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本編

第116話 マヨイは相談される。

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⚫︎マヨイ

 ゲーム9日目。イベントが始まってから5日目の今日は朝食を食べてからすぐにログインした。どうやら暁が僕にゲーム内で相談したいことがあるらしい。暁が最後にログアウトしたのはアルテラなので、待ち合わせ場所であるテコの組合前にあるカフェに到着するのは1時間から1時間半後だろう……そう思っていた時期が僕にもありました。

『兄さん、何処にいるの?』

『テコの加工施設。……って、もう着いたの!?』

 僕がログインしてから10分も経たずに暁からフレンドコールが届いた。僕がログインした直後に確認したフレンドリストにはアルテラと表示されていたはずの暁の現在地はいつのまにかテコと表示されている。

『デスルーラすればいいだけじゃん』

『お前なぁ……』

『でもってちょっと怖いね』

 デスルーラを利用した移動は便利だけど、暁のようにVRMMOで気軽に自殺できるプレイヤーは少ない。現実的な恐怖感で精神的なブレーキが掛かるからだ。僕や藍香もデスルーラは躊躇いなく利用できるけれど、それは単にVRの世界で抵抗感が薄まっているからだ。VRMMOは初めての暁がそれを"ちょっと怖い"で済ませている暁はかなり異常だ。

『はぁ……で、もうカフェにいるの?』

『今着いたとこ』

『分かった。すぐ行く』

 僕が加工施設を出てカフェに向かうと、そこにいたのは暁だけではなかった。

「あ、兄さん!こっちこっち!」

「おはようございます」

「おはよう。たしかカオルだったね。どうしたの?」

 暁と一緒にいたのは暁と同年生の女の子だ。暁のクラスメイトであるユウタの双子の姉であるらしい。ただ鳥野や織姫と初めて会った時にもいたのだけど彼らのせいで印象が薄い。

「実は相談っていうのは私からじゃなくてカオルからなの」

「また安請け合いしたな?」

「うっ……しょうがないじゃん」

「はぁ……ま、アイたちとの待ち合わせまで1時間くらいあるなら話だけでも聞いてやるよ」

 頼まれたら余程のことがなければNOと言えない暁の性格は早めに矯正した方がいい気がする。ただ僕も妹の友達を無碍にするわけにもいかず、仕方なく話を聞いてあげることにした。

「……実はユウタがPKをしているみたいなんです」

「うん。知ってるよ?」

「え」

 昨日、僕がダイナミック自殺した時に倒したプレイヤーの中にユウタという名前のプレイヤーがいたのだ。このゲームはプレイヤー内での名前被りが出来ない仕様になっているので本人で間違いないだろう。

「で、カオルはどうしたいの?」

「PKをやめさせたいんです」

「どうして?」

「え?」

「僕からすればPKだってプレイスタイルの1つだよ。確かに他人に迷惑を掛かるのは印象がよくないし、僕だって見掛けたら相応の対応をする。でも彼らはそれを面白いと感じるゲーマーなんだ。それを非難する権利は僕らにはないよ」

 この意見には賛否両論あるだろう。ちなみに藍香は「仮想の世界だから人を殺していいとか言ってる倫理観のない猿は駆除するべきよ」と主張している。ちなみに格ゲーやFPS、そしてMMOでのPKKに関してはは「それはそれ、これはこれ」なのだとか。

「でも、PKは悪いことですよね?」

「本当にマズいことなら運営が禁止してるよ。実際、過度なセクシャルハラスメントや誹謗中傷は通報すれば対応してくれるよね?」

「そ、それはそうですけど……」

 厳密に言えば親告罪みたいなものだから禁止とは少し違うんだけど、たぶん中学生に親告罪なんて言っても分からないだろう。僕が知っているのは配信者をしていた頃、悪質な切り抜き動画を作られた時に弁護士さんに相談したことがあるからだ。

「カオル、兄さんの主張も間違ってはないと思う。でもユウタが誰かに迷惑を掛けていると思うと居ても立っても居られなくなったんだよね?」

「うん」

「兄さん、もし私が初心者をPKするようになったらどうする?」

 暁がPKをする、それも格下の初心者を相手をPKしてドヤ顔しているのを想像した僕は無性に腹が立った。

「キャラロスするまでリスキルするね。あと母さんに報告する」

「止めて!それだけはやめて!」

 報告しなければ僕が怒られてしまうのだから仕方ない。
 たぶん説教だけでなく相応のペナルティが科せられるはずだ。
 ちなみに僕は中学生だった頃、母さんをキレさせて藍香との接触禁止と年末年始の間は薬膳料理お肉禁止、こづかい全額カット(お年玉を含む)のペナルティを受けたことがある。

「ま、アカトキが何を言いたいのかは分かったよ。カオルは家族だからこそユウタを止めたいんだね?」

「はい」

「なら頑張ってね」

「え、手伝ってくれないんですか?」

「カオルは"家族だから"止めたいんだよね。ならユウタと接点のない僕が手を出すのは筋違いでしょ?」

「お願いします、私じゃユウタを止められないんです!」

 カオルは切羽詰まった様子で椅子から離れて僕に向けて土下座した。これには僕だけでなく暁も驚いた。まだ藍香たちはログインしていないし、もう少し詳しく話を聞くとしよう。


…………………………………


……………………………


………………………


「で、話を聞くだけ聞いて後輩を見捨てたわけ?」

 結局、カオルは泣いてゴネれば助けてもらえると思っていただけだった。さすがに呆れた僕と暁は彼女をカフェに放置して予定より少し早くログインしていた藍香たちと合流することにした。
 合流する道中の暁曰く「友達やめようかな」とのこと。

「そうなるね。でもアイが同じ相談受けても見捨てたでしょ?」

「確かに報復ならまだしも止めるのは無理ね」

「それに──」

、でしょ?」

「そうだね。あの自分は何もするつもりがない姿勢はさすがにね」

 カオルの態度からも全部丸投げにするつもりなのは見て取れた。
 たぶん、僕が協力すると決断しても彼女は率先してことに当たることはなかっただろう。

「兄さん、ごめん」

「気にする必要ないって」

「でも……」

 暁は落ち込みながら何か感情を抑圧しているようだ。どうやら自分が原因で僕が利用されそうになったことが相当に応えたらしい。

「無駄話はこれくらいにしてイベント行きましょうか」

「そうだね」

「……はい」

「アカちゃん、元気出して?」

「クレア……うん、ありがとう」

 僕らはイベントのギルドランキングに初挑戦するため、もはや話しかけ慣れたNPCに声を掛けイベントエリアへと突入した。

───────────────
お読みいただきありがとうございます。

宵の主張を要約すると『PKそのものはプレスタイルの1つだから構わない。でも見かけたら殺す』といったものです。実際、マヨイもPKしてますからね。本人に自覚がないだけで実際にやってることは藍香と大差ないです。
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