上 下
148 / 228
本編

第134話 マヨイは指名される。

しおりを挟む

⚫︎マヨイ

「おまたせ」

「おっそーい!」

「そんなに待ってないわよ」

「お兄さん、おはようございます」

 ゲーム11日目の今日はイベント最終日だ。
 僕らは今日もテコの組合前にあるカフェに集まっていた。

「せ、先輩、おはようございます」

「おはよう」

 今日は、あるいは今日も織姫がいる。
 どうやら藍香と暁に誘われたらしい。

「さて、真宵。織姫のギルド入りなんだけど……」

「今のところ条件を緩和させるつもりはないよ」

「覚醒を獲得していて高いプレイヤースキルを持っている、が条件でいいかしら」

「あと理想を言えば人柄も考慮したいけど、そこら辺を見定めるのは僕らには難しいからね」

 鳥野クリスのような明らかな問題児なんて早々いない。
 それに僕の人柄だって褒められるようなものじゃないからね。

「それなら実力については今後のためにも基準が欲しいわね」

「基準か……織姫には変異種をソロ狩りできる程度とは言ったよね?」

「はい……でも私よりも位階の高い変異種は少なくて……」

「あー、そんなことも言ったっけ……ごめんね」

 ちなみに今の織姫の位階は51だ。平均的なプレイヤーより少し高い。素質は前に見た時は格闘家と狩人たったはずだけど、今は高位格闘家とサバイバーに変化している。覚醒に関しては格闘家とランナーの2つを獲得していた。

「なら戦ってみましょう」

「え」

「織姫が戦いたいと思った相手を指名していいわよ」

「な、なら……先輩と戦ってみたいです!」

 僕か……負けることはないだろうけど、覚醒を獲得した時に同時に習得する技能──覚醒技能と言うらしい──は強力なものばかりだ。織姫の実力を見るためにも慎重に相手をしたいね。

「なら組合の訓練場に移動しようか」

しようかーみゃぁ

「え、猫?」

 どうやら帽子の中で寝ていたククルが起きたらしい。

「ククルちゃん、起きてるんですか?」

クレアママだーみゃみゃみゃぁ!」

「はーい、ママですよー」

 そう言って僕の頭の上からククルを抱きかかえたクレアちゃんがククルに頬擦りした瞬間、背筋に氷嚢の中身をぶちまけたかのような怖気が走った。

「クレア」

「ひ、ひゃいっ」

「いつの間にククルと会話できるようになったのかしら」

「き、昨日、お兄さんとダンジョンに行ったときです……」

「へぇ……」

 そう呟いて僕をチラ見する藍香の目は据わっていた。
 怒っているというよりは拗ねている感じだ。

このひとだれーみゃぁ?」

「アイだよ」

アイママみゃみぃ!」

「え、ママ?」

 そう言ってククルはクレアちゃんの腕をすり抜けて藍香の胸元に飛び込んだ。クレアちゃんはまるでお気に入りのおもちゃを取り上げられた子どものような顔をしている。

アイママやわらかーいみゃぁみぃ

「きゃっ」

「アイさんズルいです!」

「え、どうしたの?」

「その猫がクレアと会長のことをママって呼んだの」

「織姫はククルが何言ってるか分かるの!?」

「え、う、うん。魔物言語理解は持ってるから」

「自分以外にテイムされているモンスターから名前と姿を覚えられることが条件みたいね。ククル、そこの女の子はアh……アカトキっていうのよ」

あほときみゃ?」

「ア・カ・ト・キ」

アカトキママみぃみ!」

「私もママなの!?」

ダメみぃ……?」

「アカお姉ちゃんって呼んで欲しいな」

ばがおねちゃみゃぁ?」

「うっ……ママでいいよ」

アカトキママみぃみゃ!」

 やったね、ククル。ママが増えたよ!
 矯正を即座に断念した暁は小声で「これはこれでありかも」とか言っているけど普通に聞こえてるからね?

「ククル?私の名前は織姫って言うの」

おいひめみみ?」

「お・り・ひ・め」

お・い・ひ・えみゃみぃみみゃ!」

 その後、数分ほど織姫はククルに自分の名前を呼ばせようと何度も言い聞かせ何とか名前を覚えさせることに成功した。しかし、問題だったのはそのあとだった。

「ククル、織姫はママじゃないの?」

ママじゃないよみぃ?」

「お姉ちゃんも嫌なの?」

いや!」

 織姫は自分のことをママやお姉ちゃんと呼んで欲しかったらしく、何度もククルにお願い──もはや懇願──したがククルはそれを拒否。どうやらククルの中では明確な基準があるらしい。

「なら私たちはママなの?」

パパといっしょだったみにゃ!」

「……刷り込みかしらね」

「刷り込みですか?」

「鳥の雛が卵から孵って最初に見た生き物を親だと思い込む現象のことよ」

「「「へぇ……」」」

 アイガモの刷り込みとか有名だよね。
 でも竜に刷り込みって何か想像しにくいな。

「……そろそろ訓練場に移動しようか」

「そうね」

「先輩、ごめんなさい……」

 何の脈絡もなく織姫が僕らに謝罪したのは、脱線した話を少し強引に切り上げてテコの訓練場に移動しようと席を立ったタイミングだった。

「どうかしたの?」

「トリスが作ったギルドのサブマスターをしてる男子がこっちに来てるみたいで……その、たぶん組合で鉢合うと思うんです」

「なんで?」

「その、クラスの輪を乱してるとか言ってて……」

「あー、言ってたかも」

 織姫を勧誘しているのは自分たちがクラスの中心、カーストの頂点にいないと気が済まないタイプのグループらしい。クラスの輪を乱す云々に関しては前に鳥野クリスにも言ったけど現実の情報を盾にした脅迫行為だと思う。しかも言ってる本人らには脅迫している自覚がないのだからタチが悪い。

「ねぇ……アカトキたちのクラスメイトって学年の問題児ばっか集めたクラスだったりする?」

「そ、そんなわけないじゃん!」

 ここまで知った暁たちのクラスメイトにマトモなプレイヤーがいない。クレアちゃんや織姫は問題児には見えないが、暁は運動部の助っ人として色々な部に顔を突っ込んでることが各部の顧問をしている先生方から白眼視されていたはずだ。

「あ、いた!」

「お前らシカトとかマジで何様のつもりだよ!」

 まるで親の仇でも見るかのような目で僕らを睨みつけながら男3人に女1人の4人組がこちらに向かって歩いてきた。暁たちの様子からして十中八九、問題のクラスメイトたちだろう。まさに噂をすれば何とやらだ。


───────────────
お読みいただきありがとうございます。
ママ呼び問題はひとまず解決です。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Solomon's Gate

坂森大我
SF
 人類が宇宙に拠点を設けてから既に千年が経過していた。地球の衛星軌道上から始まった宇宙開発も火星圏、木星圏を経て今や土星圏にまで及んでいる。  ミハル・エアハルトは木星圏に住む十八歳の専門学校生。彼女の学び舎はセントグラード航宙士学校といい、その名の通りパイロットとなるための学校である。  実技は常に学年トップの成績であったものの、ミハルは最終学年になっても就職活動すらしていなかった。なぜなら彼女は航宙機への興味を失っていたからだ。しかし、強要された航宙機レースへの参加を境にミハルの人生が一変していく。レースにより思い出した。幼き日に覚えた感情。誰よりも航宙機が好きだったことを。  ミハルがパイロットとして歩む決意をした一方で、太陽系は思わぬ事態に発展していた。  主要な宙域となるはずだった土星が突如として消失してしまったのだ。加えて消失痕にはワームホールが出現し、異なる銀河との接続を果たしてしまう。  ワームホールの出現まではまだ看過できた人類。しかし、調査を進めるにつれ望みもしない事実が明らかとなっていく。人類は選択を迫られることになった。  人類にとって最悪のシナリオが現実味を帯びていく。星系の情勢とは少しの接点もなかったミハルだが、巨大な暗雲はいとも容易く彼女を飲み込んでいった。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……!

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

処理中です...