そいつならタイタンの野郎と一緒に訓練場まで行ったぞ」

「何か言い争いでもしたのかな?」

 そう言ってアカちゃんは男の人に近づきながら質問しました。
 男の人の視線はアカちゃんのおっきな胸に釘付けです。

「あ、あぁ……タイタンって確かに強いんだけど口が悪くてな。君たちの仲間に『そんな上等な装備をどこで手に入れた!』って絡んでたよ。その後、一言二言くらい会話したらタイタンが『チートを使ったから言えないんだろ!』って大きな声で怒鳴ったんだ」

 私の作った装備のせいで喧嘩になっちゃったみたいです。
 お兄さんに迷惑掛けちゃいました……

「それで情報を盾にして決闘を吹っ掛けたのかな?」

「その通りだ。よく分かったな」

「お兄ちゃんの妹だもん」

 そう言ってアカちゃんはドヤ顔しました。かわいい。
 でも胸を突き出したせいで男の人にガン見されてるよ?

「……あ、やっぱり男なんだな」

「パーソナルに書いてあるじゃん」

「あー、知らないのか。パーソナルの性別欄は自由設定だから男でも女に寄せたアバターを使ってる奴は性別欄に女って書いてるぞ」

「え、マジ?」

「マジマジ。だから性別欄に女って書かれてても見てくれが女なら"男性ロールプレイをしてる女"って思われることもあるのさ」

「「「へぇ……」」」

 知りませんでした。女の人にアバターを寄せて何が面白いのか分かりませんけど、世の中には色々な人がいるんですね。

「と、とりあえず先輩のところに行こ?」

「ありがとうございました」

「いや、気にすんなって(眼福だったからな)」

「あ、露骨な視線はやめた方がいいよ。モテないから」

 そう言い残してアカちゃんと一緒に小走りで駆け出しました。
 ……でもエイトの組合に初めて来たのにアカちゃんは訓練場までの道を知ってるのかな?




⚫︎マヨイ

 僕は今、ストレスを発散している。

「て、てめぇ……」

「いやぁ……貫頭衣かんとういで武器を持っていない相手に攻撃を当てられもしないなんて本当にトッププレイヤーなんですかー?」

 クレアが作ってくれた装備をチート呼ばわりした上、アンティルールでの決闘を吹っ掛けてきた目の前の屑は決闘開始から僕に攻撃を掠らせることも出来ていない。
 ちなみにアンティルールとは互いにお金や装備、アイテムなどを賭けた勝負のことだ。これまで僕がしてきた決闘の中だと鳥野との決闘でアンティルールが適用されていた。

「ちっ……避けてんじゃねぇよ!」

「いやー、でアバターを制動させる訓練には緊張感のある決闘が1番だね」

 モーターが壊れて回転速度が遅くなったレトロな扇風機のプロペラのように目の前の男が持った剣は空気を斬り続けている。
 そもそも初対面の僕に対して「そんな上等な装備を何処で手に入れた!」と恫喝じみた質問をしてきたのだ。その時点で彼をエイトに入れることを許可した組合の評価が穴だらけであったことは明白なんだけど……まぁいいとしよう。

「ちくしょうめぇぇぇええ!!」

「扇風機にしては温い風しか送られてこないんですけどー?もっと頑張ってくれませんかー?」

 僕としては変異種から装備がドロップすることくらい教えても構わないと思っていたので「教えてもいいけど対価として何が出せるの?」と聞いたのだ。そうしたら彼は「フレンドになってやるよ」とか世迷言をドヤ顔で言い放った。

「ふざけんな!チート野郎!」

「あー、はいはい。待っててあげるから通報でもすればー?」

 もちろん交渉は決裂だ……っと視界の端に暁たちが映った。
 思っていたより時間を掛けすぎていたらしい。

「ぐふぅっ」


──パァァァンッッ


[決闘に勝利しました]


 ダンジョンに行く前にやらなきゃならないことが出来たので暁たちと今後の予定について話し合う必要がある。僕は腹パン1発でタイタンから彼が賭けていた装備以外の全財産を貰って暁たちのところに向かった。


───────────────
お読みいただきありがとう。
雉も鳴かねば撃たれまいに……南無

腹部破裂によってタイ/タンになってそうですけどデュラハン(頭は破裂)とどっちがマシなんですかね。

※ジャスティの容姿に関して
髪色は青で固定でした(覚醒関連の設定ド忘れ)
今夜まで募集していますので感想お待ちしてます。
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