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本編
第134話 マヨイは指名される。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
「おまたせ」
「おっそーい!」
「そんなに待ってないわよ」
「お兄さん、おはようございます」
ゲーム11日目の今日はイベント最終日だ。
僕らは今日もテコの組合前にあるカフェに集まっていた。
「せ、先輩、おはようございます」
「おはよう」
今日は、あるいは今日も織姫がいる。
どうやら藍香と暁に誘われたらしい。
「さて、真宵。織姫のギルド入りなんだけど……」
「今のところ条件を緩和させるつもりはないよ」
「覚醒を獲得していて高いプレイヤースキルを持っている、が条件でいいかしら」
「あと理想を言えば人柄も考慮したいけど、そこら辺を見定めるのは僕らには難しいからね」
鳥野クリスのような明らかな問題児なんて早々いない。
それに僕の人柄だって褒められるようなものじゃないからね。
「それなら実力については今後のためにも基準が欲しいわね」
「基準か……織姫には変異種をソロ狩りできる程度とは言ったよね?」
「はい……でも私よりも位階の高い変異種は少なくて……」
「あー、そんなことも言ったっけ……ごめんね」
ちなみに今の織姫の位階は51だ。平均的なプレイヤーより少し高い。素質は前に見た時は格闘家と狩人たったはずだけど、今は高位格闘家とサバイバーに変化している。覚醒に関しては格闘家とランナーの2つを獲得していた。
「なら戦ってみましょう」
「え」
「織姫が戦いたいと思った相手を指名していいわよ」
「な、なら……先輩と戦ってみたいです!」
僕か……負けることはないだろうけど、覚醒を獲得した時に同時に習得する技能──覚醒技能と言うらしい──は強力なものばかりだ。織姫の実力を見るためにも慎重に相手をしたいね。
「なら組合の訓練場に移動しようか」
「しようかー」
「え、猫?」
どうやら帽子の中で寝ていたククルが起きたらしい。
「ククルちゃん、起きてるんですか?」
「クレアママだー!」
「はーい、ママですよー」
そう言って僕の頭の上からククルを抱きかかえたクレアちゃんがククルに頬擦りした瞬間、背筋に氷嚢の中身をぶちまけたかのような怖気が走った。
「クレア」
「ひ、ひゃいっ」
「いつの間にククルと会話できるようになったのかしら」
「き、昨日、お兄さんとダンジョンに行ったときです……」
「へぇ……」
そう呟いて僕をチラ見する藍香の目は据わっていた。
怒っているというよりは拗ねている感じだ。
「このひとだれー?」
「アイだよ」
「アイママ!」
「え、ママ?」
そう言ってククルはクレアちゃんの腕をすり抜けて藍香の胸元に飛び込んだ。クレアちゃんはまるでお気に入りのおもちゃを取り上げられた子どものような顔をしている。
「アイママやわらかーい」
「きゃっ」
「アイさんズルいです!」
「え、どうしたの?」
「その猫がクレアと会長のことをママって呼んだの」
「織姫はククルが何言ってるか分かるの!?」
「え、う、うん。魔物言語理解は持ってるから」
「自分以外にテイムされているモンスターから名前と姿を覚えられることが条件みたいね。ククル、そこの女の子はアh……アカトキっていうのよ」
「あほとき?」
「ア・カ・ト・キ」
「アカトキママ!」
「私もママなの!?」
「ダメ……?」
「アカお姉ちゃんって呼んで欲しいな」
「ばがおねちゃ?」
「うっ……ママでいいよ」
「アカトキママ!」
やったね、ククル。ママが増えたよ!
矯正を即座に断念した暁は小声で「これはこれでありかも」とか言っているけど普通に聞こえてるからね?
「ククル?私の名前は織姫って言うの」
「おいひめ?」
「お・り・ひ・め」
「お・い・ひ・え!」
その後、数分ほど織姫はククルに自分の名前を呼ばせようと何度も言い聞かせ何とか名前を覚えさせることに成功した。しかし、問題だったのはそのあとだった。
「ククル、織姫はママじゃないの?」
「ママじゃないよ?」
「お姉ちゃんも嫌なの?」
「いや!」
織姫は自分のことをママやお姉ちゃんと呼んで欲しかったらしく、何度もククルにお願い──もはや懇願──したがククルはそれを拒否。どうやらククルの中では明確な基準があるらしい。
「なら私たちはママなの?」
「パパといっしょだった!」
「……刷り込みかしらね」
「刷り込みですか?」
「鳥の雛が卵から孵って最初に見た生き物を親だと思い込む現象のことよ」
「「「へぇ……」」」
アイガモの刷り込みとか有名だよね。
でも竜に刷り込みって何か想像しにくいな。
「……そろそろ訓練場に移動しようか」
「そうね」
「先輩、ごめんなさい……」
何の脈絡もなく織姫が僕らに謝罪したのは、脱線した話を少し強引に切り上げてテコの訓練場に移動しようと席を立ったタイミングだった。
「どうかしたの?」
「トリスが作ったギルドのサブマスターをしてる男子がこっちに来てるみたいで……その、たぶん組合で鉢合うと思うんです」
「なんで?」
「その、クラスの輪を乱してるとか言ってて……」
「あー、言ってたかも」
織姫を勧誘しているのは自分たちがクラスの中心、カーストの頂点にいないと気が済まないタイプのグループらしい。クラスの輪を乱す云々に関しては前に鳥野クリスにも言ったけど現実の情報を盾にした脅迫行為だと思う。しかも言ってる本人らには脅迫している自覚がないのだからタチが悪い。
「ねぇ……アカトキたちのクラスメイトって学年の問題児ばっか集めたクラスだったりする?」
「そ、そんなわけないじゃん!」
ここまで知った暁たちのクラスメイトにマトモなプレイヤーがいない。クレアちゃんや織姫は問題児には見えないが、暁は運動部の助っ人として色々な部に顔を突っ込んでることが各部の顧問をしている先生方から白眼視されていたはずだ。
「あ、いた!」
「お前らシカトとかマジで何様のつもりだよ!」
まるで親の仇でも見るかのような目で僕らを睨みつけながら男3人に女1人の4人組がこちらに向かって歩いてきた。暁たちの様子からして十中八九、問題のクラスメイトたちだろう。まさに噂をすれば何とやらだ。
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お読みいただきありがとうございます。
ママ呼び問題はひとまず解決です。
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