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本編
第125話 マヨイたちは飽きた。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
「兄さん、こっち!」
「おまたせ」
「気にする必要はないわよ。リスポーンエリアに出たっていうドラゴンと戦闘していたんでしょ?」
「そうです!お兄さん、掲示板で話題になってますよ!」
「え、もう?」
それを聞いて掲示板を確認すると、確かに僕のことが──紫色よドラゴンについてのオマケとして──話題に昇っていた。てっきり誹謗中傷でもされているのかと思ったけれど、マードックさん本人が「俺が助けを求めたんだ」と書き込んでくれたおかげで少数派だ。
「この最後の爆発は魔力弾かしら?」
「そうだよ。地面と水平に放てば街に被害が出るから工夫したんだ」
「なんか未発見の技能だって言われてるけど違うんだ……」
どうやら僕が起こした最後の魔力弾による爆破が何なのか気にしているプレイヤーがいるようだ。その中でも未発見の技能だという説が大半で、次に多いのが複数の技能の組み合わせだ。中には僕が技能名を口にしていなかったことを指摘している勘のいいプレイヤーもいるけれど、特に触れられることもなくスルーされてしまっている。可哀想に。
「複数の技能の組み合わせでも同じことは出来そうだからいいんじゃない?」
「爆破とストックのコンボ説が有力みたいね」
「どんなコンボなんですか?」
「爆破は指定した範囲を爆破して火属性ダメージを与える魔術よ。威力は高いのだけど1度使うと30秒も使えなくなるのが欠点ね。ストックは指定した技能の効果をストックする技能よ。同じ技能なら99までストックできるようだし、大爆発を起こすのは不可能じゃないわ」
「そのストックって技能、かなり便利そうだね」
「そうね。変異種を倒す手段として魔術を数十回ストック、遭遇した直後にパーティメンバー全員で使用するという戦術がメジャーになりつつあるわ」
ちなみにストックで指定した技能をストックせずに発動させることはできないらしい。実質的に技能枠を2つ使った必殺技みたいなものだ。
「面白そうだけど少し強すぎる気がする。テイムで技能弱体化の前例が出来たわけだし、これも修正されるんじゃない?」
「その可能性は高いわね。……そういえばテイムで思い出したけどククルは?」
「帽子の中。さっきから反応ないし寝てるんじゃないかな」
そう言って頭の帽子を指をさす。
「無理に起こすのも気が引けるわね……」
「どうしたの?」
「他のプレイヤーがテイムしているモンスターと会話できるようになる技能があるみたいなのよ」
「そんなのあるんだ。リストから習得できる技能?」
「いえ、他のプレイヤーがテイムしているモンスターとの友好度が一定以上になることで自動的に習得するみたいよ」
「習得枠を潰さないなら取っても問題ないのか」
リストから習得できる技能は原則10個までだ。しかも1度習得した技能を未習得状態にするには面倒なクエストをクリアする必要があるらしい。いくら同系統の技能なら統合することが可能であっても軽々にリストから習得するのは控えるべきだ、という考えがプレイヤーたちの中で主流になっている。
ちなみに僕の場合はデメリットなしで技能の統合を行えるので他のプレイヤーよりは軽い気持ちでリストから技能を習得している。習得したのに使ってない技能も多いのでイベントが終わったらダンジョンに挑戦しつつ、そこら辺を試していこうかな。
「で、どうする?」
「イベントランキングもギルドランキングも上位は確定しているし、このままイベントは放置でいいんじゃないかしら」
「で、本音は?」
「飽きたわ」
「「「わかる(わかります)!」」」
僕は何周したかカウントしてないけれど50周は超えているのは間違いない。飽きてしまうのは仕方のないことだと思う。
「それじゃあ今後の予定について話し合おうか」
「そうね。私は気になってるアイテムがあるから手に入れたいわ」
「僕も欲しいアイテムがあるんだよね。あとはダンジョンに挑戦したいと思ってる」
「「「ダンジョン?」」」
「アルテラでダンジョンを見つけたんだけど、そこに入るには実績を積まないといけないみたいなんだ。だからテコの北にあるらしいダンジョンから挑戦しようと思ってる。クリアしたら特別な何かがあるってわけじゃなさそうだから一緒に行動するなら優先順位は低めだね」
ダンジョンに感じて分かっているダンジョンに冠する情報を共有するとテコ北部に存在するダンジョンのボス──宝石蜂という変異種──に対してにクレアちゃんが興味を示した。
「宝石!ダンジョンで出るんですか!?」
「組合で貰った資料だとダンジョンの奥にいる宝石蜂って名前の変異種が宝石類をドロップするみたいだよ」
「行きたいです!」
クレアちゃんによると作成中の装備品を完成ささるために宝石が大量に必要なんだとか。以前、僕が見つけてきた宝石では代用できないらしく、ちょうど困っていたらしい。
「アカトキは何かしたいことはある?」
「したいこと、とは少し違うんだけど──お姉ちゃん、織姫ちゃんをギルドに入れてあげられないかな?」
「織姫?あの真宵に抱きついた子?」
「お兄ちゃんには話したんだけど──」
暁が織姫の置かれている状況をいくつかの新情報とともに藍香に説明するが、その説明が進むにつれて次第に僕らの機嫌は悪くなっていった。
「本人の個人情報を楯にギルドに加入するように脅すだけならともかく、まさか真宵への恋愛感情まで利用するなんてね」
「許せないです」
織姫が僕に告白したことは暁たちの学年ではそれなりに有名らしく、トリスは僕の個人情報を楯にしてギルドに加入するよう脅しているらしい。
そして現在、織姫と現実で面識のある友達のほとんどがトリスのギルドに加入している。脅迫だけでなく同調圧力も相当なもののようだ。
「僕の個人情報なんてネットに普通に出てるから気にする必要ないのに……」
配信者として活動していた際、僕らがプロゲーマーである父さんや叔父さんの子どもだと最初から公表していた。そのため僕と藍香の個人情報は住所を含めて少し探せば見つかってしまうのだ。今でも月に2~3通の手紙が届いたりしている。
「アカトキ、あとすぐログアウトして織姫の住所と連絡先を教えなさい」
「「え」」
「直接会うわ」
「それじゃ1度ログアウトするわね」
「お姉ちゃん!?……もうっ、私もログアウトするね!」
どうやら織姫の現状は藍香の琴線に触れたらしい。
藍香は暁の返事を聞くことなくログアウトしてしまった。
暁も藍香を追うようにログアウトしてしまい、僕とクレアちゃんが残された形だ。
「お兄さんはどうしますか?」
「すぐに戻ってくるだろうけど僕も1度ログアウトするよ」
僕も剣術道場をしているらしい鳥野の実家──もしくは親戚──に心当たりがあるし動いてみようと思う。よく考えてみたら剣術道場なんて僕らが住んでる地区に1つしかない。だとすれば十中八九、あの厳格を絵に描いたようような爺さんが鳥野のお祖父さんのはずだ。
「私は組合で加工作業しようと思います」
「分かった。なら僕が戻ってきたら一緒にダンジョンに行こうか」
「はい!」
この時、僕は今回の件が警察沙汰になるほど大きなものになるとは想像もしていなかった。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
剣道教室は結構ありますけど剣術道場なんて早々ないですからね。
久しぶりに艦◯れしてたらストックがピンチに……
ウ◯娘もそうですけどゲームしてると時間忘れちゃいますね。
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