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本編

第118話 マヨイは名前を付ける。

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⚫︎マヨイ

「竜なんだし、それにちなんだ名前がいいと思うのよ」

「兄さん、その子って雄?雌?」

「モフモフの赤ちゃん!可愛いですねー」

 周囲にモンスターがいない──すでに討伐済み─毛色ということもあって藍香たちは僕がテイムした原竜の幼体の名前に色々と意見を出してくれている。

「高位鑑定しても性別の欄がないな……両方?」

「性別がないってのは不便ね」

「なら兄さん的にはどっちがいい?雄?雌?」

「雌、かな?」

 なんか雄の竜って気性が荒いイメージがあるんだよね。
 だからといって雌の竜に穏やかなイメージなんでないけど、どっちか2択なら雌だろう。

「なんで?」

「いや、雄の竜ってなんか気性が荒いイメージがあるからさ」

「それじゃ雌って仮定して名前を決めましょうか。これで雄だったら真宵の責任ってことで」

「ちょっ」

「モンモフしてますし"モフちゃん"はどうですか?」

 確かに触ってみるとヒヨコの羽毛のようにフワフワとしている。
 それにしてもクレアちゃんはブレないなぁ……

「でも成長したらどうなるか分からないわよ」

「そ、そうですよね……」

「ドラちゃんなら大丈夫じゃない?」

「安直」

「うっ」

「ちゃん付けすれば良いってもんじゃないわよ」

「ぐっ」

「可愛いと思いますけど、なんか、普通?」

「かはっ」

 暁の案はダメ出し3連発によって却下された。
 個人的には安直な名前も悪くないんだけど、そういった名前は被りやすいという致命的なデメリットがある。ペットの名前って被るとトラブルの種になりやすいんだよね。
 それから藍香は主に神話などで語られるドラゴンの名前、暁はゲームに登場するドラゴンの名前、クレアちゃんは思い付く限りの女の子の名前を挙げてくれた。

「それならククルでどうかな」

「いいんじゃないかしら」

「最終決定権は兄さんにあるんだし、兄さんが気に入ったらそれでいいんじゃない?」

「ククルちゃん、とっても可愛いと思いますよ?」

 藍香と暁からククルカン──マヤ神話に登場する創造神、至高神の名前らしい──という名前が出て決まりかけたが、クレアちゃんが「可愛くない」と主張したためククルと短縮したのだ。
 手元に表示されっぱなしのキーボードで名前を入力すると白い毛玉のようにしか見えなかった原竜……いや、ククルは小さな翼を生やした猫のような姿へと変貌していった。相変わらず宙に浮かんでいるが翼をはためかせてはいない。おそらく僕や藍香のように何らかの技能の効果で浮かんでいるんだろう。

「にぃ?」

「可愛いわね」

「おっと、重さはほとんど感じないな」

 ククルは僕と視線が合うと一目散──というには速度は緩やかだったが──に僕の胸に飛び込んできた。僕に抱き止められたククルは何を思ったのか胸から肩、肩から頭の上、つまりは帽子の中へと移動していく。重さはほとんど感じないけど、このまま激しく動くのは振り落としそうで怖いな。

「帽子の下から顔を覗かせてるのがいいわね」

「可愛いです!触ってもいいですか?」

「いいんじゃない?……いてっ」

「にゃ!」

「ご、ごめんなさいっ」

 帽子を取ってクレアちゃんが触りやすいように屈んだまでは良かったものの、クレアちゃんがククルを僕の頭から持ち上げようとした瞬間、ククルが強い力で僕の頭にしがみついたのだ。

「にゃぁ……」

「あ、撫でるのはいいんですね。フワフワして気持ちいいです」

「私もいいかしら」

「もちろん」

「私も私も!」

「はいはい」

 その後、ククルを散々撫で回した女性陣だったが、しばらくするとククルは僕の頭にしがみついたまま眠ってしまった。軽く頭を振っても落ちる気配はないので、そのまま帽子を被せてイベントエリアから出ることにした。

「私もテイム覚えようかな……」

「そうね、せっかくだし全員で原竜をテイムしましょうか。たぶんパーティランキングの方でも同じようにテイムできるはずよ」

「でも凄い量のドロップアイテムを使っちゃいましたよ?」

「そうね……難易度を下げれば必要量も下がるんじゃないかしら。孵化したときの位階くらいしか違いはないと思うのよね」

「なんだったら周回して素材を集めてもいいしね」

「でもテイムを習得するのって大変なんでしょ?」

 僕は気がついたら解放されていたんだけど、普通は相当に面倒な条件をクリアする必要があるようだ。なんでも[モンスターから対等だと認められる]だったかな。そもそも言葉が通じるモンスターが確認はされていない現状では相当にハードルが高い条件だと思う。

「それならククルを撫でてたら満たしたわよ?」

「「え」」

「マジ?」

「マジよ」

 イベントは残すところ2日、全員が原竜をテイムできるか時間的にはギリギリ……いや、魔物素材の消費量からして2人分が限度かな。難易度によって必要量が違うのかもしれないけど、今回は検証している時間がない。どうしようかな。


…………………………………


……………………………


………………………


「戻ったか。異変の原因は掴めたか?」

 そして僕らがイベントエリアを出た直後、テコの南門に詰めていた兵士NPCから声を掛けられた。パーティランキングを周回していた時はイベントエリアを出ても何も言われなかったので、おそらくはギルドランキングに挑戦したプレイヤー限定で発生するイベントなんだろう。
 ここで素直に話してイベントに何か変化が発生したら面倒だ。ここは適当に受け答えしてはぐらかしてしまおう。

「原竜の卵が原因だったんだよ。ね、兄さん」

「何、それは本当か!卵はどうした!?」

 そんな僕の目論見は愚妹馬鹿ツキの発言で砕けちった。
 すぐ暁も自分がやらかしたことに気がついたのか顔が青ざめていく。

「壊したよ。原竜はテイムした」

「証拠となるものはあるか?テイムしたという原竜でも構わない」

「これでいいかな?」

 兵士NPCに詰め寄られている僕らを結構なプレイヤーが見ている。ククルの姿を衆目に晒したくなかった僕は念のために回収しておいた原竜の殻の中で最も小さなものをアイテム欄から取り出して兵士NPCに渡す。

「それと地図に卵があった場所をしるしてくれ」

「はい」

 ここで嘘の場所を記して後々で不都合が起こるのも嫌だし本当の場所を記してしまおう。あれから暁が何も言わないのは先ほどから暁を睨みつけている藍香とフレンドコールで話しているからだろうか。

「ありがとう。最後に身分証になるようなものは持っているか?」

「組合のものでいいですか?」

「大丈夫だとも。できればそちらのお嬢さん方もお願いできるかな?…………マヨイ、クレア、アイ、アカツキだな、功績が認められれば領主様から声が掛かるだろう。報奨も期待していぞ?」

 そう言って兵士NPCは部下らしき兵士NPCを読んで僕が印を付けた地図を渡してから元いた場所に戻っていった。

「……さて、説教をはじめようか」

「ひっ、ご、ごめんなさい!」

 この後、イベントを周回しながら延々と怒られた暁は罰としてクレアちゃん手製の「私は悪い子です」と書かれたプラカードをイベントが終わるまで掛け続けることになった。藍香から原竜をテイムできなくなっていた可能性があったと聞かされたクレアちゃんも少し怒っていた。そんなにテイムしたかったのか。

「……ねぇクレアちゃん、あれいつの間に作ったの?」

「えっと、3日くらい前にアイさんに頼まれて作りました。カルマ値というのが下がるほど重たくなる効果があるんですよ!」

「へ、へぇ……」

 どうやら藍香の依頼で前もって作ってあったらしい。
 そういえばカルマ値は高位鑑定を使えば見えるんだけど、僕のカルマ値は見事なまでにマイナスに振れていた。犯罪者プレイヤーになってないだけで少なくないプレイヤーをPKしているので当たり前なんだ。しかし、イベントを周回している内に気がついたらカルマ値が0になっていた。どうやらモンスターを倒すことでとマイナスになっていたカルマ値を0まで回復させることができるようだ。

「なんにせよ、パーティランキングの方は参加できてよかったよ」

「ギルドランキングの方は調査が終わるまで立ち入り禁止って言われちゃいましたもんね」

「まったく、あいつの迂闊さは誰に似たんだか……」

 それから約1人分の魔物素材を集めたところでログイン制限に引っ掛かりそうになったので1度ログアウトすることにした。夕飯の時間も近いし、ちょうどいいだろう。

「で、暁」

「ごめんなさい……」

「いや、そうじゃなくてさ。暁は母さんに昼飯は要らないって言った?」

「え、あ、え、ど、どうしよう!?」

 ちなみに僕は言ってある。健康に良くないから感心しないと少しお小言を貰ったけど最後は「ま、気持ちは分かるわ。でも適度に水分補給はするのよ?」と締めくくられた。
 これに関しては母さんの言う通りなので気をつけるつもりだ。まったく、ゲームすることに理解のある親をもって僕は幸せ者だよ。


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お読みいただきありがとうございます。

ダイスロールの結果は95でした。
ま、可愛いからいっか。
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