VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

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本編

第126話 藍香は間に合わない。

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⚫︎夏間藍香

 カフェで暁からはらわたが煮え繰り返りそうな話を聞かされた後、私と暁はログアウトして2人で織姫の家に向かうことにした。

「お姉ちゃん、本当に行くの?電話じゃダメ?」

「ダメ」

 今回の目的は織姫から詳しい事情を聞いて対策を練ること。いざと言う時に"全く無関係の第3者"であるよりも"被害者の友人"であった方が色々と楽 融通が効くのは間違いない。だからまずは"現実で交流がある"という事実を作る必要がある。

「いきなり行って会えるかなぁ……」

「安心しなさい。さっき教えて貰った家電で親御さんには事情を説明してあるわ」

「いつの間に……」

 合流前に織姫の家の電話番号を暁から聞き出してすぐに決まってるじゃない。織姫と直接面識があるわけではないので説明には少し手間取ってしまったけれど、どうやら織姫の様子がおかしいことは親御さんも気が付いていたようだ。

「このマンションの3階だよ」

「3階の何号室?」

「えっと……231号室」

 階段を上がり天瀬川あませがわと表札が掛かった扉の前までやって来た。階段を上がって僅かに乱れた呼吸を整えてからインターホンを鳴らすと数秒もしないうちに応答があった。

『はい、どなたでしょうか』

『先ほどお電話した夏間です』

『いらっしゃい。今開けるわね』

 そう言われた直後、扉の鍵を開けて姿を見せたのは妙齢の女性だった。おそらく彼女が織姫のお母さんなんだろう。

「あら、暁ちゃんも一緒なのね」

「はい、お久しぶりです」

「とりあえずあがって頂戴」

「「お邪魔します」」

 通されたリビングには見覚えのある容姿をした女の子がいた。
 ほぼ間違いなく彼女が天瀬川織姫なんだろう。現実と全く同じ容姿のアバターでゲームをしているとは聞いたけどゲームのアバターの方が髪が長いわね。陸上部らしいから現実では髪を短くしているのかしら。

「暁、生徒会長も。ごめんなさい……」

「気にする必要はないわ。あと私のことは藍香でいいわよ」

「はい、藍香先輩。……暁から聞いたんですか?」

「ええ、触りの部分だけね。このままだと私たちも無関係ではいられないでしょうから直接話を聞きに来たのよ」

「最初は鳥野がギルドを作ったってグループメッセージで送ってきたんです。それで──」

 ギルドを立ち上げた鳥野クリストリスはクラスメイトやその知り合いを片っ端から勧誘したそうだ。真宵から指摘されたにも関わらず、暁を迷惑プレイヤーのレベリングに付き合わせたのと同じ論法で誘ってきたらしいので織姫はすぐ断ったらしい。

「私は真崎先輩のギルドに入りたくて……だから無理だって断ったんです。そうしたら"お前のせいであいつの個人情報がネットに流出するかもな!"ってメッセージがきて……」

「それなんだけど、そもそも私と真宵の個人情報は流失してるから気にする必要ないわよ」

「え、何があったんですか!?」

「私と真宵って配信者ストリーマー……あ、配信者って言ってわかる?」

「動画配信してお金を稼いでる人ですよね?」

「そうよ。それで、私と真宵は配信者なのよ。ちょっと事情があって大まかな住所や家族構成はもうネットに流出しちゃってるわ」

「えぇ!?」

 どうやら織姫は私たちが配信者として活動していたことを知らなかったらしい。活動していたのは3年も前のことだし、そこまで有名ではなかったから知らなくてもおかしくない。

「メッセージアプリのスクショは撮ってあるかしら」

「はい、暁に言われて撮りました」

「なら後は……そうね、もし直接会った時に脅されたらコレを使いなさい」

 そう言って私はカバンからボイスレコーダーとスタンガンを出して机の上に置いた。ボイスレコーダーは脅迫の証拠を押さえるため、スタンガンは襲われた時の自己防衛のためのものだ。
 本当なら万が一に備えて防犯ブザーやピルも欲しい。ただ私の防犯ブザーは使えないし、ピルは産婦人科で処方してもらうのが1番だ。

「あと暁、明後日の登校日は常に一緒にいるようにしなさい」

「う、うん」

「織姫、私のアカウントを教えるからメッセージアプリのスクショを転送してくれないかしら」

「分かりました」

「それと織姫のお母さん」

「な、何かしら」

「今から2.3時間、お時間をいただけませんか?」

「ええ、大丈夫よ」

「実は私、織姫さんを脅迫している子のお爺さんと面識があるんです。とても厳格な方なので話を通しておけばトラブルになった時に色々と助けていただけると思います」

 真宵も面識があるのだけど気がついた様子はなかった。
 苗字が違うからだと思うのだけど、ここら辺に剣術道場は1つしかないのだから少し考えれば察しが付く。

「なら織姫も連れてっていいかしら」

「え」

「もちろん大丈夫です」

 織姫のお母さんの一存で織姫も連れて行くことになった。


…………………………………


……………………………


………………………



「この度は孫が娘さんに卑劣な真似をしたようで……本当に申し訳ない」

 私たちが鳥野クリスの祖父である寺門てらかどのお爺さん──寺門和馬かずま──に会いに行くと居間に通された。そこで訪れた目的から説明しようとしたのだけど、その前に謝られてしまった。しかも土下座だ。

「お爺さん、それ、誰から聞いたの?」

「真崎の小僧から『お前の孫が妹の友達を脅迫している』と言われてな。言葉の裏に隠しきれぬほどの怒気を感じたわい」

「……その卑劣な孫がこの場にいないのはどうしてかしら?」

「しらばっくれおったからな。上辺だけの謝罪なぞ誰も望んでおらんじゃろ。あいつは今頃は自室で泣きべそかいておるわ」

「なきべそ?」

「はっはっは、例のゲーム機をだけじゃ」

 豪快なところも変わってないわね。ゲームのハードを壊された鳥野には同情するけど、まさに自業自得だ。このお爺さんに自分のやったことがバレればどうなるかくらい予想できなかったのかしら。

「はぁ……どうせそれだけじゃないんでしょう?」

「当たり前じゃ。まだ本人には伝えておらんが近いうちにクリスを親戚筋が住職をしている寺に出すことにした」

「え、そ、そこまでしなくてもっ」

 それを聞いた織姫のお母さんは事態が想像よりも深刻なものだと理解したのか狼狽してしまった。暁と織姫も少し驚いているようだ。

「真崎の坊主の話じゃ脅されたのは天瀬川さんの娘だけではない様子でな。警察沙汰にされたくなければ身内の恥は身内でカタをつけろと発破を掛けられたんじゃよ」

「そうですか……」

「あれ、これで終わり?お姉ちゃん、私いる必要あった?」

 しかし、これで一件落着とは行かなかった。居間の襖を乱暴に開けて入ってきた鳥野が織姫に襲い掛かったのだ。タチが悪いことに片手には包丁を持っている。

「死ねぇ!!」

 問題が解決したことで安堵し気が緩んでいた私は反応するのが遅れてしまった。寺門のお爺さんも距離的に間に合いそうにない。万事休すかと最悪の展開が脳裏をよぎった時、飛び出したのは暁だった。

「なっ……離せっ」

「嫌だッッ!!」

 こうして出来た僅かな隙に鳥野の背後に回り込んだ寺門のお爺さんが鳥野の首を背後からキュッと締めて気絶させた。私としては暁が鳥野に刺されないかと冷や汗ものだった。まったく後で真宵に叱って貰おうかしらね。

「まさか孫がここまで愚かだとはな……」

 このあと寺門のお爺さんは容赦なく孫の腕を縛って警察を呼んだ。事情説明などもあって私たちが帰路についたのは2時間も後のことだった。


───────────────
お読みいただきありがとうございます。
鳥野クリスは少年院行きになりました。
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