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本編
第137話 アカトキは挑む。
しおりを挟む⚫︎アカトキ
[決闘の申請を受諾しました]
[30秒後に決闘を開始します]
お兄ちゃんとの模擬戦。正直、勝ち目はほぼない。
それでも挑戦したのは織姫をギルドに入れたいからだ。今の織姫は挑もうとしている相手がバグキャラであることを上辺でしか理解できていない。このままだと蹂躙されるのがオチだ。
[残り20秒]
だから私はお兄ちゃんの喧嘩を売られれば必ず買う悪癖を利用して織姫に現状を理解してもらおうと考えた。あと京が一の奇跡で私が勝てたら織姫がギルドに参加するのを認めてもらうつもりだ。
[残り10秒]
「はぁ………すぅ………はぁ………」
カウントダウンが残り10秒を切ったところで雑念を払って意識を切り替える。これから私が挑むのは理不尽の権化、おそらく現時点で最強のプレイヤーだ。取り回しの悪いハルバートやタワーシールドではお兄ちゃんの動きについていけない。だから今回使うのはクレアに作って貰った片手剣だけでいい。
[決闘開始]
「(縮地)」
開幕速攻。この日のためではないけれど、ずっと秘密にしていた技能の思考発動を解禁する。杖も槍と同じように懐に潜り込まれれば弱いはずだ。
「(飛撃)」
私は一気に距離を詰めて攻撃技能を放つ。
飛撃は透明な斬撃を放つ回避の難しい技だ。これなら後ろに下がるだけでは回避できない。しかし、飛撃を放とうと剣を振り上げたところを杖で外側に弾かれた。飛撃は不発に終わる。
「(縮地)」
バランスを崩してしまえば後は滅多打ちにされて負けてしまうので縮地を使って距離を取る……と見せかけて死角に回り込んで攻撃を仕掛ける。今度は技能を使わない。何故なら攻撃技能は発動に腕を大きく動かすものが多いからだ。比較的コンパクトな腕の動きで発動できる飛撃が通用しなかった以上、お兄ちゃんに攻撃を当てるにはお兄ちゃんの想像を超えた工夫が必要になる。
「っ」
死角からの攻撃は予想通り回避される。私が縮地を使った直後、お兄ちゃんは数瞬前まで私がいた方向に前進したのだ。しかも、私が振り切った剣を構え直すまでの極短時間の内に体勢を整えられてしまった。飛撃を使うタイミングを間違えたかもしれない。
「はぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
体勢を整えたお兄ちゃんが攻めてくる前には吶喊の技能を発動させながら攻撃を仕掛ける。吶喊は低確率で相手に萎縮の状態異常を与える効果と自分を含めたパーティメンバーのステータスを一時的に強化する効果を併せ持った便利な技能だ。ただ発動条件に"大声を出すこと"とあるので思考発動できないほで少し使いにくい。あと普段使いするにはちょっと恥ずかしい。
「(縮地っ!からの飛撃!)」
少し大振り気味に振り下ろした私の一撃が再び杖に弾かれる直前、私は縮地を使ってまた死角に回り込んだ。これならお兄ちゃんは身体のバランスを崩しているから回避するのは難しいはず。それに今度は飛撃を使っているので前進するだけでは避けられない。
「えっ」
「ちっ」
必勝を機したはずの一撃を振り下ろし終わる直前、鋭い蹴りによって剣が弾き飛ばされた。痺れた腕が私に負けという現実を突きつける。お兄ちゃんを相手に慣れない徒手空拳で勝てるわけがない。それに頼みの綱だった縮地も連続で使えるのは3回までだ。
やっぱり私じゃお兄ちゃんには勝てなかったよ……
[決闘に勝利しました]
「え?」
⚫︎マヨイ
「ちっ」
蹴りを暁の剣の腹に当てて弾き飛ばしたものの僅かにダメージを受けてしまった。おそらく何かの技能の効果か、武器の効果だろう。油断したつもりはなかったんだけどな。
「え?」
「アカトキの勝ちだよ」
暁のことだから盾を構えてダメージ覚悟で突っ込んでくると思っていたけれど、僕の想像の斜め上の戦い方で最後まで僕に反撃の隙を与えてくれなかった。
「嘘、ほんとに?」
「ほんとに。まったく、びっくりしたぞ」
「それじゃ織姫をギルドに入れてくれる?」
暁のお願いは予想していた通りの内容だった。
『いいけど模擬戦はするからな。それが終わるまでは黙ってろよ?』
『あ、うん。分かった』
かなり悔しいけど負けは負けだ。
お願いも無理難題ではないし快諾する。
「『もう1個お願いを聞いてやるから』別のお願いにしろ」
「え、う、うん……何か考えておくね」
軽く芝居をしてからクレアや織姫のいる場所に向かう。
「アカちゃん、すごい!」
「もうダメかと思ったよ~」
技能禁止というハンデがあったとはいえ負けたのは悔しい。
ここのところ楽しいことばかり……でもないけど少し弛んでいたみたいだ。藍香にお願いして勝負勘を取り戻したいな。
「お兄さん、よろしくお願いしますっ!」
「うん、よろしく。条件はアカトキと同じでいいよね」
「はい!」
次はクレアちゃんとの対戦だ。彼女の弓の正確さと連射速度は脅威にはならないけれど、暁のように不意を打たれて押し負ける可能性もないわけじゃない。おそらく開始直後から命中させることを優先した攻撃を連続して放ってくるはずだ。
クレアちゃんには少し申し訳ないけど堅実に勝たせてもらおう。
[称号:傲慢を獲得しました]
[技能:傲慢を習得しました]
[技能:天衣無縫を習得しました]
「ん?」
「どうかしましたか?」
突然のアナウンスを訝しむ。
このタイミングで称号と技能を得たのが不思議でならないのだ。
「ちょっと待って欲しいんだけどいいかな」
「もちろんです!」
クレアちゃんから許しを得たので自分のステータスを確認する。
まずはサブカルチャーでお馴染みの大罪の1つ、傲慢からだ。
名称:傲慢
分類:特殊 強化 事様
説明:強固な価値観からなる堅牢な精神性の証明
条件:傲慢に相応しい行動を取り続ける
効果:[技能:傲慢]の習得
所有する全ての称号と技能に下記の効果を追加する。
⚫︎全ステータスを5%上昇
⚫︎この効果は無効化されず看破されない
名称:傲慢
分類:特殊 強化 事様
説明:何者にも遜らない決意の証明
代償:傲慢以外の[分類:事様]を持つ技能を習得できない。
習得可能リストからの技能習得を制限する。
効果:[称号:傲慢]と[技能:傲慢]以外の称号または技能に習得難易度に比例する基礎ステータス上昇効果を追加する。また一部の素質と覚醒のステータス補正値を上方修正する。
どちらも基礎ステータスを恒常的に上昇させる効果だ。
シンプルで強力だけど、アバターを緻密に制御できなければ宝の持ち腐れにもなりうる。初めて覚醒を獲得した時のように身体が軽くなりすぎて転んでしまうわうなことがないよう気をつける必要がありそうだ。
名称:天衣無縫
分類:支援 特殊
説明:無為自然の極地に到達した者のみ習得できる技能。
所有者によって効果が異なる。
効果:一部技能の最大射程制限の撤廃。
遠距離攻撃の距離による威力減衰を無効にする。
進化制限解除
天衣無縫は習得したプレイヤーによって効果が変わる。これに関しては藍香から聞いていた通りだけど、僕のそれはどれも痒いところに手が届くような内容だった。
まず一部技能の最大射程制限の撤廃についてだ。これは僕の持っている技能では魔力弾と探索の2つの技能にしか影響はないようだ。とはいえ使用頻度の高い技能の強化は素直に嬉しい。
次に遠距離攻撃の距離による威力減衰の無効化だ。今のイベントが開始されるのと同時に入った修正をないものとする「それでいいのか運営」と言いたくなる強力な効果だ。今の僕のステータスならテコからアルテラまで攻撃を届けることも可能だろう。ピンポイントで狙うなら探索技能も併用しなければならないかな。
最後の進化制限解除についてはよく分からない。近いうちにアルテラの噴水で進化先が新たに出ていないか確認してみようと思う。
「ふぅ……ごめんね、待たせちゃって」
「だ、大丈夫です!」
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
タンクなのに盾を捨てた暁による大金星回でした。
名称:縮地
分類:移動
効果:1秒間、移動速度を認識限界速度まで引き上げる。
発動時に最大魔力量の3割を消費する。
制限:1日5回
マヨイの事様技能は傲慢でした。日本語の意味的には不遜の方が実態に近いのですが、そこは大罪を宛てたかった作者の都合で……(おい
天衣無縫の説明にある無為自然も本来の日本語とは少し違った解釈をしています。これはカッコいい四字熟語を使いたかった……のではなく当てはまる単語が私の語彙になかったからです。語彙が増えたら変更するかもしれません。
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