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本編

第115話 マヨイは暴走を止める。

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⚫︎マヨイ

「母さん、何か手伝うことあるー?」

「お皿出してちょうだい。あと暁が邪魔だから部屋の隅にでも移動させといて」

「はーい…………え」

 夕飯の時間になるまで人工魔石を作り続けた僕がログアウトすると一階のリビングでは暁が体育座りしたまま放心していた。どうやら母さんの説教お小言によって精魂尽き果てたらしい。

「お兄ちゃんのばかぁ……」

「少しは反省したか?」

「したけど、夕飯の後もあるって言われた」

「あるって、何が?」

言いたいことお小言

「……どんまい」

 ここで暁に助け舟を出して巻き添えを喰らうのは御免だ。
 それに暁は母さんの説教が終わればログインできると考えるみたいだけど、間違いなく父さんからも怒られるので今日はログインできないだろう。母さんが夕飯の後も暁を拘束するのは父さんの帰宅までの時間稼ぎかな。

「宵」

「ん?」

「勘のいい息子は好きよ。でも暁には黙ってなさい?」

「あ、ああ、うん」

 母さんの口だけみれば微笑んでいるのに目が据わっている。
 どうやら母さんは僕の予想以上に怒っているらしい。
 ゲームをすることに理解のある母さんたちは僕らが長時間ゲームをすることには特に文句は言わないし、今回の暁のような迂闊な真似に対しても普段なら注意するくらいで済んでいたので意外だ。
 何が母さんの琴線に触れたんだろう。

「確認したら公式のホームページで公開されている現在確認されている不具合の一覧にしっかり書いてあったわ。確認不足を棚に上げて相手に怒るだけだなんて論外よ」

「ソウデスネ」

 僕が例の不具合について知ったのは掲示板からだ。公式きらアナウンスがあったことを知らないとは言えない。それと怖いからツッコミ入れたりはしないけど、母さんの怒るポイントは世間のそれと少しズレてる気がする。

「宵、誰が世間知らずの鬼ババアですって?」

「言ってない!思ってもない!」

 そんなこんなで父さんの帰宅を待たずに夕飯を食べた僕は早々にリビングを出た。この後、説教地獄が待ち受けている暁はテレビを見ながらゆっくりと食べている。


…………………………………


……………………………


………………………


『──ってことで今日はログインできないと思うよ』

『分かったわ。レベリングは午前中にひと段落しているから大丈夫よ。ただ暁だけ位階が109になっちゃってるから私たち3人でレベリングしない?』

『え、なんで暁だけ?』

『種族によって次の位階に上がるための必要経験値が少ないからみたいです』

『それなら例の本に小さく書かれてたわよ。必要経験値の減少と状態異常に対する抵抗力の獲得、だったかしら』

 暁たちがギルドホームの地下で見つけた本にしっかりと書かれていたようだ。ちなみに本はギルドホームの本棚に戻してある。

『見落としてたのか……僕はテコにいるけどアイたちはアルテラだよね?』

『もうすぐテコに着きます!』

『今向かっているわ』

『なら南門で待ってるね』

 藍香たちと合流するために南門に到着すると何やら剣呑な雰囲気のプレイヤーたちがリスポーンエリアの近くで睨み合って──というより罵り合って──いた。どうやら片方のプレイヤーが連れている馬が原因のようだ。
 馬をはじめ騎乗できる動物や魔物をテイムできれば移動時間の短縮に大きく貢献してくれるだろうから興味がないわけではない。しかし、揉めごとに率先して首を突っ込むほど馬鹿じゃないので無視一択だ。

「テイムか……せっかくスキル持ってんのに使ってないのはもったいないかな」

 テイムは流行っていたはずなのに僕の知り合いでテイムモンスターを連れているのはルイだけだ。彼女がテイムしていた小柄な狼は戦闘でそこそこ活躍していた。細かなステータスは聞いていないけど、あの時点で圧倒的に格上の存在だった厄の攻撃を1発とはいえ耐えたのだから弱くなかったんだろう。

「おまたせしました!」

「待った?」

「いや、今来たとこだよ」

「デートの待ち合わせみたいですね!」

「それだと僕が二股してる最低野郎みたいだからやめて?」

 実際、周りのプレイヤー(主に男性プレイヤー)からの視線が痛い。視線だけでなく「二股野郎爆発しろ」とか「え、あれ男?」とか「あれ迷い家の人たちよね」という声も聞こえてくる。

「お兄さんは最低野郎じゃないです!」

「クレア、外野の声なんて反応してたら時間の無駄よ」

「は、はい」

 僕も藍香もそこそこ顔が売れているようなので変に絡んでくる相手もいな──

「なあ、俺らとパーティ組まねー?俺ら3人だしちょうどいいっそょ!」

「いいわよ。ただし何をするのかは私たちが決めていいかしら?」

「え、お姉さん?」

「マジ?」

「やったぜ」

「もちろんいいぜ。何処行くよ」

 これまでと違い、藍香は彼らの誘いを二つ返事で受けた。
 クレアちゃんが驚くのも無理はないだろう。これまで通りなら間違いなく断っていたパターンだ。僕は嫌な予感しかしない。

「イベントでいいかしら」

「もち。難易度は3か4でいいよな?」

 難易度3か4というのは僕らからすれば物足りない難易度だけど、現在の平均的な強さのプレイヤーが突発的に組んだ場合に挑むのなら妥当な難易度だ。むしろ難易度4なら安定してクリアできる風な様子の彼らは平均よりやや上と言えるだろう。
 3人組の名前はそれぞれポンとアンとタン、位階は全員42。素質もポンとアンが前衛、タンが後衛でバランスがいい。たぶん、言葉や態度がナンパっぽいだけで真面目なお誘いなんだろう。
 しかし、藍香の声色はを見つけたときのそれだ。

「難易度は適当で「ストップ!ちょっと待って!」──真宵?」

「ん、どうした?」

「これ前衛1人、後衛2人の僕らを見て声を掛けてきただけでナンパとかじゃないと思うんだ」

「え、そうなの?」

「そうなんですか?」

「あ、あぁ……女の子と組めたらラッキーくらいには思ってたけどな」

「ごめんなさい、またナンパかも思ってたわ」

「私もです」

「ほら、見ろ。やっぱりナンパだと思われでたじゃねぇか」

「自覚はあったんだ……」

「ん?アイは普通にオッケーしてくれたけど、なんでマヨイは止めたんだ?」

 確かに僕が止めたタイミングは不自然に思われても仕方ない。
 なにせ藍香の価値観ではナンパしてくる相手は害虫、どんな目に遭わせようが良心の痛むことのない都合のいいサンドバッグなのだ。

「アイ、僕らの周回に巻き込んでMPKしようとしたでしょ?」

「え、えぇ……その、ごめんなさい」

 僕がそこそこ怒っていることを察したらしい藍香が素直に頭を下げて謝る。ただ面と向かって「あなたをMPKしようとしてました」なんて言われたら反応に困るだろう。微妙な居た堪れない空気が辺りを支配する。それを破ったのはポンだ。

「まぁ未遂だし気にしないでくれ」

「ありがとうございます」

 恫喝される可能性が高いと思っていたけど、怒りを堪えるといつた様子もなく一切を許してくれた。こういった部分が大人の余裕というやつなんだろうか。

「それと3人とも位階を非公開にしてるけど俺らより上だったりする?あ、もちろん嫌なら答えなくていいぞ。マナー違反だしな」

「あんまり大きな声じゃ言えませんけど20以上は離れてますね」

 僕の位階が97、藍香とクレアちゃんの位階は98だ。
 僕ら側にパーティを組むメリットはないと言っていい。

「あっちゃぁ……やっちまったな」

「マジかよ。そっちの……クレアの装備を見て同じくらいだと思って声かけたんだ。悪いな、最初に確認しときゃよかったわ」

「す、すいません!」

「い、いや、よく見れば店売りのとデザインが似てるだけで別物みたいだし勘違いした俺らが悪いって」

「それな。だから気にしないでくれよ」

「そうそう、おじさんたちが悪いんであって君たちは悪くないぞ」

 どうやら彼らの軽いノリは半分くらいはロールプレイ演技だったようだ。藍香も勘違いするくらい堂に入った演技力は昔取った杵柄だと笑って教えてくれた。

「お詫びと言ったらなんだけど、1周だけ一緒に行かない?」

「いや、女の子に寄生するのはカッコつかないからやめとくよ」

「アン、そのドヤ顔キモいからやめとけ。ドン引きされんぞ」

「き、キモくははいだろ!な、キモくなかったよな?」

「はい。でも今の顔は生理的に無理です。近づかないでください」

 クレアちゃんの口撃によって致命傷を負ったアンが項垂れる。
 天然毒舌キャラはオリオンだけで十分なんだけど、クレアちゃんは「本当のことなのに、どうしたんですか?」と追撃トドメまでしっかりと決めてしまった。

「はは、そうだな、三十路のおっさんなんて若い子からすればそんなもんだよな……はは」

「すいません」

「いや、気にしないでくれ。またな」

 そう言って3人は立ち去った。

「僕らもイベント行こっか」

「はい」

「ええ。……真宵」

「ん、なに?」

「ありがとう」

「どういたしまして」

 この後、めちゃくちゃ周回した。


───────────────
お読みいただきありがとうございます。

アンポンタンはノリが軽いだけのおじさん3人組です。
JCとJKをナンパする三十路って絵面は凄く犯罪っぽいですが、MMOでは年齢なんて偽称し放題なので意味がありません。
私はMMOで異性に年齢や本当の性別を聞いてくる手合いは直結厨か年齢でマウント取りたいだけの人だと思ってます(偏見)
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