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本編
第112話 犯罪者たちは語り合う。
しおりを挟む⚫︎クズノハ(キツネ)
アルテラの南西部に存在するスラム街の一角。
私たちのクラン"百鬼夜行"のホームはそこにある。所属しているプレイヤーの大半は私と同じ犯罪者プレイヤーだ。しかし、普段なら10人近くのプレイヤーが常駐しているクランハウスには現在、私を含めて5人しかいない。
軽い気持ちでPKしようとした相手から予想外の先制攻撃を受け、結果的にメンバーの大半がキャラクターロストまで追い込まれたのだ。クランホームの場所を悟られないためにバラバラの方角に逃げた私たちがクランホームに集まった時にはすでに夜8時を過ぎていた。
「あれ、何だったんだ?」
「魔術攻撃の弾幕だとは思うけど、そもそもマヨイさんが魔術を使うなんて情報あった?」
「聞いてない。キツネさんは知ってたの?」
「知らなかったよ。そもそも私が潜入している朱桜會はマヨイと接点のあるプレイヤーが少ないんだ。彼の情報を得るなら他のギルドに潜入して情報収集した方がいいね。クラウンズとかどうかな、あそこのプロゲーマーたちはマヨイと面識があったはずだよね?」
現在、私はクラン"百鬼夜行"とギルド"朱桜會"の2つの組織に在籍している。このゲームにおけるクランの定義は『一定以上の権力を持った人物に認められた集団』のことを指すらしい。
私たちがクランのことを知ったのはゲーム3日目のことだった。犯罪者プレイヤーしか閲覧できない掲示板で知り合った私たちがパーティを組んでNPCを襲撃した際、このクランホームのあるスラム街のボス格の1人を結果的に助けたのが切掛だった。
その後、クランとギルドの掛け持ちが可能であると知った私たちは"身分偽装"という技能を習得したメンバーを各ギルドに送り込み情報収集することにした。各ギルドのメンバーがレベリングしているポイントを割り出して効率的にPKをするためだ。
「クラウンズは無理だな。サブマスのサタナリアが高位鑑定を使えるらしい」
「高位鑑定を持っていて、かつオレらより位階が高ければ"身分偽装"を看破できるんでしたっけ?」
「そうだよ。あ、あと言い忘れていた。たぶんマヨイも高位鑑定を持っていると思う」
ここにいるクランメンバーはお互いの本当のプレイヤー名を知らない。クランのメンバーリストも偽装した名前で表示されるため、普段は偽装されているプレイヤー名で呼び合っている。
「マジか。また会う機会があったら気をつけないと」
「クラウンズと迷い家への潜入は無理ですね。バスターズってギルドはどうなんですか?」
「バスターズも無理だな。あそこは同じ事務所に所属しているプロゲーマー同士の身内ギルドらしい。名前なんだったかな……ロストしちまった奴の1人が話を聞きに行った時にそう言われて断られたそうだ」
「なら次のターゲットはバスターズにしようよ」
「いや、それよりTTTだよ。テイムの弱体化のおかげでPKしやすいし、今のイベントで上位にいるなら何かしら良いアイテム持ってるんじゃない?」
テイムの弱体化の影響を受けたプレイヤーは多いが、私たちはテイムが弱体化するのは予想していたため影響は少なかった。それでも弱体化前はテイムモンスターを引き連れたプレイヤーをPKするのは数的不利もあって敬遠していた。しかし、弱体化した今なら単なるカモ同然だろう。
「次のターゲットを決める前に人数増やさないとね」
「あー、思い出させないでよ……でも普通、犯罪者プレイヤー見つけたからってリスキルする?」
「あれでしょ、犯罪者プレイヤーの人格は認めない!ってやつ」
「ま、言いたい気持ちも分からなくはないけどな。ただ1回死んだら実質的にゲームオーバーみたいな状況は改善して欲しいね。……要望出してみるか」
アルテラでリスポーンしたメンバーの中でも判断の早かった私たちは逃げることが出来た。しかし、逃げ損ねたメンバーはリスキルされキャラクターロストの憂い目に合ってる。
ソプラでリスポーンしたメンバーは偶然居合わせたクラウンズのメンバーにリスキルされたようだ。不運だったとしか言えない。
テコでリスポーンできれば良かったんだけど、アルテラの拠点を早々に手に入れた私たちはテコまで行ったことがない。ソプラに行ったことのあるメンバーですら少数派だった。
「他のプレイヤーに犯罪者プレイヤーが集団で行動しているのがバレちゃったしね。僕としてはメンバーの補充をしつつ、仲間の敵討ちがしたいかな」
「敵討ちか、相手は特定出来てる?」
「もち。アルテラはバルスって名前の槍使い、ソプラはチャラ王、ノウアングラウス、マードック、サタナリア……まぁクラウンズだね。クラウンズはサタナリアがいるから街中でキルするのは難しいだろうし、狙うとすればバルスかな?」
「あー、あの槍使いの女か。ロンを相手に良い勝負してたし、ありゃ間違いなく覚醒持ちだな」
ロンというのはキャラクターロストした"百鬼夜行"の中核メンバーだ。性格的にも難のあるプレイヤーだったけど、それでも覚醒していたからには相応のステータスを持っていた。そんな彼と対等以上に戦えていた彼女が覚醒しているのは間違いないだろう。
「方針として最優先はメンバーの補充だな。勧誘はいつも通りキツネに任せるぞ?」
「PKする時は相手を選んで、だね。しばらくはトッププレイヤーには手を出さないでよ?」
「そうだな。少なくとも高位鑑定持ちがいる迷い家とクラウンズには手を出さない方針で」
「おっけー。あとさ、スルーしてたけどイベント参加しない?パーティ部門の報酬に面白そうなの見つけたんだ」
「なんかあったか?」
「免罪符ってやつ。カルマ値がマイナスの場合、それを0にするアイテムだってさ。犯罪者プレイヤーが使った場合はカルマ値そのままで犯罪者プレイヤーじゃなくなるんだって。これ、戦闘中に使えたら面白そうじゃない?」
確かに面白そうなアイテムではある。それを使って相手を犯罪者プレイヤーに貶めるなんて遊びも出来きそうだ。ただ運営がそれの対策をしていないとは思えない。おそらくデメリットや使用制限があるはずだ。
それでも確保しておくに越したことはないだろう。
「いや、さすがに戦闘中に使えたりはしないだろ……」
「……パーティ名は?」
「僕らは犯罪者」
「まんまじゃねぇか」
その後、2時間掛けてパーティ名を決めた私たちは明日からイベントに参加することにした。中核メンバーの中には中学生を含め未成年が3人もいるからだ。そのためクランの方針として健康のためにも私たちは未成年者の夜21時以降の活動を原則禁止している。
この方針はクランマスターであるノーフェイスとサブマスターである私で決めたことだ。破るようなら嬲り殺す、そうメンバーには言ってある。
「「「おやすみ(なさい)」」」
「おやすみ」
「また明日」
こうして私たちクラン"百鬼夜行"の最悪とも言ってもいい1日は終わった。この日、私たちの誰もが掲示板を確認しなかったのは誰もが精神的に余裕のない状況だったからだろう。そのため私たち以上に最悪の1日になったプレイヤーがいることを知るのはしばらく先のことになるのだった。
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