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本編
第131話 マヨイは回避できない。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
「うっ……」
蜂の巣があったらしい穴の手前までくると甘ったるい匂いと焦げ臭さが混じった匂いが鼻腔を刺激した。これが蜂の巣が焼けた匂いなんだろうか。
「結構深いな……」
深さは少なくとも僕の身長の倍はある。普通なら飛び降りるに度胸が要りそうな深さだ。もっとも飛べる僕には関係ないので飛行技能を使って穴を降りる。
「あ、マップが切り替わってる」
穴の底に着地してすぐ探索技能を使ってマップを埋めると、マップに表示されている地名が[エリア:蜂の巣(ダンジョン)]から[エリア:テコ大鉱脈]に切り替わっていた。
「魔力弾×10」
マップに表示されている限りでは[エリア:テコ大鉱脈]は横穴はない円柱状のエリアのようだ。大鉱脈というくらいだし壁を適当に破壊すれば何かと思い適当に魔力弾で壁を削ることにした。
名前:ヒヒイロカネ
分類:鉱石 宝石 素材
説明:龍脈由来の魔力を宿した鉱物。
環境に適応した性質を獲得すると言われている。
名前:ミスリル
分類:鉱石 素材
説明:聖銀とも呼ばれる金属
魔力との親和性が非常に高い
削られた壁からはヒヒイロカネやミスリルといったサブカルチャーではメジャーな金属が手に入った。ただ武器や防具に出来るような量ではない、むしろ指輪にできるかも怪しいほどだ。
『お兄さん、何処にいますか?』
『蜂の巣があった穴の下だよ。降りてこれそう?』
『……む、無理です』
『分かった。迎えに行くね』
飛行技能で穴の上まで戻った僕が目にしたのは寝入ってしまったククルを抱いたクレアちゃんだった。
「また掴まってくれるかな?」
「は、はぃ……」
顔が真っ赤になったクレアちゃんを抱えて再び穴の底まで降りていく。やっぱり中学生の女の子だし男にお姫様抱っこされるのは恥ずかしいみたいだ。
「ここが大鉱脈ですか?」
「うん。壁を壊したら鉱石が手に入ったよ」
「え、本当ですか!?」
「どうしたの?」
「えっと、実は──」
クレアちゃんによればプレイヤーが鉱石を集める方法は今のところ2つしかないらしい。組合や素材屋で買うか、テコの岩石地帯で掘り当てるかだ。これまでクレアちゃんが作ってくれた金属装備に使われた金属は組合で購入したものらしいのだが、その購入資金のために色々と苦労しているらしい。ちなみに岩石地帯で取れる鉱石は質が悪くクレアちゃんが作りたい装備の加工には適さないそうだ。
「質かぁ……」
「これです」
クレアちゃんが取り出したのは砂のようなものが入った2つの袋だ。どうやら中身は加工する前の鉄らしい。
名前:劣化鉄
説明:非常に脆い鉄
低温で融解するため加工しやすい。
効果:加工物の耐久値減少
名前:鉄
説明:標準的な鉄
効果:なし
「あ、劣化鉄の方は加工しやすいんだ」
「はい、でもお兄さんたちの装備の耐久値が低くなるのは嫌なんです」
安価で手に入るため現在の加工プレイヤーの多くは劣化鉄を使って武器や防具を作っているらしい。これらは組合で販売されている袋で販売額は劣化鉄が1袋50Rなのに対して鉄は1袋420Rするそうだ。しかも1袋から作れるのは短剣1本がいいところらしい。
「ありがとね。それより所持金は大丈夫?」
「劣化鉄で作った装備をマーケットに流してお金稼いでるんです」
「もしかしてギルドで1番お金持ってるのクレアちゃん?」
「まだ932万ですよ?お兄さんの方があるんじゃないですか?」
「僕は925万ちょっとだね。アイたちも同じくらいだし、そこまで差はないのかな」
ちなみに僕らの所持金が多いのはイベントで倒したモンスターの素材のほとんどを組合に売っているからだ。他のプレイヤーの所持金も全体的にインフレしているようなので僕らが特別多いわけじゃない……はずだ。
「それよりお兄さんが手に入れた鉱石を見せて貰っていいですか?」
「もちろん」
そう言ってアイテム欄からヒヒイロカネとミスリルを取り出してクレアちゃんに渡すと彼女の肩がプルプルと震え始めた。
「こ、これ!この壁を壊せば手に入るんですか!?」
「た、たぶんね」
「なら……えっと、あった!これです!」
そう言ってクレアちゃんが取り出したのは大きな筒とそれを支える脚が特徴的な兵器、ようするに大砲だった。
「え、大砲なんて作ったの!?」
「えへへ、アカちゃんが『いつかギルド対抗で戦争みたいなイベントがありそうだよね!』って言っていたので作ってみました!」
「鑑定してもいい?」
「もちろんです!」
名前:破城砲
分類:戦術級兵器
説明:その一撃は城砦を粉砕する。
効果:魔石をセットした状態で砲塔に魔力を充填することで発射可能になる。威力はセットした魔石の質と充填した魔力量、着弾地点までの距離によって算出される。
「この威力については確認してあるの?」
「これからです!」
「生き埋めになるのは嫌だから今回はやめとこう」
「うぅ……ならこれはどうですか!?」
そう言ってクレアちゃんが取り出したのは10㎝くらいの小さな金槌だった。
名前:ワレザクロ
分類:武器 携帯兵器 槌
説明:扱う者によって重さが変わる金槌。
効果:攻撃力+X(装備者の筋力と同値)
巨大化(重量100倍/与ダメージ10倍)
加工判定強化
制限:なし
「携帯兵器って……?」
「アイさんが『ドワーフと言えばハンマーよ』って言ってたので作ってみました。お兄さんから貰った鉱石で作ったお気に入りなんです!どうですか!?」
金槌を片手に持ったままブンブンと両手を振って褒めて欲しそうにこちらを見るクレアちゃんを見てツッコミを諦めた。藍香が元凶っぽいから丸投げしよう。
「……いいんじゃない?それで壁を攻撃してみようか」
「はい!……えっと、巨大化!っと、と……」
だいたい2mくらいの大きさまで巨大化した金槌に最初は少しバランスを崩しだものの、クレアちゃんは巨大化した金槌を正面に構えて大きく振りかぶった。
「えいっ!」
──ドゴンッッッッ
次の瞬間、クレアちゃんの可愛い掛け声からは想像もつかないほどの衝撃がダンジョンに響いた。具体的には──
「生き埋めになる!クレアちゃん掴まって!」
足元に散らばった素材を回収しつつクレアちゃんの腰を掴んで飛行技能を使用した。大鉱脈の壁は崩落、僕の頭くらいの大きさの岩がいくつも降ってくる。それをアイテム欄に回収しつつ僕らはテコ大鉱脈から抜け出した。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
大砲を回避したのに生き埋めになりかけるマヨイでした。
マヨイの魔力弾約40万発と同等の「えいっ」です。
巨大化していない状態の通常攻撃でもマヨイの魔力弾8万発分の威力がありますが、元のサイズが小さく扱いにくいのでクレアのメインウェポンは弓のままです。
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